人事考課(人事評価)制度改革7つのポイント

人事考課(人事評価)は、人事制度の中でもとりわけ重要かつ難解なものです。人事考課制度を機能させるために必ず押さえなければならない要点について、7つのポイントとしてまとめました。

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①人事考課(人事評価)の目的を明確にする

人事考課(人事評価)を行う目的とは何でしょう。単純で分かりきったような問いですが、案外答えに困る質問でもあります。

昇給や賞与の査定のため、と多くの社員さんは思っているようですが、それだけではありません。査定のためだけなら、上司や経営者が感覚的に決めてしまえば、手間も時間もかけなくて済みます。人事考課制度(人事評価制度)という以上、それ以上に重要な目的があるのです。

<人事考課(人事評価)の目的>

  1. 評価基準を明示することによって、期待成果や期待行動を社員に理解させる
  2. 適切に評価することによって、成長や行動革新のための方向性を社員に伝える
  3. 適切な評価に沿った処遇を行うことによって、社員のモチベーションを高める
  4. 評価結果のフィードバックを通じて、上司と部下とのコミュニケーションを図る

これらが人事考課(人事評価)の本来の目的ですが、会社ごとに、どの目的に重点を置くか、あるいはこれ以外の狙いをもつかといったことを決めなければなりません。

期待成果や期待行動を徹底したい会社であれば、経営計画や経営理念、行動指針といった企業の根本指針を軸に人事評価基準を整備しなければなりません。また、上司と部下のコミュニケーションを重視する会社の場合は、フィードバックに関するルール整備や考課者・評価者訓練、事後調査などに注力する必要があります。まずは、自社が人事考課を行う目的をどこに置くか、を明確にすることが重要です。

②人事考課を経営課題解決につなげる

現在のように経営環境がめまぐるしく変化する状況では、会社の経営方針や経営課題も大きく変わってきます。各社員にはその時々の経営方針・部門方針に基づいて活動してもらわないとなりません。したがって従来からの評価基準を踏襲するのではなく、会社が打ち出した経営方針、部門方針に沿った成果を上げた社員を、高く評価できるような評価基準としなければなりません。

例えば営業部門などで、新規顧客を増やさなければならないという課題があれば、新規開拓を積極的に行い、新規顧客の掘り起こしを行った社員が、高く評価されるような制度にするべきです。また売掛金の回収が必要な時期であれば、売掛金回収率を評価項目の一つとして重要視しなければならないでしょう。

さらに同じ営業部門であっても、営業職と管理職では期待されるレベルが異なります。管理職であれば、チーム全体の売上高や粗利益高などの業績達成に加え、営業施策の立案実行や部下指導などが求められます。

人事制度は企業経営の中のひとつのシステムです。会社の経営方針が変化すれば、それに合わせて社員に対する期待成果や評価基準も変わってきます。経営方針に沿って人事考課を改革し、経営課題や部門課題に沿った成果をあげた社員を評価し処遇することができる人事制度をつくり上げましょう。

③職種別・役職別に人事評価基準をつくる

社員の成果や行動・姿勢を公平に判断し、それを処遇に反映させ、今後の社員の成長に活用するためには、納得性と公平性のある評価基準が必要です。人事評価基準を設定するにあたっては、職種・役職別に期待役割・行動基準を設定すると、求められる基準が具体的で納得性が高まるという観点から望ましいといえます。

会社には、通常さまざまな職種があります。製造業であれば、製造、技術、製品開発、営業、事務スタッフ。小売業であれば、販売、仕入れ、販促企画、総務・経理といった具合です。

製造職であれば、生産性や品質向上、不良率の低減や改善活動を期待するでしょう。経理職であれば、会計を迅速に処理できるか、電話応対やコスト削減が求められるかもしれません。

