賃金制度の何が難しいのか?(その1 有限性)

経営者は、「賃金は公平に、頑張った人に報われるように支払いたい」と考えている。
社員は、「うちの賃金は不公平だ。頑張っても報われない」と不満を抱いている。
よくある賃金に関する問題の構図である。「賃金制度を変えなければ」と考える前に、なぜこのようなギャップが生まれてしまうのか。賃金制度の何が難しいのか。その本質的な原因を探ってみる。制度を安易に改定する前に必ず押さえておきたいこと、それは当たり前のことのようでつい忘れがちなことであるが、本稿で確認されたい。
 
まず、賃金制度が難しい本質的原因の一つは、賃金を支払う原資には限りがあるという至極当たり前の点である。つまり「原資の有限性」である。これは、ゼロサムゲームであること意味する。ゆえに、賃金は無限に与えることはできず、限られた原資のなかで支給しようとすると、報われる人と報われない人が必ず出てくるという必然性を有している。
 
例えば、子ども手当を支払うということは、子どもがいる人は報われるが、子どもがいない人は報われない。勤続給を支払うということは、(勤続給テーブルにもよるが)勤続年数が長い人ほど(たとえ個人のパフォーマンスが低くても)は報われるが、勤続年数が浅い人ほど(たとえ個人のパフォーマンスが高くても)は報われない。
 
ここで大切なことは、何のために支給しているのかという、「大義名分」である。会社として「少子高齢社会で子どもを養育することへの経済的な援助をすることは会社としての責任である」、「わが社により長く勤務して頂くこと自体が貢献である」といった考え方をはっきりとさせて打ち出すことである。この支給目的が曖昧なまま支給すると、先のような不平不満を誘発することになる。制度設計にあたっては、いま一度「支給目的」を明確にすることが肝要である。
 
支給目的を明確にすることは分かっているつもりでも、あるいは設計当初は明確にしていたつもりでも、段々と曖昧になったり、忘れ去られてしまったりすることが多い。しっかりと明文化しておくことをお勧めする。
 
ところで、「頑張った人が報われる制度にする」という支給目的を打ち出した場合、個人の頑張り(=貢献)を公平に評価して処遇に反映させることになる。
ところが、ここでもう一つの難しさが出てくる。それは、個人の貢献が何であるかが曖昧であるという点である。つまり「評価の曖昧性」であるが、これについては次回探っていきたいと思う。
 
今回は、賃金制度が難しい本質的な原因の一つとして、「原資の有限性」を取りあげ、各支給項目の目的を明確にすることが重要であることを確認した。

執筆者

飯塚 健二 
(人事戦略研究所 副所長)

独立系システム開発会社にて、システムエンジニア・人事・経営企画等の実務を経験。その後、大手金融系シンクタンク、監査法人系ファームにて人事・組織コンサルティングに従事した後、現職。主に人材・組織開発領域において、中小企業から大手企業まで規模・業界を問わず、15年以上の幅広いコンサルティング実績を持つ。
これまでに培った実践知と学際的な理論知(社会科学、認知科学、行動科学、東洋哲学等)を駆使しながら本質的・統合的・実践的なコンサルティングを行う。一社一社に真摯に向き合い、顧客目線に立った支援スタイルを信条とする。
キャリアコンサルタント。GCDF-Japanキャリアカウンセラー。iWAMプラクティショナートレーナー。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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