ヒトと組織の戦略に『パーパス』を活用する⑦

■企業がパーパスを策定し、機能させた場合のメリットについて(その4)

前回に続き、企業として共感を生み出すことのできる『パーパス(purpose)』があることによって生まれる7つのメリットの5つ目について解説していきます。

 

5.企業としての独自性が文化として定着する(フィロソフィーが定着する)

 

3)『企業文化』が組織にもたらすもの

~今年はどんな『コトバ』を企業内で流行らせますか?~

 

前回のブログでは企業・組織としての『行動習慣』・『行動パターン』が一定の期間を経ると『企業文化』となり、その『企業文化』が再度、組織の『行動習慣』・『行動パターン』に影響を与えていくことの関係性についてふれました。

そして、『組織の行動習慣』=『企業文化』が、自社のビジョン実現に向けて有効なものとなっているか?あるいはビジョン実現を阻む『阻害要因』となっているかについてチェックしてみることをおすすめしました。

 

さて、自社の『企業文化』を捉える際に、企業文化を診断するためのサーベイや意識調査を実施しなかったとしても、ある程度、自社文化の類推を可能にする有効な方法をひとつご紹介します。

それは組織の中で日常的に使われている『ホメ言葉』が何であるか?を観ることです。

なぜなら、組織内で使われている『褒め言葉』や『賞賛されること』が組織・集団内の価値観を形成し、その価値観に沿った思考や行動が強化され、更に企業としての価値観、行動習慣として定着し、組織運営や個人の行動に大きな影響力を及ぼしていくからです。

『褒められること』、『賞賛されること』を観察すると良いと申し上げましたが、別の見方による捉え方も可能です。

上記の裏返しの構造となりますが、自社では『何をしないと組織において、叱責されるか?冷遇されるか?』、または『何を達成できないと、組織内で居心地が悪くなり、組織に居づらくなるか?』という点を観察する方法でも、自社の風土や文化の特性を類推することができます。

 

近年は企業として、『パーパス(purpose)』や企業理念などに『コンプライアンス』を明確に掲げ、HP上などでも打ち出している会社が多くなっています。ところが、その一方で、大企業でも中小企業でもコンプライアンス違反にまつわる不祥事が発覚し、報道されるケースが後を絶ちません。

一部のケースでは明らかに悪質な事例もあるようですが、コンプライアンス違反で報道されている多くの企業・組織において、『コンプライアンス』を最初から全く無視したり、必要のないものとして軽んじたわけではなかった可能性もあると思います。

 

言葉を換えれば、経営陣も、現場社員も最初から『コンプライアンスなど気にしなくてよい!』と考えていたケースは少ないように思います。

但し、『コンプライアンス』も大切なことであるけれども、それよりもはるかに重要で優先される価値観、意思決定基準が存在し、それらが組織内で優先されてしまうことが往々にしてあったのではないでしょうか。

『コンプライアンス』も企業として大切な1項目、1要素ではあるものの、それよりも更に重要な別の項目・要素があり、両者を比較した場合、『コンプライアンス』という項目の比重が小さくなってしまったり、優先順位が下がってしまうことがあったのではないでしょうか。その結果として、『コンプライアンス』は対外的には重要な基準として掲げられているものの、実態としては形骸化し、組織内の行動基準としての影響力を失ってしまっているというケースが多いように思います。

 

日本人の場合は、良くも悪くも周囲の『空気』を読み、それに合わせて発言・行動してしまうなど、集団内での『同調行動』をしてしまいやすいことや、集団内の『同調圧力』の影響を受けやすいという指摘も事あるごとになされてきました。どのような企業でも、組織全体の『空気』の中で、1人1人の社員も知らず知らずのうちに組織内の『空気』、価値観、行動習慣に合わせてしまう。あまり自覚のないまま無意識的に飲み込まれて行ってしまう・・・といった傾向もあるように思います。

(※この傾向は方向付けによっては、集団全体が良い価値観、良い行動習慣に沿って動くという利点も有していると言えます。また、日本人に限らず、どのような組織においても、集団内では集団心理が働きやすいため、集団内の価値観や行動パターンは必ず個人に影響を及ぼします。)

 

また、これまでも多くの企業の不正にまつわるニュースが流れましたが、どのケースにおいても、『なぜそのようなことが起きたのか?』という原因分析については、『行き過ぎた売上結果を求めた結果、このようなことが起きてしまった・・・』とか、『短期的な成果や業績結果を極端に求めすぎた結果、このようなことが起きてしまった・・・』といった説明が定型句のように語られることが多いように思います。

そもそも、行き過ぎた売上結果をなぜ求めたのか?誰がそのような意思決定を行い、組織運営を行ったのか?現場に無理や不正が生じやすいマネジメント構造を誰がつくり、推進したのか?等、より本質的な原因分析を行わないと問題解決には至りませんが、今回のブログにおいては、『短い期間で実力以上の成果ばかりを過剰に求めることによる弊害』について焦点を当て、2つのことを述べたいと思います。

 

まず一つ目として、確かに、中長期的なテーマ(根本的な問題が含まれることが多い)は先送りして、目先の短期的な成果ばかり求めることは非常に問題が多いと思います。加えて、近年、多くの企業において大なり小なりそのような傾向があるようにも感じます。この点については、経営陣も人事部も、今一度意識的に捉え、顧みることが大切だと思います。

