コストコの同一労働同一賃金

働き方改革関連法案の中でも、積極的に推進されようとしている同一労働同一賃金。ところが、今一つ世の中の理解は進んでいないようです。

そこで、日本国内では珍しく同一労働同一賃金を明確なかたちで制度化している、 会員制小売業のコストコの事例を見てみましょう。
 
同社のWEBサイトで人材募集のページを見ると、店舗勤務者については、

 
1.新卒採用の給与
 ・正社員も時給制 時給1,250円もしくは1,300円スタート
 ・月収約21万円~22万円
2.長期アルバイト(学生)の給与
 ・アシスタント:時給1,250円、クラーク(会員入会手続きなどの業務):時給1,300円
3.パートタイム
 ・アシスタント:時給1,250円、クラーク:時給1,300円

 

と、正社員も管理職を除いては、アルバイトやパートタイムと同じ金額の時給制となっています。入社後の給与制度についても、最初の90日間は試用期間時給を適用、1000時間毎に14~82円の幅で昇給し最高1,650円もしくは1,800円まで昇給、と同じしくみになっています。ただし、拘束時間や責任、職務の内容によって、賞与や福利厚生面では待遇差を設けているということです。
 
一方、薬剤師の募集時給については、正社員2,900円、アルバイト2,900円、パートタイム2,900円と、各雇用形態とも同水準となっています。

要するに、職種(仕事内容)によって給与水準は異なるものの、雇用形態の違いについては、同じ処遇ということです。

 

では、コストコのやり方について、その効果性を考えてみましょう。

 

おそらく、地方で時給相場の低い地域においては、パート・アルバイトは質・量ともに豊富な応募数が見込まれるでしょう。たとえば、周辺の店が時給800円の地域で、1,250円での募集は、極めて魅力的です。しかも、1000時間(フルタイムにして約半年)ごとに昇給していくため、継続して勤務しようという意欲にもつながります。

その一方で、大学新卒者や正社員を希望する中途採用者にとっては、応募を躊躇させる要因となりそうです。「正社員なのに時給制というのは、ちょっと気が引ける」と考える人は少なくないでしょう。しかし、半年ごとに昇給し、月給で30万円前後まで上昇するとすれば、若い人にとっては悪くありませんし、意欲があれば、役職者や管理職を目指すこともできます。

 

仮に、他の小売業が同じしくみを導入しようとしても、おそらく1,250円といった時給水準に設定すれば、人件費の大幅な負担増が見込まれます。また、正社員の猛烈な反対に合うことも予想されます。

 

同一労働同一賃金が法制化され、政府が積極的に推進しても、その実現までには、かなりの時間と労力を要するテーマであるといえそうです。

執筆者

山口 俊一 
(代表取締役社長)

人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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