組織コミュニケーション②:意義を考える(1)目的共有
組織開発
前回の「テレワークから考えるコミュニケーション」を踏まえて、今回から、組織におけるコミュニケーションの意義について考察していきたい。私が考える意義は、主に、「目的共有」「分業調整」「創造・学習」「関係構築」の4つある。今回は、1つ目の「目的共有」について述べたいと思う。
経営学者チェスター・バーナード氏によれば、組織の成立三要素として、「共通目的」「協働意思(貢献意欲)」「コミュニケーション」があるという。成立要素そのものに「コミュニケーション」が入っており、組織である以上コミュニケーションが必要不可欠であることは自明であるが、ここでは、もう一つの要素「共通目的」に着目したい。
つまり、共通目的はあるだけでは意味をなさず、その目的を組織の成員間で共有するためのコミュニケーションがどれだけとれているか?という点である。
有名なイソップ寓話に「3人のレンガ職人」というものがある。
ある人が、3人のレンガ職人に、「ここで一体何をしているんですか?」と問いかけた。すると、一人目のレンガ職人は、「見ればわかるだろう。レンガを積んでいるんだよ。朝から晩まで、俺はここでレンガを積まなきゃいけないのさ」と答えたという。二人目のレンガ職人は、「レンガを積んで壁を作っているのさ。この仕事は賃金がいいからやっているんだよ。家族を養っていくためにね」と。三人目は、「歴史に残る偉大な大聖堂を造っているんだ。ここで多くの人が祝福を受け、悲しみを払うんだよ!素晴らしいだろう!」と。
いずれもやっていること(レンガを積む)は同じであるが、そこにどんな目的や意味を見出すかによって、取り組む意欲も変わってくるということを示唆する寓話である。
翻って、我々の組織や仕事において、メンバーは目的をどれだけ理解しているだろうか。一人ひとりが自分自身で考えることももちろん大切であるが、目的についてのコミュニケーションが組織のなかでどれだけあるかは、組織の力を決める重要なファクターだと思う。
・オフサイトミーティングで、組織の目的や存在意義について対話する機会をもつ
・上司が部下に仕事の指示を出すときに、やることや方法(whatやhow)だけではなく、その目的(why)を伝える
・自分の仕事の目的がわからないときは気軽に上司やメンバーに相談する などなど。
合宿や研修、会議、朝礼などから日常会話まで色々なレイヤーでの手段があるが、あの手この手を尽くすことがポイントである。
目的を押さえることは、モチベーションだけでなく、ストレス耐性を強くしたり、行動を持続させたりする効果があるとも言われる。特に、変化が激しい環境下では、手段や方法をダイナミックに変えていく必要があるが故に、ブレない目的を持つことが重要である。また、昨今のテレワーク下ではひとりひとりの行動が見えにくいということがあるからこそ、目的を共有することの意義がますます重要になってくる。
いま一度、目的を共有するためのコミュニケーションがどれだけとれているか、振り返ってみてはいかがだろうか。
執筆者

飯塚 健二
(人事戦略研究所 副所長)
独立系システム開発会社にて、システムエンジニア・人事・経営企画等の実務を経験。その後、大手金融系シンクタンク、監査法人系ファームにて人事・組織コンサルティングに従事した後、現職。主に人材・組織開発領域において、中小企業から大手企業まで規模・業界を問わず、15年以上の幅広いコンサルティング実績を持つ。
これまでに培った実践知と学際的な理論知(社会科学、認知科学、行動科学、東洋哲学等)を駆使しながら本質的・統合的・実践的なコンサルティングを行う。一社一社に真摯に向き合い、顧客目線に立った支援スタイルを信条とする。
キャリアコンサルタント。GCDF-Japanキャリアカウンセラー。iWAMプラクティショナートレーナー。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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