スキルより大切なこと

少し余談ですが、コーチングをしていると、時々感じることがあります。
先日も30歳前半のビジネスマンのコーチングをさせていただいた時、 質問して答えてくれているのですが、どうも違和感がある・・と感じました。
 
本人が前向きに話そうとしているのですが、全くその言葉にパワーがないのです。 疲れ切って、前向きな言葉で話すのが精いっぱい、といった印象を受けました。 私が感じたそのインパクトをそのまま本人に伝えると、「あー、そうですね・・・。」と急に黙ってしまいました。
随分長い間、二人で無言の状態が続いたと思います。
 
しばらくしてその彼はポツポツと、力のない声で話を始めました。自分自身に不安を感じていること、能力に疑問を感じていること、仕事がうまくいっていないこと・・・。 その日のコーチングはそこで終わりました。 コーチとして何か課題設定をしないといけない、という気持ちは一切湧いてきませんでした。ただ、彼の話をひたすら聴き続け、共感するだけでした。
 
コーチとして、自分のコーチングに対して「本当にこれでよいのだろうか?」という思うことはよくあります。失敗したり、不安を感じた時には自分を振り返り、疑問をもち、反省します。もちろんその時もコーチングをしながら、これでよいのか?という疑問がありました。
 
しかしながら、その時のコーチングを振り返ると、やはりその時は聴き役に徹し、聞いてあげるだけで良かったのだ、と思えます。恐らく、そうすること以外には方法はなかったでしょう。そしてそのことが、彼が前へ向くきっかけになったことを後から本人に聞かされました。
 
部下指導において、上司の方も同じではないでしょうか?
「こうやってみた」「でもだめだった」「今度はこうしよう」「それでもうまくいかないなぁ」 反省したり、やり方を変えてみたり・・・、そんな繰り返しではないかと思います。
 
そんな上司の方々にお伝えしたいのは、 「自分自身を信じてほしい」ということです。
 
本当に部下のことを成長させてやりたくて、あの手この手を使って、うまくいかなかったとしても、そこにある愛情は本物です。自分自身のやり方、指導方法を信じて続けてもらいたい、と思います。
 
その時々において、「今の部下に必要だ」と心から信じることをやっていくことではないでしょうか。コミュニケーションやコーチングスキルよりも、他の管理者のやり方を真似ることでもなく、自分自身のベストを尽くすことが、実は価値あるコーチングになっているのではないかと思います。
 
もちろん、「部下を尊重し、信じる」という大前提のもと、であれば。

執筆者

川北 智奈美 
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)

現場のモチベーションをテーマにした組織開発コンサルティングを展開している。トップと現場の一体化を実現するためのビジョンマネジメント、現場のやる気を高める人事・賃金システム構築など、「現場の活性化」に主眼をおいた組織改革を行っている。 特に経営幹部~管理者のOJTが組織マネジメントの核心であると捉え、計画策定~目標管理体制構築と運用に力を入れている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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