なぜ、評価フィードバックはうまくいかないのか?

人事評価制度を効果的に運用していくためには、上司による評価のフィードバックは欠かせない。今年度の自分に対する評価はどうだったのか?どれだけ会社に貢献できたのか?どれくらい自分は成長したのか?来年度に向けて何を頑張っていけばよいのか? こうした承認欲求・成長欲求・貢献欲求は、個人差はあるにせよ、人は誰しも、大なり小なり持っている。節目でフィードバックをもらうことで、これらの欲求を満たしたり、さらなる欲求を喚起したりすることが、働きがい向上の要因の一つになる。
 
ところが、現実は、そもそもフィードバックがない、あるいはフィードバックはあるが5分程度で結果を伝えられるだけといったお粗末なものから、上司は相当な準備をして一人一人と向き合って伝えているにもかかわらず、メンバーにその真意や気持ちが伝わらないといったケースも多いのではないだろうか。それはなぜか。まずはフィードバックの機会と時間をきちんと確保することは当然のこととして、普段の行動を観察して具体的な事実を交えて伝えること、相手に伝わるコミュニケーションスキルを磨くこと、普段から信頼関係の維持・強化に努めること等々、評価者である上司に要求されることのレベルが質量ともに高く、それらができていないことが原因として考えられる。しかしながら、もう一つ重要な観点がある。得てして忘れがちなことであるが、それは被評価者であるメンバーのフィードバックの受け方である。
 
「フィードバックを受けることが大切である」「自分からフィードバックをもらいにいこうと思った」。これは、私がある企業で一般社員向けに行った研修での感想である。意外に思われるかもしれないが、案外、「そもそもフィードバックを受けることとはどういうことなのか、どういう心構えで受ければよいのか」といったことが分かっていない方も多いのではないだろうか。基本的なこととはいえ、フィードバックの受け方をきちんと被評価者が理解することが大切である。
 
加えて、ポジティブなフィードバックは誰しもうれしいものであるが、ネガティブなフィードバックは伝える上司も勇気がいるものであり、本当は伝えたくないかもしれない。受け取る側も耳が痛く、できればそっとしておいてほしいと思うかもしれない。ある意味では利害は一致しており、良いことは伝えて、悪いことはないがしろにしておくことが最も無難な選択と言える。ゆえに、当たり障りのないフィードバックになってしまうのも仕方がないことともいえる。
 
だからこそである。良いことも悪いことも含めてフィードバックすることの本来の意義を、評価者も被評価者も認識することが必要だと私は思う。その意義とは、それぞれのメンバーがさらに成長してより高いレベルで会社に貢献し、かつ自らの自己実現を果たすために、何ができていて次に何が必要なのかを認識すること。さらに、ダニング=クルーガー効果とも言われるように、人は誰しも、正しい自己評価ができず、自分を過大評価してしまうものであり、だからこそ他者からの自分に対する評価も取り入れていくことで、より的確な自己認識を促すことにつながること。そしてその自己認識が自分のキャリアにとってプラスに働くこと。こういった基礎認識を、評価者に限らず被評価者であるメンバーも持っておくことが、フィードバックをよりよいものにしていくために必要不可欠であると思う。
 
評価者研修を行うことは比較的多いかもしれないが、被評価者向けに、被評価者研修として、あるいは新入社員研修や中堅社員研修等の一要素として、フィードバックの受け方を学ぶ機会を設けてみることをぜひお薦めしたい。

執筆者

飯塚 健二 
(人事戦略研究所 副所長)

独立系システム開発会社にて、システムエンジニア・人事・経営企画等の実務を経験。その後、大手金融系シンクタンク、監査法人系ファームにて人事・組織コンサルティングに従事した後、現職。主に人材・組織開発領域において、中小企業から大手企業まで規模・業界を問わず、15年以上の幅広いコンサルティング実績を持つ。
これまでに培った実践知と学際的な理論知(社会科学、認知科学、行動科学、東洋哲学等)を駆使しながら本質的・統合的・実践的なコンサルティングを行う。一社一社に真摯に向き合い、顧客目線に立った支援スタイルを信条とする。
キャリアコンサルタント。GCDF-Japanキャリアカウンセラー。iWAMプラクティショナートレーナー。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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