組織コミュニケーション④:意義を考える(3)創造・学習その1

前回に続き、組織におけるコミュニケーションの意義について考察していきたい。前回まで、「目的共有」「分業調整」について取りあげたが、今回は3つ目の「創造・学習」について述べたいと思う。

 

普段、誰かとワイワイガヤガヤと話をしているときに、ふと新たなアイデアが生まれたり、ひらめいたりすること、あるいは、考えがまとまらずに誰かに話を聴いてもらっているうちに頭のなかが整理できたり、気づきが生まれたりすること、そんな経験をしたことはないだろうか。

コーチングの世界では、「オートクライン」ということが言われる。自分が話した言葉やその内容を自分自身で聴くことによって、自ら気づくという意味で使われる。元々は生物学用語で、自己分泌を意味し、細胞が分泌した因子がその細胞自身に作用することをいう。ちなみに、「パラクライン」という用語もあり、これは、逆に、その細胞自身ではなく、自己以外の細胞が影響を受けるという意味である。誰かが発した言葉やその内容が、聴いている人の考えや感情にも影響を与えるということを示唆する。まさに細胞が分泌した因子のように、「コミュニケーションとは自分自身や他の人に影響を与え合うもの」ということは、経験則的にも頷ける。

とすれば、うまくコミュニケーションをとることによって、新たなアイデアを創造したり、新たな気づきや学びを促したりすることが可能になる。そのためには、どんなコミュニケーションが必要だろうか?いくつかのポイントがあるが、ここでは特に重要と私が考える2点を紹介したい。

 

一つ目のポイントは、「しっかりと聴く」ということである。相手の話を最後まで聴く(途中で話の腰を折らない)、相手の発言に対して何かしらのストロークを返す(返事をする、うなずく等々)、否定や批判をせずにまずは理解しようとする。当たり前のことのようで、意外とできていないことがあるのではないだろうか。会議の場で誰かが発言しているのに誰も何も反応しない、発言しても「それは分かるけど・・・」「でも・・・」「しかし・・・」と切り返す等々。この基本的な聴き方ができていないと、話しにくい雰囲気となり、誰も何も発言しようとしなくなる。まずは、一人一人が「しっかりと聴く」ことで、誰もが発言しやすい環境をつくることが第一歩となる。

 

二つ目のポイントは、「うまく問いを投げる」ということである。唐突であるが、「考えるとはどういうことか?」・・・それは「問い」をもつことであるという話をよく研修でする。我々が何かを考えようとするとき、必ずそこには「問い」がある。「これ分かるかな?」「それはどういうことだろう?」等々。つまり、お互いによりよく考えるためには、お互いに良質の「問い」を投げ合うということが肝要である。例えば、

・「それはどういうメリットがあるのだろうか?」(目的whyを問う)
・「どんな状態になっていればよいのだろうか?/なりたいのか?」(ゴールwhatを問う)
・「どうすれば実現できるだろうか?」(手段・方法howを問う)
・「具体的にどういうことだろうか?」(深める)
・「ほかにはあるだろうか?」(広げる)

等々。色々な問いがあるが、この5つの問いは、基本の問いとして押さえておくことをお薦めする。「ほかに、どんな「問い」が創造や学習を促進するだろうか?」一度考えてみて頂きたい。

 

会議の場や上司・部下・同僚との会話等々、日常の様々な場面において、一人一人が「しっかりと聴く」ことを実践し、肩肘張らずに、「うまく問いを投げる」というコミュニケーションを通して、創造や学習が促進される。次回は、この「問い」に着目して、より学習を促すコミュニケーションについて述べてみたいと思う。

執筆者

飯塚 健二 
(人事戦略研究所 副所長)

独立系システム開発会社にて、システムエンジニア・人事・経営企画等の実務を経験。その後、大手金融系シンクタンク、監査法人系ファームにて人事・組織コンサルティングに従事した後、現職。主に人材・組織開発領域において、中小企業から大手企業まで規模・業界を問わず、15年以上の幅広いコンサルティング実績を持つ。
これまでに培った実践知と学際的な理論知(社会科学、認知科学、行動科学、東洋哲学等)を駆使しながら本質的・統合的・実践的なコンサルティングを行う。一社一社に真摯に向き合い、顧客目線に立った支援スタイルを信条とする。
キャリアコンサルタント。GCDF-Japanキャリアカウンセラー。iWAMプラクティショナートレーナー。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

バックナンバー