製造業(メーカー)人事制度の構築ポイント

-もくじ-

  1. 製造業の人事制度を構築するにあたって
  2. 構築のポイント
  3. 製造業における人事制度 事例

1.製造業の人事制度を構築するにあたって

 同じ製造業でも、いずれの経営戦略をとるかによって留意点も変わります。

  • 「研究開発重視」の戦略をとる場合に気をつける点(チャレンジやコミュニケーションの促進等)
  • 「コストパフォーマンス重視」の戦略をとる場合に気をつける点(組織的な行動、継続的な改善活動等)

 貴社はどちらを重視しているかを踏まえて制度設計することが肝要です。

2.構築のポイント

職種別人事制度の導入

 製造業は、製造部門、研究・開発部門、営業部門、管理部門など、部門・職種が多岐に渡っていることか挙げられます。したがって、いわゆる「職種別人事制度」を導入するかどうかが重要な論点になります。職種別人事制度とは、営業職や製造職というように、職種ごとに等級や評価、賃金を変える人事制度のことです。職種別の評価を取り入れるレベルから、職種別に賃金を決めるレベル(基本給や手当の内容は極力共通にしておく方法と、完全に別々の体系を採用する方法がある)まで様々です。
 この職種別人事制度は、各会社の考え方や風土、採用・育成ポリシー等によって適・不適があります。例えば、職種により適正な賃金を設定できたり、専門性を育てたりしやすいというメリットがある一方で、職種間での異動が比較的多いと運用しにくかったり、職種間の上下感を助長してしまったりとデメリットもありますので、慎重な見極めが必要になります。

職種特性を踏まえた設計

 多岐にわたる職種それぞれの特性を踏まえて制度設計することが肝要です。代表的な営業職、研究・開発職、製造職、そして専門職について、気をつけるべき主な点は以下の通りです。

  • 営業職で気をつけること
    ⇒職務・プロセス評価とのバランス・組織・チーム貢献とのバランス
  • 研究・開発職で気をつけること
    ⇒中長期的な時間軸を考慮する・定量的な成果・業績に頼り過ぎない・事後評価を行う
  • 製造職で気をつけること
    ⇒組織・グループ単位での評価・減点主義の緩和・技能やスキルに対する評価
  • 専門職で気をつけること
    ⇒目的を明確にして導入する

3.製造業における人事制度 事例

事例① あえて「年齢給」を導入することで、円滑な制度運用につなげた事例

【制度改定の背景】

  • 地方で製鉄業を営む社員数約200名のA社。人事制度はこれまで明確なものはなく、創業社長が個々の働きぶりを考慮して賃金を決定していた。
  • しかし、複数拠点を開設し、社員数が増加している状況を踏まえ、一定のルールに基づき賃金を決定する仕組みの必要性を感じ、人事制度をつくることを決めた。
  • タイミングとしても、創業社長から2代目社長へと変わるタイミングであり、新体制確立の一助とすべく、改めて自社の考え方等を反映できるよう制度設計を行った。
■等級制度

(1)等級・役職・呼称を分離し、役職も再整理

 制度導入に伴い、役職については権限・責任が伴うもののみに整理し、数も絞ることで指揮命令系統が明確になるようにした。ただし、対外的なやり取りを行う際の呼称も考慮し、役職とは別途、等級ごとに呼称を用意し、これを名刺に記載可能とした。

等級・役職対応表

(2)職種別に求める能力、行動を整理

 等級制度は職能資格制度とし、「言語化した際に、各等級のレベル差が明確にわかる」ことを重視し、7等級制を選択した。
 また等級基準は、はじめて運用する管理者でも内容が理解できるよう職種別に定義することで、具体性を持たせ、昇格判定時の客観的な判断が行いやすいよう留意した。