二つ目に述べたいことは、これらの不祥事を見て、中長期的な視点が大切だから、短期的な成果はそれほど求めなくても良いという解釈や方向付けをすることも間違いのもととなるということです。

企業経営や組織運営においては、しっかりと成果を出し、成果責任を果たしていくということは当然ながら重要です。中長期的な成果だけでなく、短期的な成果についてもしっかり目標を定め、成果を出していくことを両立させる、バランスさせる組織を創っていくことが重要です。そして、中長期成果と短期成果が両立するようなバランスの度合いについて、これまで以上に思慮深く、思考省略せず、具体的な計画や方法を詰め切って経営や組織運営をしていくことがあらためて重要だと思います。

 

また、様々な不正や不祥事が起きた背景には、企業や組織として、目指す成果や結果を出すための実力が不足している(実力が培われていない)にも関わらず、ずるいことや不正をして結果を出そうとする意思決定基準が背後で働いてしまっていることも少なくないと思います。

何らかの不正をしても、すぐに明るみに出るようであれば、まだ大事になる前に、反省や改善対応ができる可能性がありますが、大抵の企業や組織の不祥事の経緯を見る限り、不正をしてもすぐには発覚せずにそのときはなんとかごまかせてしまうことも少なからずあるのではないでしょうか。

ここでとても重要なことは、小さな1回でも繰り返すたびに大きなものとなっていくということです。

ヒトも組織も何かの行動を1回ごと繰り返すたびに、それが当たり前の習慣となり、感覚も麻痺して、知らず知らずのうちにどんどん過剰なことをやってしまうという傾向を持っています。

ひとつひとつのウソやごまかしは、小さいように見えても、繰り返すうちに大きくなっていく傾向があることと、そのようなことが集団心理の中で行われていくと、悪い意味での相乗効果が働き、いつのまにか一人一人の実感をはるかに超えた規模で問題が大きくなっていくということが起こります。

このように一つの行動がフィードバックして、次の行動へとつながり、更に次の行動へとつながるというフィードバックサイクルこそが、前回のブログでも述べた組織内の『行動習慣』でもあり、それが組織の風土、体質をつくり、『企業文化』へとなっていきます。

 

前回のブログでも付加価値や独自性の形成について同様の文脈で述べていますが、目指す結果を出すための実力が不足しているとき、不足分を埋める、或いは超えるための実力を形成するためには、短期的な取り組みや努力だけでは成しえないことも多いものです。M&Aなどによる外部からの新たな資源調達ができる場合等、一部例外はあるかもしれませんが、通常は実力を形成するためには一定の取り組み時間(中期的な取り組み)が必要となることが多いものです。

そのため、あらかじめ数年先を見越して付加価値形成をはかるための組織運営を行うこと、問題を先送りせず、中期的な未来をふまえて組織運営のレベルを常に向上させ続けることがとても大切となります。尚、この点について、コンサルティング現場での実感としては、中堅・中小企業においては、まだまだ取り組む余地、伸びしろがある企業も少なくないと感じています。

繰り返しとなりますが、中長期を見据えて、しっかり自社のブランドや企業の価値を高めるために良いフィードバックサイクルを回すことがとても重要です。そして、良いフィードバックサイクルを回すために、フィードバックサイクル、『組織の行動習慣』に対する方向付けがとても重要なポイントとなってきます。

 

そして、良いフィードバックサイクルが回る組織をつくるためにも、自社の組織では、何が優先されるのか?何が賞賛され、何をなす人が組織の中で影響力を高めるのか?このような組織内の価値観、企業文化の設計が非常に重要なテーマとなってきます。

また、そのためには自社の『パーパス(purpose)』をウソのないものとして定め、『パーパス(purpose)』を中長期的な時間軸で一貫性を持って機能させることが重要なコツとなります。それができるようになると『パーパス(purpose)』に沿って、組織のフィードバックサイクルが回り、行動習慣となり、『企業文化』が形成され、『企業文化』は目には見えない影響力を持って常に組織を一定の方向に向かわせる働きを行います。

 

新しい1年がはじまりますので、上記に述べてきたようなことも視点として加えながら、将来ビジョンの実現のために、今年以降はどんなコトバを組織内で褒め言葉として流通させていくか?どんな価値観、価値基準を組織に浸透さえていくか?をあらためて検討してみてはいかがでしょうか。

 

次回も、引き続き企業がパーパスを策定し、機能させた場合のメリットについて述べていきます。

 

 

執筆者

花房 孝雄 
(人事戦略研究所 上席コンサルタント)

リクルートグループにて、社員の教育支援に従事。その後、大手コンサルティング会社にて業績改善のためのマーケティング戦略構築などの支援業務に従事。現在は新経営サービスにて大学の研究室、人材アセスメント機関などとの連携による組織開発コンサルティングを実施中。
主な取り組みとして、人的資源管理研究における最新知見を背景とした「信頼」による組織マネジメントや企業ビジョンを構造的に機能させるビジョン浸透コンサルティングを展開中。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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