中小企業・ベンチャー企業における、社外取締役の効用

東京証券取引所は、2015年6月より、東証1部、2部の上場企業に、2名以上の独立した社外取締役選任、また選任しない場合はその理由の説明を義務付けます。
独立社外取締役は、一般株主保護の観点から、経営陣から独立した役員を確保することを目的とするものです。
 
上場し、株式を市場に公開すると、不特定多数の株主が発生します。しかし、一般の株主にとって、企業のIR情報などにより経営状況を確認することは可能ですが、通常年1回の株主総会で議案に対する賛否を投票するくらいしか、経営参画する機会がありません。
 
すると、経営の意思決定に際して、経営陣や大株主の都合が優先され、少数株主の利益が軽視される可能性があります。そこで、会社から独立した社外取締役を導入することで、一般株主の立場を代表し、経営に対する監視機能を持たせようという主旨です。
 
では、非上場企業、特に中小企業やベンチャー企業の場合には、社外取締役を導入するメリットはないのでしょうか。
  
実際、グループ子会社に対して親会社から非常勤役員が派遣されるようなケースを除き、中小企業での導入例は稀です。(ちなみに、親会社からの派遣は、証券取引所が求める「独立」役員とは見なされません)
 
非上場企業の場合、「一般株主の利益保護」という目的においては、社外取締役を置く必要はありません。中小企業の大半はオーナー会社のため、「経営者利益≒株主利益」ということになり、株主のために経営者を監視するという図式も成り立ちません。
 
しかしながら、社外取締役には、「経営者の監視機能」以外にも、「企業価値向上のための助言」や「顧客や取引先などの意見について、客観的な立場で述べる」といった役割もあります。それなら、取締役としてではなく、税理士やコンサルタントなどアドバイザーを雇えば十分、という考えもあるでしょうが、外部からでは発言力に限界もあります。
  
業績悪化や経営施策の失敗といった事態に際しても、社内役員だけでは、責任の所在があいまいになりがちです。社内での力関係がものを言い、上位職位者に対して、厳しい意見を述べるのは困難です。ましてや、オーナー経営者に対して苦言を呈するなど、慎重にならざるを得ません。
 
仮にオーナー企業であっても、会社には顧客、取引先、従業員、地域社会など、さまざまなステークホルダー(関係者)が存在しています。経営者が好き勝手に経営していいということになりません。以前は、銀行や主要取引先、労働組合などがチェック機能を果たした時期もありましたが、いずれも企業への影響力が弱まっています。
 
そこで、経営者が一定の緊張感をもって意思決定していくためにも、社外取締役の導入は、有効な選択肢ではないでしょうか。
 
たとえば、若手幹部中心のネットベンチャー企業が、IT業界で経験豊富なベテランを社外取締役として迎える。これにより、経営管理体制が弱く、浮き沈みが激しいインターネット業界において、組織やリスク管理が強化される。
 
あるいは、国内取引中心の中小企業が、海外ビジネスに精通した社外取締役を招聘することで、海外展開の際のさまざまな問題解決が促される。
 
社内幹部には任せづらい、自身の後継者選択や外部からの経営人材採用といったテーマについても、経営者の良きアドバイザーとなるかもしれません。
 
社外取締役が効果を発揮するかどうかは、経営者の導入方針に加え、自社に適した人材が確保できるかどうか、が重要です。非上場企業は、「独立性」にこだわる必要はありませんので、まずは関係企業出身者や知り合いの経営者に依頼してもいいでしょう。
 
上場企業向けの内容ではありますが、以下のWEBページで、「社外取締役(独立役員)選定・導入マニュアル」が無料ダウンロードできます。
 
弊社では、社外取締役候補者の紹介サービスも行っていますので、お気軽にご相談ください。
社外取締役(人事・組織担当)派遣

執筆者

山口 俊一 
(代表取締役社長)

人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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