またそれぞれの職種において、管理職、監督職、一般職といった階層があり、それぞれ求められる役割が違います。一般職層は、職種別の業務遂行面に評価基準がフォーカスされると考えられますが、管理職ではプレイヤーとしての優秀さよりも、組織を取りまとめて予算達成を目指し、部下管理・育成を行っていくことが求められるなど、階層・役職に応じて与えられる権限とともに求められる役割が異なることでしょう。

人事評価基準をつくることは、社内の役割に応じた評価のモノサシをつくるということです。自分たちの部門や職種、役職においては、どのような成果や行動が求められ、評価されるのか。このことが理解浸透できている組織と不明確な組織では、どちらが成果を上げやすいかは言うまでもありません。

④業績評価には期待成果を反映させる

業績評価とは毎年の「仕事の結果」を評価することです。仕事の結果といっても、求められる期待成果は各社員の役割や職種によって違います。各職種別の成績・業績の評価項目としては以下のような例があります。

成果・業績評価項目例

  成果・業績
営業職 売上高(粗利益高)目標達成率、売上高(粗利益高)伸長率、売上高(粗利益高)実績、新規開拓売上高(粗利益高)、新規開拓件数、リピート率、売掛金回収率
仕入職 担当商品売上高(粗利益高)目標達成率、担当商品売上高(粗利益高)伸長率、担当商品売上高(粗利益高)実績、交叉比率、粗利益率実績
店長職 店売上高(粗利益高)目標達成率、店売上高(粗利益高)伸長率、店売上高(粗利益高)実績、営業利益高目標達成率、営業利益高伸長率、営業利益高実績
企画開発職 担当開発商品売上高、開発商品粗利益高、開発件数、開発納期遵守率、テーマ達成度、開発コスト実績
製造職 生産高目標達成率、生産高実績、1人当たり生産高伸長率、仕入コスト低減率、製造コスト予算達成率
SE職
プロジェクト利益高、担当付加価値高、受注高、納期遵守率、納期短縮度、プロジェクト予算削減率

また、業績評価をするにあたって、どの範囲の成果・業績を評価するかも重要です。担当者であれば個人の業績を評価するだけで十分かも知れません。管理職であっても、プレイング・マネージャーとしての役割が求められている場合には、担当部門だけでなく個人の成果を評価も評価対象とした方がよいでしょう。

一方、総務・経理職や企画職のように、仕事の成果が業績指標として定めにくい職種もあります。これらの職種については、目標テーマを設定し、その達成度で評価する方式(目標管理制度)が多く見られます。経営計画や部門計画に沿った個人目標を設定し、実行度合いで評価しようというのですから、経営課題解決に直結しているという点においては理に叶っています。
ところが、この方法を機能させるには、経営計画の明確性、管理職の目標設定能力、目標レベル判定ツールなどの条件が揃わなければなりません。このような条件整備を疎かにして目標評価だけ導入すると、かえって混乱を招きますので、注意が必要です。

目標管理制度導入の初期段階としては、部署別・階層別の目標設定事例集などを作成・配布し、「適切な目標とはどのようなものか」を社員にイメージさせることも有効です。そうしたイメージを踏まえながら上司から部下に期待することを伝え、具体的な目標を設定していく手続きが、評価制度を機能させるためには非常に重要です。

評価表サンプルもあわせてご参照ください

⑤プロセス評価には経営理念・行動指針を反映させる

プロセス評価とは、職種や職位に応じて、業務遂行・姿勢、技能・知識を評価することです。各職種別のプロセス評価の項目としては以下のような例があります。

各職種別のプロセス評価

  業務遂行・姿勢 技能・知識
営業職 ・ 商談
・ 顧客訪問
・ 新規開拓活動
・ クレーム対応
・ 目標達成意欲
・ 折衝力
・ 商品知識
・ 顧客知識
・ 業界情報
商品開発職 ・ 商品コンセプトづくり
・ 設計業務
・ 創造性
・ 採算意識
・ 外注先管理
・ 市場情報
・ 生産知識
・ 生産技術
・ コスト分析力
経理・総務職 ・ 電話対応
・ 業務改善の提案
・ 伝票処理
・ 決算業務
・ 文書作成
・ パソコン操作技能
・ 経理知識
・ 税務知識
・ 言葉づかい
店長職 ・ 収益計画の立案
・ 部下育成
・ ローテーション管理
・ リーダーシップ
・ 接客業務
・ 財務知識
・ 人事管理知識
・ 業界情報・競合店情報

