2024年の中堅・中小企業の賃上げ動向 ~中小企業では賃上げに限界感!~

大手企業を中心に、賃上げに向けた動きが活発になっています。

そこで、弊社では昨年に引き続き、2024年の賃上げ動向について、アンケート調査を実施しました。そこで今回は、その結果をご紹介しながら解説していきます。

※賃上げ動向の調査レポートについて、詳しくは下記をご覧ください

(2024年 賃上げに関するアンケート調査結果https://jinji.jp/news/report/11539/

 

1:例年よりも高い賃上げを実施・又は実施を検討中の企業が、昨年から27%減少

図表①は、「今年の賃上げにおいて、例年よりも高い賃上げを実施しますか?」という質問について、今年(2024年)と昨年(2023年)に行った調査結果(調査時点でまだわからないと回答した企業を除く)の比較データです。2023年を見ると68%と、実に7割近くの企業が例年よりも高い賃上げを実施又は実施に向けて検討中となっています。ところが2024年は、41%となっています。2年連続例年よりも高い賃上げはしない、という企業が一定数あるのではないかと推察されます。ここで留意しておきたい点は、一般的に報道されている「賃上げ」という表現には、「例年通り」の賃上げ、つまり定昇といわれる部分が含まれています。弊社の調査では、「例年を上回る賃上げ」を実施するのかどうか、という点に着目しており、例年通りの定期昇給に、さらにベースアップや定昇率の上乗せがあるのかどうか、という視点でご覧ください。

 

2023年と2024年調査の比較

 

また2024年調査における2023年の賃上げ状況と2024年の賃上げ方針をクロス集計したところ、図表②のような結果となりました。

注目すべきところとして、「昨年は例年より高い賃上げを実施したが、今年は例年通り又はそれ以下」と回答した企業が27%となっています。つまり、例年よりも高い賃上げを2年連続は実施しない企業が3割ある、ということになります。

昨年末から今年にかけて、政府や経済団体から賃上げ要請が高まる中、賃上げを実施できるのであればしたい、というのが経営者側の想いだと考えられる中、「賃上げしたいが、できない」という厳しい事情が背景にあるのではないでしょうか。

 

画像名称

 

2:中小企業の賃上げ事情は、2023年よりもさらに厳しくなる予想

また、今年の賃上げ方針について、企業規模別(社員数)で集計したところ、社員数50名未満や50名以上100名未満の中小企業において、厳しい結果が出ています。調査時点で例年よりも高い賃上げを実施しないことを決めている企業が50名未満の企業で53.1%(昨年比+18.1%)となっています。

 

今年の給与改定において、例年より高い賃上げを予定しているか

 

3:賃上げを実施しない理由は?

そこで、例年よりも上乗せした賃上げを実施しないことを決めている企業に、その理由(複数回答可)を聞いたところ、「今の収益構造では現状の賃金水準以上にすることができないため」が最多となっており、「ない袖は振れない」という厳しい状況が窺えます。我々のご支援先においても、収益力のある企業とそうでない企業による二極化が進みつつあることを目の当たりにしています。

 

例年より高い賃上げを予定しない理由

 

4:中小企業でも、賃上げ率は最低でも2%以上を目指す必要

それでは、どの程度の賃上げをすれば、世間動向に合わせていくことができるのでしょうか。すでに十分な賃金水準である場合を除くと、次のように考えられます。

図表⑤は、「例年の賃上げ率」と、「今年(2024年)、例年よりも高い賃上げを実施するかどうか」を聞いた質問に対して「まだわからない」を除き、クロス集計をしたものとなっています。これを見ると赤枠内、つまり推定ではあるものの今年の賃上げ率が2%を超える水準にあると考えられる企業が62.5%を占めています。全体の6割以上の企業が2%以上の賃上げをすることが想定される中、もし同レベルの対応ができなければ、非常に厳しい状況になることが予想されます。物価上昇を背景に、採用市場がかつてないほどの売り手市場の中、社員の離職や採用困難に陥ることにつながっていきます。

 

例年の賃上げ率と2024年の賃上げ実施方針

 

5:賃上げの動きはとめられない

今回のアンケート調査で、賃上げ状況について自由記入で聞いたところ、「世間では賃上げと叫ばれているが、それに対応できるような力は中小企業にはないのが現状」「簡単に『賃上げ』というが、零細企業では到底難しい」という悲痛な声が聞こえてきました。実際のコンサルティングの現場でも同様の声が聞こえます。経営者側からすれば、賃金を上げられるものなら上げたいと心底思っておられます。ところがそれを許さない現実があるといえます。

しかしながら、賃上げの動きはとめられません。どれだけ厳しい現実であっても、何かしらの手をうち、世間動向並みの賃上げに向けた収益確保に動かなければ、企業の存続にかかわる危機に陥りかねません。

発注元との価格交渉、設備投資による生産性向上、付加価値の高い商品・サービスの開発はじめ、政府の支援策もフルに活用しながら、賃上げに向けた動きを始動していくことが強く求められている、といえるでしょう。

執筆者

川北 智奈美 
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)

現場のモチベーションをテーマにした組織開発コンサルティングを展開している。トップと現場の一体化を実現するためのビジョンマネジメント、現場のやる気を高める人事・賃金システム構築など、「現場の活性化」に主眼をおいた組織改革を行っている。 特に経営幹部~管理者のOJTが組織マネジメントの核心であると捉え、計画策定~目標管理体制構築と運用に力を入れている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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