人事制度を人材育成につなげる方法

人材不足が叫ばれるなか、人材に対する投資の重要性が増している。人材育成にまつわる人材マネジメント施策は多岐にわたり、研修体系の整備、階層別研修の実施、1on1ミーティングの活用、メンター制度の導入、計画的なOJTの実施、キャリアドック制度の導入、人事評価制度の整備等、数多く見られる。
 
本ブログでは、いわゆる基幹となる人事制度(等級制度、評価制度、賃金制度)において、人材育成を促進するための具体的な手法を2つ紹介する。
 
①昇格要件に組み込む

代表的な昇格要件には、上司推薦、人事評価結果、面接、昇格審査などがある。ここに人材育成の観点を盛り込むと、例えば、
・所定の研修を修了していること
・所定の資格を取得していること
・所定の経験を有していること(メンター経験や複数の職種経験など)
といった要件が挙げられる。これらを組み込むことで、研修受講や資格取得、種々の経験を促進することが期待するものである。
 
階層別研修は、昇格してから昇格後の期待役割に必要な知識やスキル等を学習する位置付けになるが、昇格要件に盛り込むことで、昇格する前の段階で学習する位置づけにすることができる点が大きな違いとなる。例えば、課長になってから課長の勉強するのではなく、課長になる前に課長に求められることを勉強しておくことは、早期育成の観点からも検討する価値はある。
 
また、要件に盛り込む際の留意点としては、要件を盛り込み過ぎると、逆に足枷になって、昇格させたい人を昇格させられなくなってしまうという点である。
そこで、
 
・すべての等級ではなく、タイミングを絞り込む (例えば、管理職への昇格時など)
・複数の選択肢を設けておくこと(例えば、複数の研修や資格からいずれかを選択可にしておくなど)
 
といった工夫をしておくことが肝要である。
特に、選択権を社員に一定与えることは、完全な受け身ではなく、自主性を多少なりとも喚起することにつながり、学習効果を高めることが副次的に期待できる。

 
②評価内容に盛り込む

もう一つは、単純に、人材育成そのもの(育成する側)や、成長への取り組み自体(育成される側)を評価する方法である。
 
評価制度に定性評価(行動・能力・態度評価等)を取り入れている場合は、評価内容の一つとして、
 
・育成する側
例えば「人材育成」という評価項目に対して、「先輩として、定型的に決められた基本的な作業の段取り、手順や内容等について後輩に分かりやすく教えている」といった評価基準を設定
 
・育成される側
例えば「自己成長」という評価項目に対して、「上司や先輩からの指導やアドバイスを素直に受け入れて、職務に向かい、自分の弱みや課題を認識して改善している」といった評価基準を設定
 
などを盛り込むことが挙げられる。
評価内容は会社が社員に期待する貢献内容を表現する手段であり、「育成」や「成長」を会社として重視している考え方を伝える意味でも設定することの意義は大きい。
 
一方で、評価制度に、目標管理制度(期首に目標を設定しその達成度で評価する仕組み)を導入している場合は、例えば、「育成目標」や「成長目標」というテーマで目標を設定させる方法がある。
目標は、どうしても業績目標や業務目標を設定しがちであるが、複数設定する目標のうち、育成や成長に関して必ず一つは設定するようにルール化することで、育成や成長に対する意識づけを狙うことが可能となるだろう。
 
なお、目標設定自体が難しい場合で、スキルマップが既に整備されている場合は、どのスキルをどのレベルまで引き上げるかを目標として設定するなど、スキルマップと連動させるのも一案である。既にある仕組みをうまく活用することで、二度手間を防ぎ、効率的・効果的に導入することができる。
 
また、「育成目標」や「成長目標」に関する達成度自体に不公平感があったり、設定する目標の粒度が人によって揃わなかったりする段階にある場合は、目標設定はするが、評価点には反映させない、あるいは加点評価の取り扱いとする(達成しなくてもマイナス評価にはしない)など、運用のハードルをまずは下げてスタートさせて、目標レベルや評価の目線が揃ってきた段階で評価に反映するというステップを踏んで導入する方法もある。

 
以上、人材育成を基幹人事制度で促進する方法としては、昇格要件に組み込む方法と、評価内容に反映する方法があり、そのポイントについて具体例を交えながら紹介した。人材育成は一筋縄でいかないものである。だからこそ、あらゆる手段を使って取り組むことが肝要であろう。
今回ご紹介した方法は、これから制度を構築あるいは抜本的に改定しようとしている企業でも、そうでない企業でも、いずれにおいても、比較的容易に取り入れることが可能な方法なので、参考して頂ければ幸いである。

執筆者

飯塚 健二 
(人事戦略研究所 副所長)

独立系システム開発会社にて、システムエンジニア・人事・経営企画等の実務を経験。その後、大手金融系シンクタンク、監査法人系ファームにて人事・組織コンサルティングに従事した後、現職。主に人材・組織開発領域において、中小企業から大手企業まで規模・業界を問わず、15年以上の幅広いコンサルティング実績を持つ。
これまでに培った実践知と学際的な理論知(社会科学、認知科学、行動科学、東洋哲学等)を駆使しながら本質的・統合的・実践的なコンサルティングを行う。一社一社に真摯に向き合い、顧客目線に立った支援スタイルを信条とする。
キャリアコンサルタント。GCDF-Japanキャリアカウンセラー。iWAMプラクティショナートレーナー。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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