グループ会社(子会社・関連会社)向け人事制度の構築ポイント

-もくじ-

  1. グループ企業ごとの人事制度が求められる背景
  2. グループ会社の人事制度と親会社の方針
  3. グループ企業間の関係性に応じた制度方針
  4. 業種別の人事制度構築の要点
  5. ケース別 子会社・関連会社の人事改革事例

1.グループ企業ごとの人事制度が求められる背景

 グループ企業(子会社、関連会社)の人事制度が求められている背景としては、以下のようになります。

上場企業は、連結決算により子会社の収益責任にシビアになってきた

親会社との取引関係が事業の中心ではない子会社が増えてきた

出向ではなく、転籍およびプロパー社員の割合が高くなってきた

成果主義の浸透により、業種に合った人事制度が求められるようになった

子会社に収益を求めるなら、人事の独立性とセットで!!

2.グループ会社の人事制度と親会社の方針

 グループ会社の人事制度を考える際には、各社の人事制度の状況と、親会社の方針について整理しておく必要があります。

グループ会社の人事制度の状態は、どのレベルか?

【レベル1】 成り行きに任せ、これといった人事制度はない
【レベル2】 業種に関係なく、親会社の人事制度をそのまま適用している
【レベル3】 独自の人事制度構築に取り組むも、様々な事情により運用には至っていない
【レベル4】 独自の人事制度構築を導入し、運用できている
【レベル5】 独自の人事制度が十分に機能し、社内に定着している

親会社のグループ会社に対する
人事方針は、どのパターンか?

【パターン1】 グループ会社の自主性は、基本的に認めない
【パターン2】 グループ会社の自主性に任せ、特に制約は設けていない
【パターン3】 グループ会社の独自性が確立できるよう、積極的に支援している

3.グループ企業間の関係性に応じた制度方針

 とはいうものの、グループ企業間の関係性や親会社のスタンスによって、人事制度の方向性は異なります。まずは次のようなポイントに着目して状況を整理してみましょう。

  • 業種、職種の相違
  • 取引関係の強さ(子会社の収益が親会社にどれくらい依存しているか)
  • 出向社員とプロパー社員の比率
  • 子会社の社内体制(独自制度の構築、運用に堪えうるか)
  • 親子間で賃金水準が逆転することを認めるか
  • 子会社単体の業績を賃金に連動させることが可能か
  • グループ企業間で分離困難な制度はあるか(共通の企業年金制度、福利厚生制度など)

 これらの要素を踏まえて、グループ各社について人事制度方針を決めていきます。親会社との関係性が強い場合、例えば実質的に親会社の一部門となっていたり、親会社としか取引関係がなかったりするときは、子会社の人事制度を独立させるメリットは相対的に小さくなります。 制度を各社の自主性に委ねる場合も、グループ全体の統一感を出すために、理念や行動指針に関する部分に共通性を持たせたり、体制が不十分な子会社の運用を支援したりする形で、親会社が関与することはありえます。 子会社・関連会社が独自の人事制度を持つ意義をグループ全体の視点で考え、親会社の制約や関与の程度を明確にして、部分最適と全体最適の両方に配慮することが重要です。

企業ごとに制度方針を検討した事例

企業名

業種

社員数

取引

関係

独自性

水準

逆転

業績

連動

年金

労組

人事制度方針

自社

メーカー

800名

―

―

―

実施済

DC導入予定

あり

昨年導入の人事制度を定着させる

A社

商社

350名

70%

一部可

不可

不可

グループ共通

グループ共通

等級基準、人事評価基準のみ独自策定を進める

B社

ネット通販

150名

なし

可

可

可

なし

なし

賃金も含め、業界に適した人事制度を独自設計で

C社

運送

180名

30%

一部可

不可

可

単独

単独

業界に適した人事制度設計を支援する

…

…

…

…

…

…

…

…

…

…

4.業種別の人事制度構築の要点

 業種によって抱えている部門や社員の性質は様々なため、人事制度が目指すべき方向性も異なります。まずは、業種ごとの人事制度構築のポイントを押さえておきましょう。

① 製造業

 部門の数が多く、それぞれに業務内容や求める貢献が大きく異なります。個人・短期での成果が明確な営業職、中長期的な成果が求められる開発職、チームでの貢献が主になる製造職、サポート部隊としての総務・事務職といった特徴に合わせるため、人事評価基準は、部門ごとに分けることが好ましいと言えます。場合によっては賃金制度も部門別に設計することを検討すべきでしょう。いわゆる職種別賃金、部門別賃金という発想です。

② 商社・卸売業

 組織の中心となる営業部門のモチベーションを高められるよう、業績評価制度や賞与・報奨金などのインセンティブ制度を中心に検討します。個人業績を重視しすぎるあまり、組織内の連携が弱くならないよう、人事評価においても、個人業績とチーム業績のバランスをとることが重要です。

③ 小売業

 店舗と本部に組織が大きく分かれるため、それぞれの役割に沿った制度設計が求められます。各店舗の収益や管理のレベルを高めるためには、優秀な店長をいかに育成・処遇していくかが重要になります。また、社員の多数を占めるパート・アルバイトの活用が、サービス向上の鍵を握っています。

④ IT関連企業

 SEなどの技術者は、職人気質で自らの専門性強化に関心が高い反面、顧客とのコミュニケーションや組織マネジメントには苦手意識を持つ人も多くいます。そのため、業務品質だけでなく、顧客満足や生産性にも意識を向けさせるための評価基準や教育研修が欠かせません。

