「在宅勤務制度」導入について ~職種別 難易度検証~

リクルートホールディングスが、全社員対象の「在宅勤務制度」導入を発表しました。育児や介護などに限定していた在宅勤務ですが、無条件でホールディングス社員およびグループ会社の一部に適用範囲を広げたことで、注目を集めています。

 
労務行政研究所の「人事労務諸制度実施状況調査」(2013年)によると、在宅勤務制度の実施率は7.9%。社員規模別で見ても、1000人以上で9.5%、300~999人で5.9%、300人未満で8.3%と、いずれも10%以下の水準となっています。しかし、過去からの推移では、2004年1.9%→2007年3.9%→2010年4.5%→2013年7.9%と着実に増加してきました。

 
在宅勤務制度の導入は、特に、都会の企業に勤務する社員にとっては朗報です。東京であれば、片道1時間以上も満員電車に揺られる人も珍しくありません。毎日の通勤に要する時間とストレスから解放されるなら、肉体面、精神面の負担軽減は明らかです。懸念点とされる、社内のコミュニケーションや仕事のオン・オフ切り替えの難しさ、といった課題については、ルール設定や各人の自覚次第で解決可能でしょう。

 
そこで、今回は在宅勤務制度導入の難易度について、職種という観点で考えてみたいと思います。冒頭のリクルートのケースでも、全社員とはいいながら「ホールディングス社員およびグループ会社の一部」が対象であり、まだグループの全社員というわけではありません。
 
在宅勤務が、A:導入しやすい職種、B:条件付きで導入可能な職種、C:導入困難な職種に分けてみましょう。
 
A.導入しやすい職種
 
◆外勤営業職、コンサルタント
保険のセールスなど新規開拓型の営業はもちろん、多くのルートセールスでも可能です。営業職の場合は、在宅勤務というより「自宅からの直行・直帰勤務」といったほうがよいでしょう。カーディーラーや住宅販売の営業職であれば、店舗や展示場で顧客に商品を見てもらう時間は必要ですが、顧客訪問についてはフレキシブルな勤務が適しています。コンサルタントや会計事務所、法律事務所などの外勤職種も同様です。
 
◆デザイナーなどクリエイティブ職種
WEB制作、ゲーム・アプリ制作、映像・音響制作、雑誌編集、各種デザイナーなども、導入しやすい職種です。パソコンとグラフィックソフト、ネット環境などが整っていれば、多くの業務は自宅やカフェでもできます。顧客や社内メンバーとの打ち合わせも、メールのほか、WEB会議やスカイプなどのシステムを使えば、直接会わなくても済みそうです。
 
B.条件付きで導入可能な職種
 
◆SE、プログラマー
SEやプログラマーなどソフトウェア技術者についても、比較的導入しやすい職種といえます。実際、大手のIT企業は、在宅勤務を比較的早くから採用しています。しかし、これは大手IT企業だから可能という側面もあります。中小IT企業では、自社内でのシステム開発部隊はともかく、客先に常駐派遣されている技術者が少なくありません。このような客先常駐型の技術者については、在宅勤務のハードルは高いといえます。
 
◆設計・開発、研究職
研究開発部門も、業務内容によっては可能な職種です。ただし、たいていの研究職では実験機器などが必要ですし、商品開発・設計であれば試作品づくりのための機器やスペースが必要でしょう。また、研究や開発のアイデアや解決策は、チーム内外のディスカッションの中で生まれる側面が強いことも事実です。そう考えると案外、在宅勤務に適する業務は、限定されるように思われます。
 
◆企画、財務、法務、マーケティング、広報職など
管理スタッフ部門の中でも、経営企画、財務、法務、マーケティング、広報などの職種も、日数を限定すれば十分可能でしょう。一方で、人事・総務や経理部門は、社内にいることで価値を生む側面もあり、やや難易度が高いかもしれません。データ入力や一般事務職種なども可能ではあるものの、派遣社員やアウトソーシングに置き換わっているケースも多く、対象者は限定されそうです。
 
C.導入困難な職種
 
◆製造、品質管理、製造技術職
工場勤務の製造や品質管理、製造技術職などは、在宅勤務が困難です。製造職は、生産設備がないと製品が作れないため、工場への出勤は不可欠といえます。品質管理、生産管理、製造技術職も、生産設備や製品があっての業務が大半です。
 
◆店舗販売、接客職
店舗小売業の販売職や外食産業の接客職、調理職も、適用困難な職種の代表格といえます。金融機関や旅行代理店の窓口業務も同様です。医師や看護師、保育や介護、教師や塾講師、美容師やエステティシャン、清掃や警備、ホテル・旅館の接客職なども、一部の事務処理業務を除いては在宅勤務が考えづらい職種です。
 
◆物流、ドライバー職
倉庫などの物流職、配送ドライバー、タクシーやバスの運転手といった職種も、実際のモノや人を運ぶ仕事のため、在宅というわけにはいきません。今話題のUBER(ウーバー)のように、自家用車をタクシーとして使用するケースは例外として、会社の車両を自宅近くに駐車して使用するといったことは、難しそうです。
 
以上、代表的な職種を取り上げましたが、仕事内容によって「在宅勤務」導入の難易度があることが分かります。適しているのは、会社にいなくてもできる業務が多いことに加え、仕事の成果・業績やアウトプットが明確になりやすい職種ということになります。
 
在宅勤務やサテライトオフィスなど、情報通信技術を活用し、場所や時間にとらわれない働き方は、テレワークと呼ばれています。具体的に導入を検討される場合には、以下のステップを参考にされるとよいでしょう。まずは、導入しやすい職種や部門から、トライアルされることをお勧めします。
 
[図表]テレワーク導入の流れ

テレワーク導入の流れ

資料出所:日本テレワーク協会「テレワーク相談センター」ホームページより引用
http://www.tw-sodan.jp/
 
一方、社員側からはバラ色に見える「在宅勤務」ですが、これまで以上にアウトソーシングやクラウドソーシングとの競争にさらされる点を忘れてはなりません。人件費コストの割に十分なアウトプットが出せない社員は、外部人材に置き換えられる可能性が増すということです。

執筆者

山口 俊一 
(代表取締役社長)

人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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