最低賃金及び時間外労働割増賃金の計算における除外賃金について

最低賃金及び時間外労働の割増賃金に関する相談を受けることが多くなっています。特に小売業・サービス業で顕著です。

最低賃金に関してはここ数年の急激な上昇で最低賃金割れの懸念が各社で強くなっており、時間外労働に関してはいかに削減していくかが大きな課題となっています。
 
その中で、お客様先でも誤解されているケースが多いのが、法律上の最低賃金及び時間外労働の割増賃金の計算方法についてです。

ご存じのように、最低賃金及び時間外労働の割増賃金ともに、計算する際に除外する賃金項目がありますが、間違った計算により、最低賃金割れや残業代の未払いに気づけていない例が多くあります。

そもそも、「除外する」といっても意味合いが異なります。最低賃金の場合は「除外しなければならない」項目であり、時間外労働の割増賃金の場合は「除外してもよい」項目なのですが、このあたりも誤解があります。
 
厚生労働省が発表している資料に基づき、両者の違いを以下の表にまとめました。

 

最低賃金計算において
除外しなければいけない項目

時間外労働の割増賃金計算において
除外することが認められる項目
(除外せず含めて計算してもよい)

(1)臨時に支払われる賃金 (1)臨時に支払われる賃金
(2)1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など) (2)1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
(3)

・所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)

・所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)

・午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)

(3)時間外割増賃金(最低賃金の場合と同様の考え方)

※残業代の前払いを行う、いわゆる「固定残業代」も除外賃金となる

(4)精皆勤手当、通勤手当及び家族手当 (4)通勤手当、別居手当、子女教育手当、家族手当、住宅手当

 

最低賃金計算においてよくある間違いが、表中の「精皆勤手当と家族手当」を含めて計算している例です。正しく再計算したところ、近年の最低賃金大幅上昇と相まって一部の社員は最低賃金を割っていたことが判明して大事になった、という話があります。
 
時間外労働の割増賃金計算では、表中の「家族手当と住宅手当」に関する間違いがよくあります。家族手当、住宅手当とも、手当の内容によっては除外が認められないケースがあり、このことが正しく理解されておらず、除外してはいけないのに除外していたことで、未払い残業が発生することがあります。
 
除外できるケースについて、家族手当については「扶養家族の人数またはこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当」、住宅手当については「住宅に要する費用に応じて算定される手当」に限ることが、厚生労働省から発表されています。扶養家族の有無、家族の人数に関係なく一律で支給される家族手当、住宅の形態ごとに一律で支給される住宅手当は除外できません。改めて自社の運用に誤りが無いかどうか、確認してみてください。

執筆者

森中 謙介 
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)

人事制度構築・改善を中心にコンサルティングを行う。業種・業態ごとの実態に沿った制度設計はもちろんのこと、人材育成との効果的な連動、社員の高齢化への対応など、経営課題のトレンドに沿った最適な人事制度を日々提案し、実績を重ねている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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