いよいよ人的資本開示が本格化!男女間の賃金格差開示で、企業間格差が露呈!?

先日、岸田首相は、新しい資本主義実現会議で、男女間の賃金格差(男性の賃金に対する女性の賃金の割合)についてホームページなどでの開示を企業に義務付ける方針を発表した。女性活躍推進法に関する省令を改正し、2022年7月に施行するという。賃金格差の是正を促して人材の多様性を高め、「人への投資」を強化することが狙い。従業員301人以上を常時雇用する事業主は、上場か非上場かを問わず対応を迫られることになる。また、101人以上301人未満の事業主への対応についても検討されることになっている。

 

そこで、世間水準として、いま実際にどの程度の男女間の賃金格差があるのか調べてみた。ここでは、厚生労働省による「令和3年賃金構造基本統計調査(*)」をもとに、企業規模別、産業別、新規学卒者学歴別、年齢階級別に賃金格差(女性の賃金÷男性の賃金(%))を算出してみた。なお、本統計の賃金は、6月分の所定内給与額の平均を指す。ただし、実際に今後義務化される内容の詳細が不明であり、実際に開示するデータと単純比較できない可能性があるのであくまで参考として参照頂きたい。

 

まず、企業規模別にみたものが表①である。開示義務の対象とは異なるが、常用労働者1,000人以上を「大企業」、100~999人を「中企業」、10~99人を「小企業」に区分されている。正社員・正職員においては、小企業(79.2%)の方が賃金格差は小さい傾向にある。正社員・正職員以外は、小企業(78.8%)の方が賃金格差は大きい傾向にある。

 

企業規模別の雇用形態別男女賃金格差

 

また、産業別にみたものが表②である。正社員・正職員においては、賃金格差が最も小さい業種は、「情報通信業(82.5%)」であり、僅差で「運輸業,郵便業(82.1%)」、「サービス業(他に分類されないもの)(82.0%)」と続く。逆に、「金融業,保険業(60.7%)」は賃金格差が最も大きい傾向にある。正社員・正職員以外においては、「サービス業(他に分類されないもの)(94.1%)」、「生活関連サービス業,娯楽業(91.4%)」が、最も賃金格差が小さい傾向にあり、90%を超えている。
男女平等という観点からは、賃金格差がない状態が理想であるが、実態としては統計値が示すように一定の格差があることが現実であろう。したがって、まずは世間水準を参考に、自社の男女別の賃金格差がどの程度かを把握したうえで、各社の状況に合わせて格差を是正していくことが必要となる。

 

産業別の雇用形態別男女賃金格差

 

一方、新規学卒者の学歴別にみたものが表③であるが、ほぼ同程度の水準となっており賃金格差は小さい(97.1%~100.0%)。ところが、年齢階級別にみた表④では、年齢が上がるにつれて、賃金格差は大きくなる傾向があり、「50~54歳(67.4%)」「55~59歳(66.1%)」が最も大きくなっている。いくつかの要因が考えられるが、一つは、昇格や昇進の男女格差(男性の方が昇格・昇進している)であり、もう一つは、正社員としての継続勤務の男女格差(出産・育児での退職、育児を終えての非正規雇用としての復帰等々)が大きな要因として推察される。

 

新規学卒者学歴別の男女賃金格差

 

年齢階級間の男女賃金格差

 

とすれば、男女の賃金格差を是正していくためには、
・女性が、昇格・昇進していける環境を整備する
(女性管理職比率のアップ)
・女性が、(出産・育児によらず)正社員として継続して勤務できる環境を整備する
(M字型カーブの是正)
・非正規社員として働いた場合でも正社員と非正規社員の不合理な格差を是正する
(同一労働同一賃金の対応)
などを推進していくことが必要となる。いずれも、真新しいことではなく、既に取り組まれている企業も多い。しかしながら、上記取り組みは、制度整備のみならず、働いている人々の意識変革、人件費アップ、業務分担の見直しや効率化等々、多くの壁を乗り越えていかなければならない。その意味で、賃金の男女格差の開示は、これまでの取組みを具体的な成果に結びつけられているかを示すように要求されているようにも伺える。かつ、他社と比べてあまりにも賃金格差が大きいと、採用競争力の低下にもつながり、人材不足に拍車をかけることにもなり兼ねない。極論すれば、これまでの取組みの実態が、企業間格差として露呈されることになるかもしれない。
一朝一夕では解決できない課題であるからこそ、各企業は、先手で本気で取り組んでいくことがますます求められることになる。

 

(*)出所
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2021/index.html

執筆者

飯塚 健二 
(人事戦略研究所 副所長)

独立系システム開発会社にてSE・人事・経営企画等の実務を経験。その後、大手金融系シンクタンク、監査法人系コンサルティングファームにて人事コンサルタントとして従事した後、現職。中小企業から大手企業まで規模を問わず幅広い人事・人材育成コンサルティング実績を持つ。 経営戦略の実現に向けた人事制度改革・定着化や要員・人件費マネジメント等のハードアプローチに加え、言語科学や行動科学の知見を活かした人材開発(コミュニケーション研修やビジネススキル研修、コーチング・ワールドカフェ等)を手掛ける。
キャリアコンサルタント。GCDF-Japanキャリアカウンセラー。iWAMプラクティショナートレーナー。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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