等級 工場 ※一部の等級・内容のみ抜粋
4 ①段取りの指示が適切にできる
②機械停止の判断が適切にできる
③機械のメンテナンスを行ない、機械の故障を未然に防ぐことができる
④業務効率の改善に向けた取り組みを上位者に提案し、自身が中心となって推進できる
⑤顧客からの急な仕様変更の指示に対しての対応が適切にできる
・・・
3 ①段取りの指示を受けることなく、1人で作業できる
②機械の異変に気づき、メンテナンスの必要性、機械停止を上位者に進言することができる
③自身の担当する業務の進捗状況を把握し、上位者と適宜必要な報連相を行っている
④業務効率の改善に向けた取り組みを上位者に提案できる
・・・
2 ①段取りの指示に基づき、1人で機械操作ができる
②5S、工場内の安全管理についての基本ルールを徹底して行っている
③日常の機械の点検が確実にできる
④全体の流れを意識し、次工程が効率的に作業を進められるよう、丁寧な仕事を心がける
⑤担当業務の問題点、課題を整理し、改善に向けた取り組みを自ら行うことができる
・・・
1 ①5S、工場内の安全管理についての基本ルールを理解している
②メモを使う、復唱するなどして上位者の指示を正確に理解して仕事を進め、不明点は漏らさず質問することができる
③無断欠勤、遅刻がなく、規律を守っている
④トラブルが発生した際には、すぐに上位者に報告する
・・・
等級 営業 ※一部の等級・内容のみ抜粋
4 ①クレーム、イレギュラー発生時に社内外をうまく取りまとめられる
②顧客との信頼関係が構築できている
③顧客のニーズを正しく理解し、最適な提案ができるコミュニケーションスキルが習得されている
④業務効率の改善に向けた取り組みを上位者に提案し、自身が中心となって推進できる
⑤競合他社の情報収集を活かして、営業機会につなげられる
・・・
3 ①難易度の高いクレーム、イレギュラー発生時に、上位者の補佐ができる
②製品の特性、提案内容を正しく伝えるコミュニケーションスキルが習得されている
③業務改善に向けた取り組みを、上位者に提案できる
④傷などの製品不良の原因発見に努めている
⑤提案営業につなげられる幅広い製品知識を持っている
・・・
2 ①1人で問題なく営業できる製品知識がある
②簡単なクレーム、イレギュラーに1人で対応できる
③全体の流れを常に意識し、関係者が効率的に作業を進められるよう、丁寧な仕事を心がける
④業務効率の改善に向けた取り組みを自ら行っている
⑤ルーティンの営業において、1人で価格決定ができる
・・・
1 ①取扱いの多い製品について十分な知識がある
②クレーム、イレギュラーが発生した際は、適切な初期対応を行った上ですみやかに上位者に報告する
③仕事で必要なPCシステムを理解し、PC操作ができる
④顧客と会話するために必要な一般常識とマナーを備えている
⑤自社の事業内容について説明できる
・・・

(3)評価の中核を担う部門長を中心に基準を設計

 等級基準策定の際には、部門長を中心にメンバーを選抜して議論を重ねていくこととなった。具体的な基準作成の当事者となってもらうことで、人材育成への意識を高める狙いもある。

■評価制度

(1)はじめての評価者でも目線が合うよう、評価基準に具体性を持たせる

 はじめて評価制度を導入する際は、評価者が評価に不慣れなこともあり、適正な評価を行うことのハードルは一般的に高くなる。それを軽減すべく、評価基準に具体性を持たせ、解釈の余地を小さくなるようにすることで適正な評価が行いやすくなるよう設計している。

【製造職・一般社員の評価基準(抜粋)】

(2)簡易的な目標管理を導入

 ミッションを遂行する上で、目標管理を行うことは有効である一方、適切な目標設定を行うのは難しい。そこで、まずは目標を立てることに慣れるために簡易的な目標の記載を許容すること、PDCAの意識付けのために「PDCA」それぞれの観点で評価することを実施。評価は○、×の2段階のみで行い、○がついたら加点する形とし、評価全体に占める配点を小さくした。

製造職・一般社員の評価基準 簡易的な目標管理

【目標設定部分】

製造職・一般社員の評価基準 目標設定部分

【上記における評価項目の観点】

P・・・目標達成への十分な姿勢があったか
D・・・目標に対する具体的な行動が十分にあったか
C・・・目標に対しての意識が持続していたか
A・・・目標達成のための改善行動を行っていたか

■賃金制度

(1)円滑な制度運用のために、あえて年齢給を導入

 既述の通り、等級基準や評価基準をつくったものの、優秀さの要素を言語化しきれていないと感じていた。その原因を探ると、「長年の経験による熟練性に起因する貢献度というものは確実に存在するが、それは言語化しにくい」ということであった。そこで、年齢や経験に伴う熟練性については、各種基準に盛り込んで評価するのではなく、あえて年齢給を導入し評価・報酬に替える形とした。

