正社員化の受け皿としての限定正社員制度のポイント

2014年頃から、ユニクロ、イケア、スターバックス、ワタミ、日本郵政など、小売業・外食産業を中心に、非正規社員を正社員化する動きが目立つようになりました。
 
これまで、正規雇用を打ち出した企業の多くは、勤務地や職務を限定した「限定社員制度」を受け皿としています。勤務地などを特定することで、対象者は選択しやすく、人件費増加のインパクトを抑制しようとしているのです。
 
限定社員制度を設計する場合には、以下の要素を検討しなければなりません。
 
1.限定される対象
①勤務地 ②職務 ③労働時間のいずれを対象とするか。一般的には、①勤務地と②職務を限定するケースが多いと思われます。③労働時間を限定した場合、パート・アルバイトとの明確な区分が難しくなるからです。
小売業、外食業などでは、夕方以降や土日が繁忙となる店舗が多く、その時間帯をはずした限定は認めづらいという事情もあります。
勤務地については、特定事業所(店舗)に限定するか、通勤可能な事業所とするか。おそらく人員コントロールの観点からも、後者を選択する企業が多くなるでしょう。
 
2.賃金水準
これまでに(勤務地)限定制度が存在する企業の場合、既存制度を活用するか、新たに制度を設計し直すかの選択を迫られます。
過去の勤務地限定制度の多くは、転勤可能であった正社員が何らかの理由で選択する、もしくは新規での採用を想定していました。したがって、処遇についても正社員賃金の◯%ダウン(概ね5~20%程度)、といった設定を行ってきました。
ところが、正規雇用化の検討においては、「非正規社員が魅力を感じつつ、収益上継続可能な」賃金水準を設定しておく必要があります。
また、給与・賞与だけでなく、退職金や福利厚生、教育研修に関する制度改定についても、検討しておかなければなりません。
 
3.職務の再設定
平成27年4月からのパートタイム労働法改正により、「パートタイマーの差別的処遇の範囲拡大」が盛り込まれました。パートタイマーや契約社員の時と同じ職務のまま、処遇だけを改善するわけにはいかなくなります。限定正社員に転換しない人たちとの処遇差を、正当化しづらくなるからです。
(非限定の)正社員と同一職務としておくケースも考えられますが、今度は、勤務地限定という条件だけで極端な賃金格差を設けてよいのか、という問題が発生します。
その場合、「正社員と非正規社員の中間」のような職務を検討することになるのではないでしょうか。
 
4.選択条件
希望者全員か、選択のための条件を設けるか。実際には、人員コントロールの観点からも、勤務時間や人事評価、試験合格といった条件をクリアした候補者の中から、会社が選別することになるでしょう。
たとえば、「フルタイム勤務、土日勤務、夜勤シフトも可能」かつ「人事評価が標準以上」といった基準設定が考えられます。
 
ただし、以前の当ブログ「地域限定社員制度の難しさ」で述べたように、「(地域)限定社員制度」の本当の難しさは、制度設計ではなく運用にあります。特に中小企業においては、職務区分などが曖昧になりがちですので、慎重に検討されることをお勧めします

執筆者

山口 俊一 
(代表取締役社長)

人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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