社会保険の適用拡大(2022年10月~)に関する企業の負担

前回、「最低賃金の動向と人件費の見直し」というブログ記事にて、今後の人件費負担の未来予想を書きました。その際に少し触れたのが、今回取り上げる「2022年10月から社会保険の適用拡大」です。
  
  
■企業の負担や対応は?
  
パート・アルバイト労働者を雇用する企業にとって、この適用拡大による社会保険費用の負担は非常に大きいものですが、これ以外に企業がどのような負担・対応をしなければならないかを考えてみましょう。
 
この”2022年社会保険適用拡大”のポイントは、「社会保険の加入は自由に選択できるものではなく、要件を満たしている労働者は必ず加入しなければならない」、という点です。
 
企業は、まずこの点について、パート・アルバムの方にしっかりと説明し、理解を得る必要があります。社員の生計に関わる部分ですので、社会保険料金、給与からの控除、年金のしくみなど、わかりやすい説明やコミュニケーションが求められます。その上で、要件を満たす社員について社会保険加入を行うことになります。
 
しかし実際のところは、要件を満たす社員全員を、社会保険加入の扱いにするわけにはいかないことも多いと思います。パートで働く主婦・主夫の中には、社会保険上の配偶者扶養範囲内で働きたい、と考える方もいるからです。
 
では、どうしても社会保険上の配偶者扶養範囲内で働きたい社員への対応は、どう考えれば良いでしょうか。
 
まず、当人に対しては、社会保険の加入対象とならない働き方を提案することになるのが一般的でしょう。その中で、会社が期待すること・やってほしいこと、当人が許容する労働時間内での働き方について、擦り合わせを行うことが肝要です。
 
その上で、確保できる労働時間数が減った分を補うために、その他の働きかけも必要です。
 
具体的には、正社員とパート・アルバイトの役割分担の見直し、生産性向上に向けた施策推進、労働者の採用などが考えられます。
 
  
■10月施行だけど、早め早めの対応が肝要
  
いずれも、それなりの時間と労力がかかるものです。正社員とパート・アルバイトの役割分担の見直しにあたっては、業務の実務把握、棚卸し、負担増になる社員へのフォローも考慮することになります。生産性向上に向けた施策推進にあたっては、まず、どのような生産性向上を進めるのか、組織体制や業務オペレーション面から検討が必要な場合もあるでしょう。労働者を採用するとなると、ただでさえ、募集~面接~採用で時間を要するというのに、人手不足で簡単に採用ができる環境ではない今、一筋縄では行かないことが考えられます。また、採用後の教育に時間を要することも見積っておくべきです。
 
こうして考えると、社会保険の適用拡大への対応策は、2022年10月よりもずっと前から準備を進める必要があります。厚生労働省が準備している社会保険適用拡大特設サイトには、パート・アルバイト労働者向けの案内チラシや、説明動画が充実していますので、これらを用いるなどして、労働者への説明・資料準備などの時間をできるだけ削減し、早めに改定の準備を進めることをお勧めします。
 
※法改正の詳細や、実際に会社が負担する社会保険料がおおよそどのくらい変わるのか、の試算については、下部の「社会保険適用拡大特設サイト(厚生労働省)」よりご確認ください。

執筆者

西澤 美典 
(人事戦略研究所 シニアコンサルタント)

前職の製造系ベンチャー企業では、営業・人事・総務・WEB制作担当等の実務に従事。
経営者の間近で幅広い業務に携わり、様々な企業や人との出会いを経て、「働く人々の毎日や職場を、より生きがいを感じることのできるものにしたい」という志を持ち、新経営サービスに入社。
経営者と共に、人事制度をキッカケにして、組織で働く人を元気にできるコンサルティングを心掛けている。
設計段階から、先々の運用をイメージした、組織になじみやすい制度づくりを行っている。
全米・日本NLP協会認定 NLPマスタープラクティショナー。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

バックナンバー