いよいよリスキリングが本格化! あなたの企業はどう対応する?!

岸田首相が、成長分野に就業するための“リスキリング(学び直し)”などの「人への投資」策を拡充し、5年間で1兆円を投入すると表明した。「企業間、産業間での労働移動の円滑化に向けた指針」を今後まとめるとしている。

これを受け、企業としてどう対応すればよいのだろうか。具体的な方針を受けて、各社で議論が本格化するであろうが、それを抜きにいま考え得ることを考えてみたい。

 

1:リスキリングの動きの背景
三菱総合研究所が出した「2030年までの人材需給とミスマッチ解消の方向性(*1)」によると、あと10年後には、AI等による自動化により、事務職は120万人過剰、生産職は90万人過剰、専門職は170万人不足となり、人材需給のミスマッチが拡大すると予測している。ゾッとする数字である。

今回のリスキリングの動きは、「企業間、産業間での労働移動の円滑化」という趣旨であること、また先の予測を前提にした場合、話を極々単純化すれば、事務職や生産職の人が、専門職に職種転換できるように学び直しを国策として促そうとしているということになる。

確かにマクロな視点で捉えるならば、その通りかもしれない。しかし、一企業としてミクロで捉えたとき、この動きにどう対応すればよいかを考えると、途端に現実味がなくなってくるというのが本音ではないだろうか。

 

2:企業として考えられる方向性
私は、企業の対応として、大きく2つのケースがまず考えられるのではないかと思う。
ひとつは、一つの企業またはグループ内で、今後縮小していく職種と拡大していく職種が明確にあり、学び直すことで職種転換が可能なケースである。
例えば、事務職の方が、将来性を不安視し、IT技術を自分で学び、それを活かせる職種に社内異動したとニュースを見たが、まさにそういったことを、「いかに企業として後押しすることができるか」である。(このニュースで取り上げられた方は、個人的・自律的にリスキリングを行なっているように見えたが)
 
もうひとつは、それ以外のケース。すなわち、一つの企業またはグループ内で今後縮小していく職種と拡大していく職種がそもそも両方ない、または明確になっていない、あるいはあったとしても学び直して職種転換が難しい(量的に転換させられない、そもそも質的に習得が難しい)場合である。
一つ目のケースに該当する企業は、かなり限定されるのではないかと考えると、多くの企業は、後者のケースに該当すると考えられる。
 
では、この場合、一企業として何ができるのだろうか。ここでも人材に対するスタンスから、大別して2つが想定される。

 

3:自社の人材をどう捉える?
ひとつは、人材を「資産」として捉え、リスキリングに対してはポジティブに取り組まないスタンスである。いま起きていることは、あくまでマクロの話であり、ミクロでは関係ないと捉えているとも言える。まだ先の話で高を括っているのかもしれない。あるいは、「仮に縮小する職種が現実になったときにはごめんなさい」と暗に思っており、言葉を選ばずに言えば「買い捨て」のように社員を捉えていると言えば大袈裟だろうか。いずれにせよ、うちの会社とリスキリングが縁遠いものとして映っていると言えるだろう。
 
もうひとつは、人材を「資本」として捉え、できうる投資を積極的に行っていこうとするスタンスである。リスキリングに対してポジティブに取り組むと言い換えてもよい(取り組まないといけないと思っているが何から手をつければよいか分からない会社も含む)。例えば、「仮に縮小する職種が現実になったときに退職したとしても、他社で通用する人材になってもらうことでその社員の生活が困らないようにしたい」というところまで考えると、企業として対応の方向性は広がっていく。
 
具体的には、
 

①将来を見据えた学習ができる研修環境を整える

②どの職種にも通用する、いわゆるポータブルスキル(*2、下記補足参照)を身につけられるように育成する

③部門間異動を行い、学び直す力を習得させる

④兼業・副業、越境学習を通して、社外との接点を増やす

⑤セルフキャリアドック制度(*3)など通じて、社員のキャリア自律を促す

⑥上記ポータブルスキルや学習・部門間異動などを促進する評価制度へ見直す

 
等々。
 
ここまでするのか?ここまでしたら転職してしまうのではないか?といった不安が付き纏うこともまた事実。しかしながら、ますます人材不足・人材獲得難が深まっている。働く人にとって「いかに魅力的な会社づくり」ができるかが、優秀な人材を集めて社員を定着化させることにつながっていくのだ、と考えを改めていくことが必要ではないだろうか。

 

 

*1 引用元:https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/20190111.html
 
*2 ポータブルスキルについて、詳しくは厚労省参考資料

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/0000091180.pdf
 
*3 セルフ・キャリアドックについて、詳しくは厚労省参考資料

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/0000192530.pdf

 

【補足】ポータブルスキル(*2)
仕事のし方と人との関わり方に分類される

執筆者

飯塚 健二 
(人事戦略研究所 副所長)

独立系システム開発会社にて、システムエンジニア・人事・経営企画等の実務を経験。その後、大手金融系シンクタンク、監査法人系ファームにて人事・組織コンサルティングに従事した後、現職。主に人材・組織開発領域において、中小企業から大手企業まで規模・業界を問わず、15年以上の幅広いコンサルティング実績を持つ。
これまでに培った実践知と学際的な理論知(社会科学、認知科学、行動科学、東洋哲学等)を駆使しながら本質的・統合的・実践的なコンサルティングを行う。一社一社に真摯に向き合い、顧客目線に立った支援スタイルを信条とする。
キャリアコンサルタント。GCDF-Japanキャリアカウンセラー。iWAMプラクティショナートレーナー。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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