経営理念や行動指針を評価基準に

職種や職位に応じた期待行動や知識のほかに、経営理念や行動指針を共通要素として評価基準に加えることも有効です。 昨今ではバリュー評価として言われることもありますが、経営理念や価値基準・行動指針を人事評価に組み込むことにより、さらに企業の独自らしさが表現される評価制度となり、企業が目指す方向に進むための行動を全社的に意識させ、浸透させていくことに有効な手段となるでしょう。

評価表サンプルもあわせてご参照ください

⑥考課者(評価者)訓練、面接者訓練を実施する

評価基準が定まったとしても、実際に評価し、部下に伝えるのは上司です。上司に対して、考課者(評価者)、面接者としてのスキルを高めてもらわなければ、適切な運用は望めません。そこで、考課者(評価者)訓練、面接者訓練を実施する必要が発生しますが、ここでは自社で簡単に取り組めるプログラムをご紹介します。

(1)評価者のクセの把握・評価基準のすり合わせ

まずは、自社で簡単にできる考課者(評価者)訓練。これは、まず評価者(評価する側の上司)を1箇所に集め、5~6名程度のチームに分けます。次に、そのメンバーが共通で知っているAさんを被評価者とし、同じ人事評価表で一斉に評価した結果を、下記のように一覧表にします。

Aさんの評価(例)

  評価項目 評価者1 評価者2 評価者3 評価者4




顧客との関係構築 1 3 2 2
新商品の開発提案 1 3 2 2
営業活動計画の立案・遂行 2 3 2 3
商品・技術知識 2 4 2 3
交渉力 1 3 2 2





情報の共有化・浸透 1 3 2 1
コミュニケーション 2 3 2 3
業績・コスト意識 1 3 2 2
判断力・決断力・実行力 1 3 2 2
人材の管理・育成 2 4 2 3

※表内の点数は、標準評価を2点とした場合の各項目5段階評価(0~4点)です

1人の人物であるAさんを、同じ基準で評価したにもかかわらず、各人がつける評価点にバラツキが出ます。点数の甘い人、厳しい人、中心評価に集まる人、極端につけすぎる人、これらは各人の評価者としてのクセということになります。

そこで、評価項目1つ1つについて、なぜそのような点数をつけたか発表し合い、評価の偏りを是正していくのです。簡単な方法ですが、評価者としてのスキルアップに高い効果があります。

(2)フィードバック面接訓練(ロールプレイング)

次に、自社で簡単にできる面接者訓練です。面接者訓練は、実際のフィードバック場面を想定した、ロールプレイング(役割演技)形式で行ないます。

評価者の中から、2名を選び、参加者の前に出てきてもらいます。自薦でも他薦でも構いません。そのうち1名は、面接者である本人。もう1名には、その面接者にフィードバックを受ける実在の部下(その場にいない人)の役になりきって演技をしてもらいます。

10分か15分程度の時間を計り、本当の評価面接のつもりで、2人で演技を行います。ロールプレイング実施後、面接者の良かった点、改善を要する点について、参加者からの意見をまとめて、意見交換します。

これは、前に出てきた2名だけでなく、参加者にとっても参考になります。普段、他の人が面接する場面など、見る機会がないからです。これらの訓練を通じ、評価結果を判断根拠に基づいたフィードバックが適切に行えるようになることで、被評価者の評価結果に対する納得感が高まります。また、結果を返すだけではなく、部下の今後の成長課題を共有し、部下の仕事に対するモチベーションを高めていけるようなフィードバック面接となることを意識して、訓練中に意見交換ができるとよいでしょう。

