ヒトと組織の戦略に『パーパス』を活用する⑥

■企業がパーパスを策定し、機能させた場合のメリットについて(その4

前回に続き、企業として共感を生み出すことのできる『パーパス(purpose)』があることによって生まれる7つのメリットの5つ目について解説していきます。

 

5.企業としての独自性が文化として定着する(フィロソフィーが定着する)

 

2)『企業文化』が形成されるプロセスと『企業文化』が組織に及ぼす影響

前回のブログで、『企業文化』そのものが企業の商品開発結果や業績結果に密接に影響を及ぼすことについて触れましたが、今回はその点について解説していきたいと思います。

 

弊社コンサルティングの現場でも日々、数多くの企業から様々なお悩みをお聞きしていますが、時代を問わず、ほとんどの企業で共通して挙がってくる経営課題が1つあります。

それは『今後の付加価値の源となる新たな商品やサービスの開発をどのように実現するか?』です。

 

ところが、会社方針として、何らかの新商品開発方針を掲げてはいるものの、常に中途半端な取り組みとなり、結果として新商品の開発に至らない、というパターンを繰り返す企業にも数多く出会ってきました。
このような企業での商品開発が成功しない根本的な原因の1つに、企業・組織として
 

新商品を開発するために『継続的に開発行為に取り組む行動習慣が存在していない』

 
ことが挙げられます。
 

言葉を換えれば、何かしらのアイデアや経営陣の瞬間的な決意・方針があったとしても、開発行為に対して具体的に焦点を絞り、具体的に何をどこまで取り組むか?予想や想定とは違う状況が発生した場合は、どのように軌道修正をはかるか?等を具体的に詰め切ることを行わない(※単なる会議は沢山行っているが、会議参加者が何となくエネルギーを使ったという自己満足感があるだけで、毎回、具体的に詰め切ることなく会議が終了することを繰り返す等も含みます)。
あるいは計画は立てたものの、取り組みの途中で次第に熱量や優先順位が下がり、結局商品の開発までは至らない。加えて、開発途中まで得た経験や知見なども蓄積されず、その後に活かされない・・・。などという『行動習慣』・『行動パターン』が根付いています。

 

(このような行動習慣・行動パターンが文化として根付いている企業は、具体的に詰め切らない習慣、誰もリスクも責任を負わないといった行動習慣が組織内で繰り返され、そして強化され、悪い行動習慣が知らず知らずのうちに想像以上の影響力を発揮するため、商品開発を試みても途中で立ち消えとなることを繰り返します。)

 

以上、新商品開発という切り口から組織における『行動習慣』について述べてきましたが、新商品開発に限らず、どのようなテーマにおいても組織の中で日々繰り返されている『行動習慣』が大きな影響を与えます。

そして、組織の中で日々繰り返されている『行動習慣』こそが、その会社の『企業文化』を形づくっていきます。

 

それ故、組織の『行動習慣』を変えていけば、自ずと『企業文化』は変わっていきます。

加えて、『企業文化』は顧客や市場など他者側からの視点で観ると、企業として一つの特性・特徴として認知されるようになります。

その特性・特徴は顧客や取引先から、良くも悪くも『あの会社はこのような風土がある・・・』といった印象・評判を抱かれるといった形で認知されていきます。ちなみに自社に対する印象や評判が顧客や市場側から長い期間に渡って、『信頼性が非常に高いもの』として認知された場合は『ブランド』となっていきます。

(『ブランド』の形成については次回以降で触れる予定です。)

 

とても重要なことなので、繰り返しますが、企業・組織としての『行動習慣』・『行動パターン』は組織(=企業)において一つの志向性を持ち、想像以上の影響力を及ぼしながら、組織(=企業)に『行動結果』、『業績結果』をもたらします。

しかしながら、短期的な『業績結果』についてはどんな企業も敏感にはなるものの、中長期的な『業績結果』に影響する『組織の行動習慣』=『企業文化』については、鈍感な企業が少なくないと思います。
 

(※表面的なレベルで『企業文化』の変革に取り組む企業は数多くありますが、組織の体質=行動習慣を変える深さ・レベルまでの中長期的な取り組みについては着手しない企業が沢山あります。

※但し、企業としての短期的な利益と中長期的な利益はトレードオフの関係となりやすいため、企業によっては、新商品の開発など中長期的な投資や取り組みはあえて行わず、短期的な合理性を追求し、短期的な経営効率や業績を最大化するという経営戦略・方針を採択している場合もありますので、そのような企業方針の場合は別の視点で論じる必要があります。) 

 

新商品開発など中長期的な視野で取り組む必要があるテーマほど、『組織の行動習慣』=『企業文化』という目には見えにくい力の影響を大きく受けますので、自社の経営ビジョン実現を考える際は、ビジョン実現に向けて推進できる『組織の行動習慣』=『企業文化』となっているか?を是非チェックしてみることをおすすめします。実際にチェックを行えば様々な発見があると思います。

そして、『組織の行動習慣』=『企業文化』の形成には、自社の人事のしくみや『パーパス(purpose)』が大きく関わってきますので、次回も引き続き、『企業文化』をテーマに解説していきたいと思います。

 

◆お知らせ

『パーパス(purpose)コンサルティングのページをリニューアルしました』
https://jinji.jp/hrconsulting/idea/

執筆者

花房 孝雄 
(人事戦略研究所 上席コンサルタント)

リクルートグループにて、社員の教育支援に従事。その後、大手コンサルティング会社にて業績改善のためのマーケティング戦略構築などの支援業務に従事。現在は新経営サービスにて大学の研究室、人材アセスメント機関などとの連携による組織開発コンサルティングを実施中。
主な取り組みとして、人的資源管理研究における最新知見を背景とした「信頼」による組織マネジメントや企業ビジョンを構造的に機能させるビジョン浸透コンサルティングを展開中。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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