2023年の賃上げ動向 ~中小企業は二極化か?~

― 2023年 中堅・中小企業の賃上げアンケートの調査結果から ―

 

昨年末から今年にかけて、お客様から「各社の賃上げの動向はどのような状況か」というお問い合わせが増えていました。そこで、弊社の顧客やメルマガ読者向けに2023年 中堅・中小企業の賃上げアンケート(調査期間2023年1月31日~2023年2月10日)を実施しました。今日はその結果から、賃上げ動向について考察してみたいと思います。
 

1: 50名未満の中小企業でも、半数以上が“例年より高い賃上げ”を実施・検討
調査結果から、今年の給与改定において、「例年より高い賃上げを実施済み又は実施を決めている」「例年より高い賃上げに向けて検討中である」と回答した企業が企業規模計で60%、社員数50名未満の企業でも、52%の企業が例年よりも高い賃上げを行う方向であることがわかりました。(図表1)
 

例年より高い賃上げを予定している

 

調査実施前は、企業規模が小さいほど例年よりも高い賃上げは厳しいのではないか、と予測していたものの、結果を見ると企業規模による差異はそれほど大きくないことがわかります。
理由を見ると、①物価高による社員の生活不安解消のため、がいずれの企業規模でも最も多くなっており、続いて②世間的な賃上げ動向に合わせるため、③採用難により、募集賃金や初任給引上げの必要性があるため、となっています。(図表2)

 

例年より高い賃上げを予定している理由

 

物価高に加え、今年に入って、大手企業を中心とした賃金引上げ報道が続いており、中小企業でも、社員の不安解消、人材不足を補うための採用活動への影響などを考慮して、賃上げに踏み切らざるを得ない、というのが実情ではないでしょうか。

 

2.例年の昇給率に加え、5%以上上乗せする企業も
また調査では、例年よりも「上乗せする部分の賃上げ率」に興味深い結果が出ています。(図表3)
 

上乗せする部分の賃上げ率

 

規模計では、「2%以上3%未満」と回答した企業が28%と最も高くなっており、次いで「3%以上5%未満」と回答した企業が22%となっています。ところが、50名未満の企業規模に着目すると、「5%以上7%未満」「7%以上9%未満」「9%以上」と回答している企業の合計、つまり「例年よりも5%以上高い賃上げ」を実施する企業が24%を占めていることになります。但し、規模が小さいほど賃上げ率のベースとなる給与額が、統計上低いという傾向はあるため、一概には言えないものの、収益力のある企業においては、大幅な賃上げに踏み切るケースもあることがわかります。
これを厚生労働省の賃金構造基本統計調査に基づいて、額に直してみると以下のようになります。(図表4)10人から99人規模の企業の所定内給与額は279,000円。そこに例年通りの賃上げを行うと5,150円。さらに5%の上乗せを実施すると、+13,995円。あくまでも推定ではありますが、実に2万円近い昇給を実施する企業が一定数あることになります。実際に今年に入って以降、「初任給を3万円引き上げたいが、どうしたらよいか」「定期昇給に加え、5%のベースアップを行いたいが…」といったご相談が相次いでいます。
 

厚生労働省の賃金構造基本統計調査に基づく額

 

3.例年よりも高い賃上げをしない企業は3割、50名未満規模では二極化傾向
一方、例年よりも高い賃上げを行わない企業も一定数あります。図表1で見ると、規模計では、「例年通りの賃上げのみを行う」が19%、「例年よりも低い水準で賃上げを行う」が3%、「賃上げは行わない」が2%となっています。社員数50名未満の企業で見ると、「例年通りの賃上げのみを行う」が24%、「例年よりも低い水準で賃上げを行う」が8%、「賃上げは行わない」が3%となっており、35%の企業が、例年通り又はそれ以下の賃上げとなる見通しです。
その理由としては、「今の収益構造では、現状の賃金水準以上にはできないため」が最も多くなっており、次いで「仕入やその他経費のコスト高により収益が悪化しているため」「業績が思わしくないため」「現段階では様子をみたいため」となっています。(図表5)
 

高い賃上げを予定していない理由

 

今年は様子をみたいという企業も含めて、「賃金を上げたいが上げられない」という企業が3割程度を占めていると推測され、経営者の苦しい心情が窺えます。
「賃上げ」という世間的な動きが先行している中、特に中小企業においては、実際には商品やサービスへの価格転嫁が進んでいない、コスト高が収まらない、という厳しい現実があります。とはいえ、賃上げの動きに後れを取れば、人材不足に拍車をかけることになりかねません。
賃上げの動きは、企業にとって「“いかにして”今よりも収益力を上げていくのか」を考える重要な局面といえるのではないでしょうか。また賃上げが厳しい企業にとっては、賃金以外の方法で社員を惹きつける方法を探ることが必要不可欠だと考えます。
 

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賃金(給与・賞与)制度設計コンサルティング

執筆者

川北 智奈美 
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)

現場のモチベーションをテーマにした組織開発コンサルティングを展開している。トップと現場の一体化を実現するためのビジョンマネジメント、現場のやる気を高める人事・賃金システム構築など、「現場の活性化」に主眼をおいた組織改革を行っている。 特に経営幹部~管理者のOJTが組織マネジメントの核心であると捉え、計画策定~目標管理体制構築と運用に力を入れている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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