組織コミュニケーション⑤:意義を考える(3)創造・学習その2

前回に続き、組織におけるコミュニケーションの意義について考察していきたい。今回は「創造・学習」という意義の中で、「学習」について焦点を当てる。前回は、創造・学習を促進するコミュニケーションとして、特に「しっかりと聴く」「うまく問いを投げる」という点について述べた。今回は、学習を促すためにどのような問いがあるかについて紹介してみたいと思う。

 

70:20:10の法則(学習に影響を与える要因として、70%が直接経験、20%が他者の観察やアドバイス、10%が読書・研修というもの)と言われたりするように、我々は経験から多くのことを学習する。ところが、同じ経験を積んでいるにもかかわらず、より成長できる人とそうでない人がいるのが現実である。それは、経験からよりよく学ぶことができているかどうかによる。学習力の差と言ってもよいかもしれない。

そして、この学習力の差は、経験学習サイクルをどれだけ回すことができるかが大きく影響すると考えられる。経験学習サイクルとは、「具体的経験をする」⇒「内省する」⇒「教訓を引き出す」⇒「新しい状況に適用する」⇒「具体的経験をする」・・・、というサイクルを指し、アメリカの教育学者であるコルブ氏が提唱したものである。

 

ここでのポイントは、「内省する」と「教訓を引き出す」。簡単に言ってしまえば「次に活きる振り返りをどれだけ行えるか」ということが肝となる。ところが、一人でやろうとするとこれが案外難しい。「外部環境が悪かったから」、「他の誰かが動いてくれなかったから」、「共有が不足していたから」等々他責的な振り返りや表層的な振り返りについなりがちである。自分事としてより深く広く考えることが求められるわけであるが、他人の力を借りることが最も手早い方策となる。誰かとコミュニケーションをとることによって、さらに、他の人から良質の「問い」を受けることにとって、学習を促す気付きや学びを得やすくなる。

 

ではどんな「問い」があるだろうか。例えば、

・今回の取り組みを通じて、何か気付いたことはありますか?

・どうしてうまくいったと思いますか? ・・・それはなぜですか?

・次も同じことをするとしたら、何を変えますか?

・同じような状況にいる人に対して、いまなら、どんなアドバイスをしてあげますか?

・今回の気づきは、今後どのように生かすことができそうですか? 等々。

 

こういった「問い」を含んだコミュニケーションが、日常の職場のなかで、自然にできるような組織文化になると、お互いに成長を促していくことができるようになる。ところが、日常業務に追われ、つい後回しにしたり、面倒臭がったりして軽視してしまうのが実態であろう。そこで、上司と部下の1on1ミーティングを定期的に開催したり、いま行われている定例会議の一部の時間を使ったりして、意図的に学習のための時間を設けることから始めてみることをお薦めしたい。

 

以上、前回を含めて2回にわたり、「創造・学習」について述べた。いま一度、創造・学習を促進するコミュニケーションがどれだけとれているか、振り返ってみてはいかがだろうか。

執筆者

飯塚 健二 
(人事戦略研究所 副所長)

独立系システム開発会社にて、システムエンジニア・人事・経営企画等の実務を経験。その後、大手金融系シンクタンク、監査法人系ファームにて人事・組織コンサルティングに従事した後、現職。主に人材・組織開発領域において、中小企業から大手企業まで規模・業界を問わず、15年以上の幅広いコンサルティング実績を持つ。
これまでに培った実践知と学際的な理論知(社会科学、認知科学、行動科学、東洋哲学等)を駆使しながら本質的・統合的・実践的なコンサルティングを行う。一社一社に真摯に向き合い、顧客目線に立った支援スタイルを信条とする。
キャリアコンサルタント。GCDF-Japanキャリアカウンセラー。iWAMプラクティショナートレーナー。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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