ヒトと組織の戦略に『パーパス』を活用する⑪

■組織の問題は3年前に意思決定したことから(その2)

 

前回のブログで、ヒトにまつわる問題を例に挙げて、何らかの問題が発生した場合、実施した対策の効果が出てくるまでには一定の『時間』(年単位)を要する、ということを述べました。それ故、未来を見据えてあらかじめ必要な対策や準備を先行管理し、実施していくことは組織づくりのコツであり、経営のコツであるとも言えます。

今回はその視点をふまえて、『時間』というものを意識し、味方につけて、問題を解決するための2つのポイントについて述べたいと思います。

 

1つ目のポイントは、発生した問題を解決するために『未来を見据え、対策を先行管理して行う』こと

2つ目のポイントは、今後同様の問題が発生しないように『過去を振り返り(過去をさかのぼり)、原因分析をしっかり行う』こと

 

そして、1つ目のポイントである『未来を見据えた対策実施の先行管理』を機能させるためにも、そもそもなぜ問題が発生しているのか?について、原因を冷静に分析することが大前提となります。

 

長年、コンサルティングの現場で多くの企業を見てきましたが、問題の分析や過去の反省を省略したまま(回避したまま)、未来の対策ばかり論じる企業が少なくないように感じます。

言葉を換えれば、問題分析を省略した結果、何が原因で現在このような状況が発生しているのかについての認識がずれたまま、効果の乏しいズレた対策を進めていき、結果として同じ問題が繰り返して発生している組織や企業が意外と多いということです。

 

このブログでは人事関連の分野をテーマとしていますので、ここからは組織やヒトの問題に焦点を当てて考察してみたいと思います。

例えば、どのような企業でも組織やヒトにまつわる問題は、冷静に分析をしていくと、ある日突然、突発的に発生するものは意外と少ないことが観えてきます。

むしろ、問題の原因となるモノゴト(要因)は数年前から発生していて、それらがほぼ放置されたまま、その後の時間経過の中で累積し、ある閾値を超えたときに目に見える問題として現れてくるケースが結構多いものです。

 

以下、中小企業の人材確保の問題を例として述べたいと思います。

皆さんもご存知かと思いますが、近年、中小企業にとっては人材の採用や定着がますます難しくなってきています。

このような時代・環境の中で、積極的に対策を講じる企業ほど、採用力強化の取り組みや定着率を高めるための工夫、退職した社員の再入社を目的としたアルムナイ制度のしくみ導入など、様々な取り組みやチャレンジを活発に行っているようです。

しかしながら、せっかくの取り組みにもかかわらず、表面的なレベルでしくみ・ルールを導入するだけで終わってしまい、狙った効果が得られていない企業も少なくないようです。

狙った効果が得られていない理由の1つに、そもそも本質的な問題解決が行われていないことが挙げられます。

問題解決をしようとした場合、表面的な部分だけで何か対策を講じても意図した結果につながらないことが多いものです。そして、問題が生じている本質的な部分での問題解決ができなければ、問題は繰り返し発生するものです。

例えば、『人材採用力の強化』という言葉があちこちで聞かれますが、そもそも働く側のヒトからみて『企業としての魅力(ブランド力、給与水準・処遇、将来性、企業文化・風土、働きやすさetc.・・・)』がなければ、いくら小手先の広報や周知活動等を行っても人材は入ってきませんし、たとえ入社したとしてもすぐに辞めてしまう、ということが起こりがちです。

もちろん採用市場の中で、競合他社と比較した際に企業としての魅力や競争力が十分にあり、たまたま世の中ではほとんど知られていなかった、という企業の場合は、広報活動や面接のしくみなどを高度化することで採用が上手くいく場合もありますが、そのような企業はそれほど多くはないようです。

現時点では、人材採用市場の中で、大企業含めて他社よりも抜きん出るほど目立った魅力があるか?という点については発展途上の段階である中小企業も少なくないかと思います。

もし、現在、企業として採用市場における競争力が乏しいのであれば、企業としての本質的な魅力(付加価値の高さ、競争力等)を中期的な時間の中で培っていかないといけません。

そして、人材採用に限らず、どのような問題でも、本質的な問題解決をはかろうとするほど大抵は一定の時間を要するということもあらためて意識しておくことが大切な時代となってきたと思います。

