人事理念②

前回は、人事理念について、戦略的人事を考えていくうえでの核になること、とはいえ、その捉え方や位置付け・呼び方は、各社各様であるということを書きました。そして、人事理念を4類型に分けて、Philosophy(価値観・哲学)型とRequirements(要件)型の2つをご紹介しました。今回は、残りの2つをご紹介します。
 
 
3つ目の人事理念のパターンは、Way(行動・心得)型です。これは、社員に求める行動や心構えを言語化したものです。たとえば、「サイボウズのAction5」などが該当します。
 
<例>サイボウズのAction5

理想への共感(やる):理想に共感し、理想に向かって課題を実行する

あくなき探求(考える):問題を深く探求し、課題を設定する

知識を増やす(知る):役割を果たすために必要な知識を身につける

心を動かす(伝える):周囲の協力を得るためにコミュニケーションを行い、
相手の行動を引き起こす

不屈の心体(続ける):任された役割をやめずに取り組み続ける

 

このパターンは、「社員にどういう行動や態度をとってほしいのか?」を言語化したものであり、前回紹介したRequirements(要件)型をより具体的にしたものとして位置づけられます。会社によっては、クレド、社員行動規範、社員行動基準、社員心得、○○バリュー、○○ウェイなどと呼ぶケースもあります。また、CSRの観点から、各ステークホルダー向けに書かれる場合もあります。戦略的人事の観点からは、より現場や日常に近い形で、社員に具体的にどうしてほしいのかを伝えるときの手段として重要な働きをすると考えます。

 

最後に4つ目の人事理念のパターンとして、Policy(方針)型があります。これは、採用・育成・配置・代謝・報酬・評価をどのように行うのかについての基本的考え方を言語化したものです。たとえば、イトーヨーカ堂の人事賃金制度の基本理念などがこれに該当します。
 
<例>イトーヨーカ堂 人事賃金制度の基本理念

○仕事に対して意欲がもてる環境を創造する

○労働生産性を向上させる

○成果に対して納得できる評価・処遇を実現する

 

このパターンは、「会社としてどのように人材マネジメントを行っていくのか」を言語化したものです。会社によっては、人材マネジメントポリシー、人事方針などと呼ばれることもあります。これまで見てきた3つのパターンは、どちらかというと、会社が社員に期待することや求めることを表現したものですが、このPolicy(方針)型は、逆に会社が社員に何をしていくのかを表現したものと言えるでしょう。人材マネジメントを行っていくうえでの考え方を明示することで、各人事施策に一貫性を持たせやすくなります。また、採用競争力や社員の定着(いわゆる、リテンション&アトラクション)を図るためにも有効な働きをすると考えられます。
 
 
以上、2回にわたり人事理念について述べてきました。一口に人事理念といっても、呼び方を含め様々な観点があります。今回は分かりやすく4つに分類しましたが、会社によっては、混合型であったり、中間的な位置づけだったりするかもしれません。ただいずれにしても、どういう目的で「人事理念」を掲げ、どう活用していくのか、あるいは人事施策にどう落し込んでいくのかを明確にすることが肝要です。戦略的人事を考える際の一助になれば幸いです。

 
 

なお、上記の事例は、経団連資料より引用しています。
https://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2010/043/jirei.pdf

執筆者

飯塚 健二 
(人事戦略研究所 副所長)

独立系システム開発会社にて、システムエンジニア・人事・経営企画等の実務を経験。その後、大手金融系シンクタンク、監査法人系ファームにて人事・組織コンサルティングに従事した後、現職。主に人材・組織開発領域において、中小企業から大手企業まで規模・業界を問わず、15年以上の幅広いコンサルティング実績を持つ。
これまでに培った実践知と学際的な理論知(社会科学、認知科学、行動科学、東洋哲学等)を駆使しながら本質的・統合的・実践的なコンサルティングを行う。一社一社に真摯に向き合い、顧客目線に立った支援スタイルを信条とする。
キャリアコンサルタント。GCDF-Japanキャリアカウンセラー。iWAMプラクティショナートレーナー。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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