コロナ禍における人事評価

コロナ禍においてテレワークが中心となる中、「人事評価制度の見直しが必要ではないか」という記事をよく見かけるようになりました。
その理由の多くは、「勤務態度が見えない」「部下の業務状況が細かく把握できないから、正しく評価できないのではないか」という不安や課題を感じておられるからのようです。よって、「業績やKPIなどの成果で評価する」「業務スピードやレスポンス状況などを定量的に可視化できる指標で評価する」などの方法が有効ではないか、という考え方に至ることも当然だと思います。
 
ただ、一度立ち止まって考えてみたいと思います。
上司の立場からすれば「部下の行動を正しく判定してやりたい」と思えば、「見えていないと正しい判定ができない」とのご意見もわかります。では、見えていないからといって、数値中心の業績・成果を評価することで、部下は自ら良い方向に行動し、成果を上げられるのでしょうか。
 
人事評価の目的を大別すると、「①公平・公正に評価し、処遇に反映すること」と「②人材の能力開発」にあります。つまり前述の「見えていないと正しい判定ができない」という観点は、①の処遇反映を強く意識した考えとなります。もちろん公平に評価し、処遇することは重要な要素です。優秀な人材であれば、自分で考えて行動し、結果も出すと思われるため、それらをきちんと処遇につなげていく必要があります。
但し、それだけでは様々な成長過程にある人材が育ち、組織的な成果を上げることはできません。人事評価を②の人材の能力開発に焦点を当てて考えると、もう少し考え方が広がってきます。
 
少し角度を変えた質問ですが、「今の人事制度はどのような検討プロセスを経て作成されましたか?」
恐らく「公平・公正に処遇できるよう」、また「こんな人材に育ってほしい」という考えをもとに、検討に検討を重ねて導入されたのではないでしょうか。
もしそうであれば、まずおススメしたいのは「評価制度を変更する」ことではなく、テレワーク下であっても、キチンと評価するために「部下とのやりとり、情報取得の方法を改善する」ことです。 具体的には、部下の業務プロセス管理手段や状況把握の手段(コミュニケーション方法)等の見直しです。また手段だけでなく重要なことは、その「頻度」です。
例えば、週に1度、評価項目の内容を「今の部下に求める具体的な行動」にブレイクダウンして伝え(又は考えさせ)、それができたかどうか次の週に確認し、進捗に応じて次の改善行動につなげていく。・・・このようなプロセスを共に実行していくことで、部下の行動を促しつつ、その行動結果を把握することが可能となります。
 
テレワークによって、時間的な余裕が生まれたという方は、この機会に普段なんとなく済ませてしまっていた部下との会話を「意識的」且つ「定期的」に実施し、部下育成に費やす時間を増やしてみてはいかがでしょうか。

執筆者

川北 智奈美 
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)

現場のモチベーションをテーマにした組織開発コンサルティングを展開している。トップと現場の一体化を実現するためのビジョンマネジメント、現場のやる気を高める人事・賃金システム構築など、「現場の活性化」に主眼をおいた組織改革を行っている。 特に経営幹部~管理者のOJTが組織マネジメントの核心であると捉え、計画策定~目標管理体制構築と運用に力を入れている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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