最低賃金の動向と人件費の見直し

■最低賃金は今年も上がる
 
例年、最低賃金の改定がなされる10月まであと2週間程となりました。今から約2年前に、「最低賃金はどこまであがるのか?」というブログ記事にて、最低賃金の動向を見据えた給与制度になっているかの早めチェックをお勧めしていましたが、自社の対応状況はいかがでしょうか。
 
中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の小委員会は、2021年度の最低賃金を全国平均で28円を目安に引き上げ、時給930円とすると決めました(2021年7月14日)。この28円の引き上げ額は、時給表示方式となってから過去最大で、上げ幅は3.1%となります。
 
これを基に各都道府県が実際の金額を決めるのですが、答申された改定額は、目安引き上げ額の28円をすべて上回りました。島根県は、さらに+4円とし、昨年から32円もの引き上げを決定しています。(詳しくは、令和3年度 地域別最低賃金 答申状況(ページ下部リンク)をご覧ください)
 
 
■今後もまだまだ上昇しそう
 
最低賃金は、2016年~2019年度において4年連続で3%超の引き上げが続きました。厚生労働省の政策に明記されている最低賃金の方向性「年率3%程度を目途として、名目GDP成長率にも配慮しつつ引き上げていく。これにより、全国加重平均が1000円になることを目指す。」が、まさに予定通り進められています。2020年度はコロナ禍による影響から、現行水準を維持することが適当との結論になりましたが、この2021年は、芳しくないGDPであるにもかかわらず、前述の通りの最賃アップが決定されました。菅義偉首相も「新型コロナ前に引き上げてきた実績を踏まえて、より早期に全国平均1千円とすることを目指す」と表明していることを踏まえると、GDPにかかわらず、2022年、2023年もこの調子で上がることを前提としておいたほうがいいかもしれません。
 
 
■上がってばかりの人件費、抑制する方法は?
 
ここまでの最賃上昇で、すでにパートタイム・有期雇用労働者の賃金を見直さざるを得ず、パートタイム・有期雇用労働者内の能力に応じた時給や、時給換算した正社員賃金との、バランス調整に毎年苦労されている経営者は多いでしょう。しかし、限られた人件費を効率よく分配するためにも、毎年都度の見直しにとどまらず、先行きを想定した人件費の配分方法や給与・賞与制度自体の見直しを行うことが重要です。
 
人件費増の要素は最低賃金だけではありません。正規・非正規の雇用労働者間における同一労働同一賃金への対応や、2022年10月からは一部のパート・アルバイトの社会保険の段階的な加入義務化も求められます。
 
逆に、給与制度導入から支給され続けている手当があれば、見直しによって人件費が抑制できる可能性があります。例えば、作業手当(現場の作業環境が悪く、身体的・精神的な負担が大きいため支給していたが、事業所の引っ越しにより空調設備が整い、負担減となった)、寒冷地手当(雪かきの早朝出勤代として支給していたが、現在は業者に依頼しており社員は出勤しない)など、給与・手当の支給目的を見つめ直せば、廃止・減額できる部分も見つかるかもしれません。
 
先行きを踏まえたうえで、早めに給与・賞与制度を点検し、改定を進めることをお勧めします。
 
◆関連リンク

最低賃金はどこまであがるのか?
令和3年度 地域別最低賃金 答申状況(厚生労働省)
最低賃金及び時間外労働割増賃金の計算における除外賃金について

執筆者

西澤 美典 
(人事戦略研究所 シニアコンサルタント)

前職の製造系ベンチャー企業では、営業・人事・総務・WEB制作担当等の実務に従事。
経営者の間近で幅広い業務に携わり、様々な企業や人との出会いを経て、「働く人々の毎日や職場を、より生きがいを感じることのできるものにしたい」という志を持ち、新経営サービスに入社。
経営者と共に、人事制度をキッカケにして、組織で働く人を元気にできるコンサルティングを心掛けている。
設計段階から、先々の運用をイメージした、組織になじみやすい制度づくりを行っている。
全米・日本NLP協会認定 NLPマスタープラクティショナー。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

バックナンバー