生産性と賃金水準

前回の「社員の賃金は、何によって決められるべきか?」の続きです。
「正解はない」「各社の経営方針に沿って決めればいい」ということを言いましたが、それだけでは、あまりに不親切ですので、1つの考え方を提示します。
 
「賃金は、仕事内容に応じて決定することが国内外の基本的な考え方」であることも述べました。さて、ここからが難解です。一口に仕事内容といっても、職務、職種、能力、成果というように、いくつかの要素に分解できます。それぞれ職務給、職種給、能力給、成果給という言葉があるように、賃金制度としても一定の市民権を得ています。
長らくアメリカは職務給、日本は職能給が中心でしたが、両国とも成果給の割合が強まってきました。そこで今回は、「仕事の生産性と賃金」という観点で考えてみることにしましょう。
 
まずは、会社全体の生産性と、総額の賃金。生産性(収益性)の高い会社の方が、賃金水準が高いことは自然でしょう。たとえば、ゲーム業界の雄である任天堂は極めて生産性の高い会社です。社員1人当たりの収益力が半端ではありません。支払う側(経営者や株主)にしても、社員の給与が高いことは十分に納得ができます。
 
次に社員ごとの生産性。これについては、職種別に考えてみることにしましょう。すると、職種によって特徴があることに気づきます。例えば、職人と言われる職種の多くは、年齢・経験とともに生産性が向上していきます。大工さん然り、コックさん然り、一般的には5年選手より、10年選手、15年選手の方が、上手く、速く仕事をこなせるようになります。ところが一方で、トラックドライバーなどは、道路や仕事の要領を覚えてしまえば、経験年数と生産性はあまり比例しない職種といえます。
 
このように、会社の中にある職種を眺めてみてください。ソフトウェア業界のSEや広告業界の企画プランナーなどは30歳前後が、プレーヤーとしては最も活躍できる年代ではないでしょうか。販売職などは、顧客の中心年齢層や販売商品によって生産性のピークが異なります。若者相手の店舗は同じく若い販売員が活躍できますが、呉服や宝石などの販売には、ある程度の年季が要ります。
 
このように、1つの会社の中でも、営業、マーケティング企画、技術、製造、総務・経理といった職種によって、年齢別の生産性カーブは大きく異なるのです。  高度成長期のように会社の収益が毎年伸びていく時期には、全員の給料を同じように上げていけばよかったかもしれませんが、今ではそれも叶いません。
 
職種ごとの生産性に応じた賃金体系を、各社とも真剣に考える必要があるということです。

執筆者

山口 俊一 
(代表取締役社長)

人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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