社員に業績をオープンにすることの効用

中小企業において、社員に業績をどこまでオープンにするかは悩ましいところです。上場企業であれば、決算データを四半期ごとに公開しなければなりませんが、非上場であればそのような義務はありません。
 
したがって、義務としてではなく、経営情報公開の効果性について考えてみたいと思います。
 
社員に業績をオープンにするメリットとしては、
 
  ・経営の透明性について不信感がなくなる
  ・社員が当事者意識をもつことで、業績向上への意欲が高まる
  ・業績不振時などは、危機感を共有できる
 
といったことが挙げられます。
  
反面、経営者として心配な点は、
 
  ・社外に経営情報が漏えいする恐れがある
  ・役員報酬など知られたくない情報がある
  ・業績不調時などは、危機感ではなく、会社への不安につながる
  ・業績好調時などは、給与水準などへの不満につながる
 
といったところでしょうか。
  
そこで、経営者としての心配点を回避しつつ、情報公開のメリットを享受するためには、次のような対策が必要です。
 
1.社員に対して理解してもらいたい経営指標に絞って公開する
たとえば決算書(損益計算書、貸借対照表)をそのまま公開しても意味がありません。全社の売上高や営業利益などは良いとして、支店の営業部門であれば支店の売上や利益、チームや個人の成績が対象になるでしょう。製造部門なら工場や課ごとの生産性・不良率、管理職であれば部門損益や人件費。というように、階層別・部門別によって認識してもらいたい経営指標は異なります。ポイントは、その人が意識し、努力することで改善につながる指標を選択するということです。
 
2.経営指標の意味と活用方法を念入りに教育する
次は、教育です。経営指標をオープンにすれば、社員の業績意識が高まるというものでもありません。多くの社員は、「粗利益」「営業利益」「経常利益」「(税引後)当期利益」の違いも理解していません。また「生産性を高めろ」と社長が指示したところで、生産性がどのような実績に表れるか正確には知りません。
 
たとえば「わが社では、営業マンは年収の何倍の売上を上げなければならないか?」「粗利率を1%高めると、営業利益はいくら改善するか? また、その方法は?」「顧客ごとの販売額と投入時間はバランスがとれているか?」「10%値引きすると、どれだけ売上を増やさないといけないか?」・・・。
というように具体的に業績指標を理解し、改善のための方策について学習することで、正しい理解へとつながるのです。
 
3.経営指標と賞与や表彰・報奨などとリンクさせることで、動機づけにつなげる
必要な指標に対して、正しい理解ができたとして、やはり人間。行動のためのインセンティブが必要です。社長や部長が怖いといった負のインセンティブもあるでしょうが、できれば自発的に動いてもらいたいものです。
 
そのため、経営指標の改善を、人事評価や報酬に結び付けておくことは重要な施策となります。少なくとも、会社の業績を良くすることは、自分たちにとっても良くなることだという認識を、社員全員にもってもらわなければなりません。
 
全社員が経営者意識をもつ、というのは実際には困難ですが、そこに近づけることで、自発的な行動を促すのです。
 
経営者が社員を信用し、できる限り経営情報をオープンにする。まずは、幹部 → 管理職 → 一般社員 と順番に広げていかれてはいかがでしょうか。

執筆者

山口 俊一 
(代表取締役社長)

人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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