社員50名以下の中小企業が人事制度を作成する価値②

今回は、前回のブログで“50名以下の企業でも「人事制度はあるに越したことがない」”と述べた理由について、人事制度の目的から捉えてお伝えしてまいります。

 

1.方針伝達機能
人事制度を設計する際には、会社が社員に求める成果・行動を具体化して等級基準や評価項目に反映していくことになります。このことがいわゆる方針伝達機能、つまり会社がこれから向かおうとする方向性を示し、社員のベクトルを合わせていくことにつながります。
ところが、会社規模が小さいうちは、経営計画などの方針をまとめたものが具体的に示されているケースはあまり多くありません。ほとんどの企業様では、トップが常に先頭に立ち、具体的な指示を出して会社を牽引されています。そういったケースでは、都度トップから行動指示がでているものの、「優先度の高い成果や行動が何であるのか」が、社員から見てわかりにくくなっていることがあります。
また常に先頭に立ち、プレイヤーとして邁進してこられたトップの方の場合、「会社方針や考え方の「見本」は示されているものの、具体的なレベルで「言語化」して伝えられていないケースが見られます。その結果「伝えているつもりが伝わっていない」と悩んでおられるケースが見受けられます。

 

そこで人事制度を作成しながら「会社が求めたい成果・行動」「トップが伝えたい考えや方針」を整理・棚卸し、「評価指標」という形で形式知化することで、社員さんがより理解しやすく、伝わりやすくなります。
また創業から数年程度の企業様で人事制度のコンサルティング支援をさせていただいた場合、トップの方から「人事制度を通じて、社員に伝えたいことが整理できた」「今までは都度、口頭で必要なことは伝えてきたつもりだが、可視化することは大事ですね。」というご感想をいただくことがあります。社員50名以下の中小企業において、人事制度を作成する価値は、方針伝達機能の強化だけではなく、そのプロセスにおいて「トップの方針を棚卸する、整理する」という点でも意義がある、といえるのではないでしょうか。

 

2.公平な処遇の実現
公平な処遇という点でとらえた場合、あくまでも個人的な見解ですが「50名以下の企業においては、あまり必要性がない」と考えます。ただし前提として「社長が社員全員の日常的な行動が見えている状態」であることが必要です。この場合、社長1人が評価をして昇給や賞与支給を行っていれば、判断軸は統一されているため、公平性は確保できている、と捉えられるからです。また社長と数名の幹部で評価をする場合でも、オープンに話し合いながら、目線が一致した状態で評価が可能といえます。

 

言い換えると、人事制度の目的を「公平な処遇の実現」という視点でとらえれば、「人事制度はいらない」という結論になります。時々耳にする「小さい企業だから人事制度は不要ではないか」という疑問は、まさにこの「処遇の公平性」を軸において人事制度を捉えておられるケースが多いのではないかと考えられます。
但し、社員さん側から見た場合、人事制度があることで「社長の好き嫌い」ではなく「客観性や一貫性のある指標で評価されている」というような“公平感・安心感をもたらす”という点で有効といえます。また、勤務地が複数に分かれてるケースでは、社員の日常行動を公平に観察することができないため、人事制度を構築し、一定の評価指標を設けた方が社員の納得を得やすい、と考えられます。

 

3.社員の成長促進
社員数50名以下の企業で人事制度を策定する価値として、最も意義があると思われる点が、3つめの社員の成長促進です。

 

社員側から見ると、人事評価は「会社に求められていること(あるべき姿)」と「自身の現在地」のギャップを図る上で、重要な道標となります。同じく会社側としては、社員に成長してほしい方向性を「等級基準」や「人事評価」という形で具体的に示していくことができます。それらに沿って処遇していく構造ができれば、社員の自発的な理解・行動を促すことが可能になります。

 

また違った角度から考えると、「管理者の育成」にもつながります。人事制度を導入すると、必ず評価結果のフィードバックを行う必要があります。管理者=評価者が、フィードバックを行うためには、①会社が求める成果・行動の正しい理解、②部下の日常的な行動の観察と成長課題の把握、③面談を通じた部下への動機づけ力・指導力、などが求められます。人事制度の導入初期においては、管理者にとって不慣れで難しく感じる方も多いですが、継続していくことで部下指導力が少しずつ磨かれていくことになります。

 

さらに、評価制度を作成する際には、管理者に積極的に関わってもらうことも重要です。これは、前述の通り、評価項目を検討するプロセスにおいて「トップが考える事業の方向性、人材のあるべき方向性」などに焦点が当たるからです。企業規模が小さいほど、管理者全員が主力プレイヤーであることが多く、なかなか落ち着いて会社方針を語る機会がありません。人事制度を作成する中で、トップ方針に対する管理者の深い理解が進み、管理者自身の気づきや行動変革につながっていくことでしょう。

 

今回は、社員50名以下の中小企業が人事制度を作成する価値について、人事制度の目的を切り口に考えを述べさせていただきました。うちにも必要かな、と迷っておられる場合は、上記観点を参考にご検討ください。

執筆者

川北 智奈美 
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)

現場のモチベーションをテーマにした組織開発コンサルティングを展開している。トップと現場の一体化を実現するためのビジョンマネジメント、現場のやる気を高める人事・賃金システム構築など、「現場の活性化」に主眼をおいた組織改革を行っている。 特に経営幹部~管理者のOJTが組織マネジメントの核心であると捉え、計画策定~目標管理体制構築と運用に力を入れている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

バックナンバー