年齢給・職能給

(2)役職手当の引き上げにより給与逆転現象を是正

 管理監督職の役職手当を引き上げ、非管理管理職との給与逆転現象を是正。同時に、役職者の数は絞った上で、役割責任の遂行を確実に求めた。

改正前・改正後の役職手当

(3)評価結果と賞与のつながりの明確化

 これまでも、月給×月数をベースとしつつ個別に増減の調整を行っていたが、増減が行われる判断基準は明示されていなかった。そこで、個別の評価結果がどのように反映されるかを算出式で明確にし、社員の評価に対する意識を高めることを狙った。

算出式
事例② 社員がレベルアップへの意識を高められるようにした事例

【制度改定の背景】

  • 製造業を営む社員数約60名のA社。人事制度はあるものの、年功的な昇格制度となっており、社員の成長意欲が削がれる状況であった。
  • 年功的な昇格運用となっていた原因は、「各等級に求められる実力レベルが明確になっておらず、昇格可否の根拠を明確に説明・判定できないことから、よほどのことがなければ一定の年数が経過すると等級を上げていたため」である。
  • また、等級間での給与の重複幅が大きく、「昇格してもあまり給与が上がらない」「昇格せずとも、年数が経てばそれなりの給与水準まで上がっていく」ということが発生するため、昇格への意欲が生まれにくく、社員の成長を阻害する要因となっていた。
  • 以上のような状況から、「社員の実力を適切に測り、実力に応じた処遇を実現することでレベルアップへの意識を高めていく」ことを目的に制度改定を行った。
■等級制度

(1)等級ごとに求められる要件を明確化

 等級要件について、具体性を持たせた明確なものとするため、職種別に業務内容を項目として設定した上で、各等級の基準をこれまで以上に細分化して言語化することとなった。職種の区分は、製造職、設計職、生産管理職、営業職、営業事務職、総務職とした。

【図表1:生産管理職の等級基準(抜粋)】

生産管理職の等級基準(抜粋)

(2)評価の中核を担う部門長を中心に基準を設計

 等級基準策定の際には、部門長メンバーも参画。「実態に合った具体的な基準とすること」と「基準作成の当事者となってもらい、人材育成への意識を高めること」を実現した。

■評価制度

(1)等級基準を評価指標として活用しつつ、姿勢面も評価できる形に

 等級基準の内容をそのまま評価の項目・基準として使用した(以下の図表2における「等級基準評価」の部分)。評価点が高い=その等級に求められることが出来ている、というシンプルな構図になるようにし、加えて、等級基準では記されていない姿勢面の評価も設け、社員の望ましい行動を促すようにした(以下の図表2における「意欲・姿勢評価」の部分)。

(2)「上位等級評価」を取り入れることで、昇格への意識付けを行う

 半期ごとの人事評価では、現等級としての仕事ぶりを評価することとなるが、昇格のためには1つ上の等級のことがある程度できる、あるいはできそうであるということが求められる。そこで、昇格のために必要なことを意識すべく、上位等級の基準に対しての評価を年1回行うことで、昇格判定や昇格への意識付けに活用した。

【図表2:生産管理職の評価表(抜粋)】

生産管理職の評価表(抜粋)

なお、評価の基準は、それぞれ以下のように設定されている。
●現等級評価
【5点】…等級基準の内容について模範的に実践しており、特筆すべきレベルであった
【4点】…等級基準の内容について確実に実践しており、期待を上回っていた
【3点】…等級基準の内容について確実に実践していた
【2点】…等級基準の内容について実践できていないことがあり、期待を下回っていた
【1点】…等級基準の内容について殆ど実践できておらず、大幅な改善を要するレベルである

●意欲・姿勢評価
 別途、評価基準を詳細に設定

●上位等級評価
【3点】・・・等級基準の内容について確実に実践できている
【2点】・・・等級基準の内容について実践できていないが、 次年度は実践できる見込みがある
【1点】・・・等級基準の内容について実践できておらず、次年度も実践するのは困難である

■賃金制度

(1)等級間の基本給のメリハリを適切に設定し、昇格インセンティブを高めた

 基本給はオーソドックスな号俸給を採用した。「仕事の実力以上の給与が出ないように上限を設定すること」「昇格時に社員が昇格メリットを享受できるようにすること」に留意し、以前よりも各等級の下限額を引き上げ、上限額を引き下げるような形での改定となった。

【図表3:基本給テーブルと号俸改定ルール】

基本給テーブルと号俸改定ルール

(2)役職手当の引き上げによる給与逆転現象を是正

 役職者に求める役割を明確にすると同時に、役職手当の引き上げを行った。非管理職との給与逆転現象を是正し、併せて役職者に役割責任の徹底遂行を求めた。

改定前と改訂後の役職手当

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