「シニア社員の活躍を促進する」人事制度構築のポイント
-もくじ-
1.シニア社員を取り巻く環境の変化
1)70歳雇用時代の到来
2021年4月施行の改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの雇用が企業に課されることになりました。今回の法改正で企業に求められる高年齢者雇用確保措置は「努力義務」の位置づけではありますが、大手企業を中心に70歳までの雇用延長を制度化する動きが出てきており、多くの企業で高年齢者雇用の推進が急務となっています。
<改正高年齢者雇用安定法の概要>
- 旧法では、以下の高年齢者雇用確保措置(①~③)のいずれかを講じることが企業に義務付けられていました。
- 改正法では、旧法の内容に加えて、新に以下の高年齢者雇用確保措置(①~⑤)のいずれかを講じることが企業の「努力義務」として課せられることになりました。
旧法の高年齢者雇用確保措置 | 改正法の高年齢者雇用確保措置 |
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①65歳までの定年引上げ | ①70歳までの定年引上げ |
②65歳までの継続雇用制度の導入 | ②70歳までの継続雇用制度の導入 |
③定年廃止 | ③定年廃止 |
④高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 | |
⑤高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に a.事業主が自ら実施する社会貢献事業 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業 に従事できる制度の導入 |
2)高まるシニア活用の需要
内閣府「令和3年版高齢社会白書」によれば、いわゆる「高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は令和2年10月1日時点で28.8%となっています。高齢化率は今後も上昇を続け、令和 18(2036)年には33.3%、つまり総人口の3人に1人が65歳以上になると推計されています。
一方で、若年層を中心に労働力人口(15 歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)は減少局面に転じており、今後必然的に、企業としてはシニア層(60歳代以上)の活用を推進せざるを得ない状況になっていきます。
3)シニア活用に向けて企業の人事施策が追い付かない原因
厚生労働省「令和3年 高年齢者の雇用状況」によれば、60歳定年企業で、希望者が継続雇用される割合はほぼ100%であり、大半の企業が65歳までの制度は有しているものと思われます。しかしながら、「65歳定年延長」「66歳以上の継続雇用制度」については各企業でまだまだ整備が追い付いていないのが実情であり、何れも採用率は20%未満となっています。
65歳定年延長あるいは66歳以上の継続雇用制度の導入にあたっては、今よりも雇用期間を延長していくことに対してシニア層の処遇をどのように再設定するか、総額人件費の上昇にどのように対応するか、という点が非常に高いハードルになります。その他にも、シニア層の健康・能力の維持、仕事の確保、職場環境整備、といった総合的な人事施策が必要になる点が、企業の人事施策が計画的に進まない要因になっていると考えられます。
また、法的な制約が存在することも大きな課題となっています。いわゆる、「同一労働同一賃金法制」(改正パートタイム・有期雇用労働法)に関して、定年後に継続雇用された労働者(=有期契約の非正規社員)にも適用される点に注意が必要です(※)。特に、「長澤運輸事件最高裁判決」及び「同一労働同一賃金ガイドライン」の内容は、定年後の継続雇用時における賃金設計実務にも大きな影響を与えることになりました。
※65歳定年制を採用し、65歳まで正社員としての身分(=無期契約の正規社員)を継続する場合には、同一労働同一賃金の対象外となります。
2.「シニア社員の活躍を促進する」人事制度構築のポイント
「シニア社員の活躍」ということに関して、現場レベルでは「何から始めればいいか分からない」という状態の企業が非常に多く、とりあえず手探りで検討を開始してみるものの、計画段階で頓挫するか、無用に検討期間が長期化する傾向です。その主な原因は、初期段階の検討(自社の現状分析と方針策定)が不十分なことにあります。そこで、下図のように、初期段階の検討に重点を置き、自社としてのシニア活用方針を明確にした上で詳細な人事制度設計を行えるかどうかが成功のポイントになると、弊社では捉えています。
1)現状分析による課題抽出に重点を置く
現状分析は、「人員分析」「賃金・人件費分析」「職場環境分析」の3つの手法を総合的に実施することが重要です(下図参照)。これにより、自社のシニア社員活用における課題を幅広く抽出することが可能になります。
現状分析手法 | 概要 |
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①人員分析 | ・シニア層の人員ボリュームの変化と中長期的に組織で起こりうる問題を推察する中で、課題抽出を行う方法 |
②賃金・人件費分析 | ・高年齢化に伴う総額人件費の上昇を抑制しつつ、シニア層の個別賃金の最適化を図るために、外部の統計データと社内の状況を照らし合わせて課題抽出を行う方法 |
③職場環境分析 | ・組織の実態を把握し、理想とのギャップを明らかにすることで課題抽出を行う方法。ソフト面(=シニア自身の満足度)とハード面(=人事制度や職場環境など)に分けて分析を行う |
2)シニア社員の活用方針に沿った人事制度構築を行う
現状分析の検討結果も踏まえた上で、自社におけるシニア社員の活用方針(活用スタンスと言ってもよい)を全社的に明確にして共有しておくことで、その後の人事制度構築をスムーズに進めることが可能になります(下図参照)。
シニア社員活用方針例 | 概要 |
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限定活用型 | ・シニア社員に対しては限定的な仕事での雇用機会のみ提供し、法的な対応を最優先して活用する |
柔軟活用型 | ・正社員と変わらず高度な貢献内容を求める社員と、限定的な貢献のみを求める社員とで、メリハリをつけて活用する |
生涯現役型 | ・年齢に関係なく、積極的にシニア社員を活用する |
人事コンサルティング支援について
人事戦略研究所では、人事評価・賃金制度設計から運用支援まで、各種人事コンサルティング支援を行っております。ご相談は無料です。まずはお気軽に お問い合わせ ください。
執筆者
森中 謙介
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)
人事制度構築・改善を中心にコンサルティングを行う。業種・業態ごとの実態に沿った制度設計はもちろんのこと、人材育成との効果的な連動、社員の高齢化への対応など、経営課題のトレンドに沿った最適な人事制度を日々提案し、実績を重ねている。