 

人材の定着率の問題についても、人が離職した瞬間だけを捉えて対応するのではなく、数年単位の期間(時間)を意識して問題解決を行っていくことが大切です。

なぜなら社員が離職する場合、何か急な理由が発生して退職することは実はそれほど多くありません。人材の離職について専門機関が調査した分析結果などを観ても、大抵の場合は、退職する1年~数年前に社員が感じる不満や問題が発生しており、それらの問題が一向に改善されないまま、組織の中で繰り返し発生していることで、退職の決意に至っているケースが結構あります。別の言い方をすれば、退職という意思決定の芽は組織の中で1年以上前に生じていることが少なくないと言えます。

先にも触れましたが、最近の人事コンサルティングの現場では一度退職した社員をあらためて採用しやすいように『アルムナイ制度』のしくみの導入についてのご相談も増えています。制度自体の設計は比較的簡単に実施できますが、制度を策定・導入したとしても、上記に挙げたような状況の組織の場合は、『アルムナイ制度』のしくみが機能しづらいものとなります。いくらしくみや制度を整えても、社員自身がその会社や職場に戻りたい!という感情がない場合、入社はしないからです。

一見当たり前の話のように思えますが、意外とその前提を整理、認識されないまま、制度さえ導入すれば問題が解決するのではないかと思われている経営者や人事担当者様も時々いらっしゃるのではないかと感じています。

これからの時代は、以前にも増して、企業の人材確保のためにはリファラル採用やアルムナイ制度といったものも大切なしくみの一つとなってきますが、それらのしくみが機能するためにも社員側が悪印象を抱きやすい組織風土やマネジメントであることはできるだけ避けることも大切な要因となってきています。

 

今回のブログのまとめとして、大切なことを繰り返して述べます。

社員を採用し、教育を行ったとしても『ヒトが直ちに育つ!』ということがなかなか無いように、ヒトも組織も変化が目に見える形で現れてくるには一定の時間を要するものです。

言葉を換えれば、ヒトも組織も『良くなるとき』も『悪くなるとき』も一定の時間経過の後に目に見える形で現れやすいということです。

 

それ故、現在を起点に『時間という軸』を意識し、過去の振り返りと未来への対策を実施していくことは即効性の無い大変地味な話ではありますが、経営効率を上げていく上では有効な手段となり得ます。

ヒトと組織を見つめる際、今、生じている問題は、すでに数年前に小さな予兆として現れていたものであり、その時点ではたいしたことはないだろう!と判断して、そのまま放置することにした、という意思決定がなかったか?

あるいは、ヒトや組織において意思決定を選択するとき、この選択結果が数年後には徐々にどんな影響をもたらすだろうか?このような考察を行う習慣は地味ではありますが経営において大変役立ちます。

 

新しい1年がはじまりますので、現在発生している問題を洗い出し、問題発生の原因について過去もさかのぼった上で冷静な分析を行ってみてはいかがでしょうか。

そして、本質的な原因が掴めたら、問題解決のためにしっかり対策と計画を立案し、1年だけでは解決できそうにない構造的な問題ほど、数年間の改革計画をしっかり立てた上で、スピード感を持って着手、実施してみてはいかがでしょうか。

そして、数年後に自社の組織を振り返ったときに『2025年の年初からしっかり分析し、取り組んだことが成果として現れた!』と実感できるように新年をスタートしてみてはいかがでしょうか。

 

お知らせ

『パーパス(purpose)コンサルティングについて』

https://jinji.jp/hrconsulting/idea/

 

『パーパス(purpose)』を反映させた役割等級制度策定について』

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執筆者

花房 孝雄 
(人事戦略研究所 上席コンサルタント)

リクルートグループにて、社員の教育支援に従事。その後、大手コンサルティング会社にて業績改善のためのマーケティング戦略構築などの支援業務に従事。現在は新経営サービスにて大学の研究室、人材アセスメント機関などとの連携による組織開発コンサルティングを実施中。
主な取り組みとして、人的資源管理研究における最新知見を背景とした「信頼」による組織マネジメントや企業ビジョンを構造的に機能させるビジョン浸透コンサルティングを展開中。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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