いよいよ人的資本開示が本格化!男女間の賃金格差開示で、企業間格差が露呈!?
賃金制度
2022年7月から、常時雇用する労働者数が301人以上の事業主は男女間の賃金格差(男性の賃金に対する女性の賃金の割合)についてホームページなどでの開示することが企業に義務付けられた。(常時雇用する労働者が101人以上300人以下の事業主については、全16項目から任意の1項目以上を情報公表する必要がある)
これは、賃金格差の是正を促して人材の多様性を高め、「人への投資」を強化することが狙いとされており、企業側は上場か非上場かを問わず対応が必要となっている。
そこで、世間水準として、いま実際にどの程度の男女間の賃金格差があるのか調べてみた。ここでは、厚生労働省による「令和4年賃金構造基本統計調査(*)」をもとに、企業規模別、産業別、新規学卒者学歴別、年齢階級別に賃金格差(女性の賃金÷男性の賃金(%))を算出してみた。なお、本統計の賃金は、6月分の所定内給与額の平均を指す。ただし、実際に今後義務化される内容の詳細が不明であり、実際に開示するデータと単純比較できない可能性があるのであくまで参考として参照頂きたい。
まず、企業規模別にみたものが表①である。開示義務の対象とは異なるが、常用労働者1,000人以上を「大企業」、100~999人を「中企業」、10~99人を「小企業」に区分されている。正社員・正職員においては、小企業(80.1%)の方が賃金格差は小さい傾向にある。正社員・正職員以外では、企業規模による差異はみられない。(図表①)
また、産業別にみたものが図表②である。正社員・正職員においては、賃金格差が最も小さい業種は、「運輸・郵便業(84.9%)であり、僅差で「サービス業(他に分類されないもの)(84.6%)」となっている。逆に、「金融業,保険業(59.9%)」は賃金格差が最も大きい傾向にある。正社員・正職員以外においては、「サービス業(他に分類されないもの)(94.1%)」が、最も賃金格差が小さい傾向にあり、90%を超えている。
男女平等という観点からは、賃金格差がない状態が理想であるが、実態としては統計値が示すように一定の格差があることが現実であろう。したがって、まずは世間水準を参考に、自社の男女別の賃金格差がどの程度かを把握したうえで、各社の状況に合わせて格差を是正していくことが必要となる。
一方、新規学卒者の学歴別にみたものが図表③であるが、ほぼ同程度の水準となっており賃金格差は小さい(94.5%~100.0%)。ところが、年齢階級別にみた図表④では、年齢が上がるにつれて、賃金格差は大きくなる傾向があり、「50~54歳 (67.9%)」、「55~59歳(67.2%)」が最も大きくなっている。いくつかの要因が考えられるが、一つは、昇格や昇進の男女格差(男性の方が昇格・昇進している)であり、もう一つは、正社員としての継続勤務の男女格差(出産・育児での退職、育児を終えての非正規雇用としての復帰等々)が大きな要因として推察される。
とすれば、男女の賃金格差を是正していくためには、
・女性が、昇格・昇進していける環境を整備する(女性管理職比率のアップ)
・女性が、(出産・育児によらず)正社員として継続して勤務できる環境を整備する
(M字型カーブの是正)
・非正規社員として働いた場合でも正社員と非正規社員の不合理な格差を是正する
(同一労働同一賃金の対応)
などを推進していくことが必要となる。
いずれも、真新しいことではなく、既に取り組まれている企業も多い。しかしながら、上記取り組みは、制度整備のみならず、働いている人々の意識変革、人件費アップ、業務分担の見直しや効率化等々、多くの壁を乗り越えていかなければならない。その意味で、賃金の男女格差の開示は、これまでの取組みを具体的な成果に結びつけられているかを示すように要求されているようにも伺える。かつ、他社と比べてあまりにも賃金格差が大きいと、採用競争力の低下にもつながり、人材不足に拍車をかけることにもなり兼ねない。極論すれば、これまでの取組みの実態が、企業間格差として露呈されることになるかもしれない。
一朝一夕では解決できない課題であるからこそ、各企業は、先手で本気で取り組んでいくことがますます求められることになる。
(*)出所
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2022/index.html
執筆者
飯塚 健二
(人事戦略研究所 副所長)
自社の経営に携わりながら、人材・組織開発、経営計画策定、経営相談など、幅広くクライアント業務に従事。中小企業から大手企業まで規模・業界を問わず、17年以上の幅広いコンサルティング実績を持つ。これまでに培った実践知と学際的な理論知(社会科学、認知科学、行動科学、東洋哲学等)を駆使しながら、バランス感覚を備えた、本質的・統合的・実践的なコンサルティングを行う。一社一社に真摯に向き合い、顧客目線に立った支援スタイルを信条とする。
キャリアコンサルタント/GCDF-Japanキャリアカウンセラー
iWAMプラクティショナートレーナー
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
バックナンバー
- 制度やスキルだけで人は育たない! 人を育てる極意②
- 制度やスキルだけで人は育たない! 人を育てる極意①
- 不正を生む人事制度、生まない人事制度
- 面倒な人事評価制度は廃止!ノーレーティング制度はありか?
- 人事制度で“公平”は不可能!? “公正”を目指すべき!?
- 人事制度を人材育成につなげる方法
- なぜ、評価フィードバックはうまくいかないのか?
- 賃金制度の何が難しいのか?(その2 曖昧性)
- 賃金制度の何が難しいのか?(その1 有限性)
- いよいよリスキリングが本格化! あなたの企業はどう対応する?!
- 組織コミュニケーション⑥:意義を考える(4)関係構築
- いよいよテレワーク廃止!? 企業の悩みの種になる
- 組織コミュニケーション⑤:意義を考える(3)創造・学習その2
- 組織コミュニケーション④:意義を考える(3)創造・学習その1
- 組織コミュニケーション③:意義を考える(2)分業調整