⑦評価点の調整・決定の方法を見直す

いくら考課者(評価者)訓練を実施したとしても、評価点の部門間バランス是正などの調整機能は必要となります。通常、第1次評価者、第2次評価者というように、複数の評価者によって評価する場合がほとんどです。また各部門ではその部門の管理者が評価をしますので、社内における部門間の調整も必要になってきます。

評価点を調整するには以下のような方法があります。

(1) 上司の上司または役員が調整する
直属上司等が評価した結果をもとに、より上位の上司か役員が調整し決定する方法です。主に評価者の甘い辛いを調整します。調整者が客観性を保てる場合には有効な手段といえます。一方、調整者自身が被評価者の状態を把握していない場合は、調整するための判断基準が難しくなります。
(2) 評価者間の話し合いで決定する
第1次評価者と第2次評価者、第3次評価者との間で、話し合いにより決定する方法です。民主的ですが時間がかかるのと、上位の者の意見が通りやすくなります。
(3) 平均点を出す
複数の評価者の点数を単純または加重をつけて平均する方法です。器械体操やスキーのジャンプ競技のように、最高点と最低点を除いて平均するなどの方法もあります。事務的に速く処理できることが特徴です。ただし内容についての検証がなされないため、偏った評価の平均をとることになる可能性もあります。
(4) 係数を掛ける
評価者ごとの平均点をもとに係数化し調整する方法です。点数の甘い評価者と辛い評価者との間を調整します。全体の平均点とある評価者の平均点との差を調整します。単純に差をプラスマイナスする方法と係数を掛け合わせる方法とがあります。
(5) 評価調整会議を開催する
評価対象者が30名から50名までであれば、評価調整会議などの機関を設置する方法が有効です。複数の評価者が集まり、同一職種ごとに評価結果を発表し、検討しながら調整していきます。ただし、評価者が自分の担当部下以外の状況がほとんど分からない場合は、議論が進みにくくなります。

ここまでは、評価点の調整方法について記載しました。
その他、評価点を算出したのちに評価ランク(S,A,B,C,Dなど昇給・昇格・賞与の決定に用いられるもの)を決定する際の調整方法としては、例えば評価点を降順で並べて上から上位5%がS、15%がA、30%がB、…と「相対調整」方法をとる場合や、各部門に“持ち点”を設定して部門内でその持ち点に収まるようにする「持ち点方式」といった方法があげられます。

持ち点方式の例としては、S=5点、A=4点、B=3点、C=2点、D=1点とランクに対応する点数を決め、所属部員が20名の部門場合、部門持ち点合計が56~66点以内(平均2.8~3.3)になるように定めておくとします。部門長は、この持ち点に収まるように部員20名の評価ランクを調整して決定します。この場合、部門内の各部員の評価結果の調整は部門内で行っていただく形となります。比較的組織が大きい企業等で、全社的に評価調整会議が難しいが、部門間による極端な甘辛差をなるべく前もって軽減したいという目的の場合、こういった調整方法が運用しやすいかもしれません。事業部制をとる会社では、好業績部門は持ち点を多めに設定する、という手法が取られることもあります。

どの方法が優れているということは言い切れませんので、自社の組織サイズや目的に合った方法を検討し選択することを推奨します。特定の上司の好き嫌いで評価されているというのではなく、会社として社員の評価をする以上、決定プロセスについての透明性や手続き的な公平性も重要な要素となります。

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執筆者

本阪 恵美 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

前職では、農業者・農業法人向け経営支援、新規就農支援・地方創生事業に8年従事。自社事業・官公庁等のプロジェクト企画・マネジメントを行い、農業界における経営力向上支援と担い手創出による産業活性化に向け注力した。 業務に携わる中で「組織の制度作りを基軸に、密着した形で中小企業の成長を支援したい」という志を持ち、新経営サービスに入社。企業理念や、経営者の想いを尊重した人事コンサルティングを心がけている。