⑤ 建設工事業

 外部要因によるコスト変動に加えて、他業種に比べてどんぶり勘定的な体質があるため、業績の波が激しくなりがちです。案件ごとの収益管理を行って人事評価などに反映させるなど、社員のコスト意識を高める工夫が必要です。

⑥ 不動産業

営業職については、歩合給が大きな割合を占める企業も少なくありません。その場合、短期的な成果だけを追い求めてしまいがちなので、中期的な取組みや成果を評価するしくみも有効でしょう。

5.ケース別 子会社・関連会社の人事改革事例

 それでは、さまざまなケース別に、子会社・関連会社の人事制度を改革した事例をご紹介しましょう。

【ケース1】近隣業種で取引関係のないケース

【親】通信機器メーカー 【子】機械メーカー

【経緯】

親会社がコンサルタントを活用し、新人事・給与制度を導入。グループ企業に対しては、同制度の考え方とフレームから逸脱しない範囲で、独自の制度設計を容認。業種、企業規模、年齢構成(子会社の方が高齢化)の違いから、子会社である機械メーカーは、同制度をベースに、等級基準、人事評価基準および水準変更を伴わない範囲で給与制度の見直しに取り組んだ。

  1. ① 等級基準、人事評価基準 自社の各職種に合致するよう、等級ごとの責任基準と職種ごとの人事評価基準を作成。
  2. ② 給与制度 各等級の上限・下限金額は変えず、急激な給与変動が緩和できる制度内容に変更。
  3. ③ 役員制度 役員賞与の支給基準を、グループ業績ではなく、子会社業績連動に変更。

役員賞与の決定基準

 

業績係数

売上高対

経常利益率

経常利益

前年伸長率

売上高

伸長率

ROE

役員賞与基礎額×

1.5

7.5%以上

125%以上

110%以上

7.5%以上

1.4

7.0%以上

120%以上

108%以上

7.0%以上

1.3

6.5%以上

115%以上

106%以上

6.5%以上

1.2

6.0%以上

110%以上

104%以上

6.0%以上

1.1

5.5%以上

105%以上

102%以上

5.5%以上

1.0=標準値

5.0%以上

100%以上

100%以上

5.0%以上

0.9

4.5%以上

95%以上

98%以上

4.5%以上

0.8

4.0%以上

90%以上

96%以上

4.0%以上

0.7

3.5%以上

85%以上

94%以上

3.5%以上

0.6

3.0%以上

80%以上

92%以上

3.0%以上

0.5

2.5%以上

75%以上

90%以上

2.5%以上

【結論】 親会社との取引関係がない場合は、収益責任を明確にすることで、独自の人事制度を導入しやすい。

【ケース2】全く異業種で、取引関係のあるケース

【親】生命保険会社 【子】ビルメンテナンス業

【経緯】

生命保険会社が所有するビルの設備管理、警備、清掃を行う目的で、ビルメンテナンス会社を設立・運営していた。人事給与制度は旧態としており、社員の不満も強くなっていた。本社の幹部社員は生保からの出向者が大半であり、ビルメン業の知識は十分でなかったが、問題意識を強く感じ、制度整備を決断した。この取組みに対しては、親会社も寛容で、支援する姿勢であった。そこで、業界特性を考慮した人事給与制度をゼロベースで構築し、導入した。

  1. ① 雇用制度 設備管理=正社員、警備=嘱託、清掃=パート ごとの雇用体系を明確化。
  2. ② 正社員制度 技術者および管理者の等級、人事評価、技能資格に対する手当を盛り込んだ給与制度を整備。
  3. ③ 嘱託制度 警備職の人事評価制度は導入したが、給与制度は変更せず。
  4. ③ パート制度 清掃職の簡易な等級、人事評価、時給制度を整備

設備管理職の技能資格ランク(導入当時)

ランク

技能資格一覧

上級

電気主任技術者第三種、浄化槽管理士、水道技術管理者、電気工事士第一種、建築設備検査資格者、特殊建築物検査資格者、1級・2級建築士

中級

危険物取扱者乙種、ボイラー技士一級、電気工事士第二種、技能士1級、消防設備士甲・乙種、液化石油ガス設備士、冷凍機械責任者

初級

危険物取扱者丙種、ボイラー技士二級、消防設備点検資格者、防火管理者

【結論】
  • 親会社と全く異業種の場合には、業界ごとの賃金相場などを調査し、子会社社員の声によく耳を傾けることで、業界特性に合わせた制度設計が必要。
  • 親会社との取引によって成り立っている場合には、シビアな業績主義は採りづらい。そのため、昇給や賞与水準決定の際には、独自の基準を打ち出すことは困難なケースが多い。

【ケース3】関連会社の独立色を強めるケース

【親】FCサービス 【子】小売業

【経緯】

複数のフランチャイズビジネスを展開する親会社が、事業戦略の一環として、1つの小売FC子会社を独立させる方針を打ち出した。それまでは、親会社の人事制度の一部を活用していたが、これを機に、子会社の経営陣は、小売業に適した人事給与制度の構築に着手した。

  1. ① 等級制度 店舗力の向上のため、店長として最高等級までの昇格を可能にした。
  2. ② 給与制度 店舗業績に対するインセンティブを強化し、業績意識を高めた。
  3. ③ 賞与制度 決算賞与を導入することで、スタッフ部門への業績還元も打ち出す。
  4. ④ 退職金制度 退職金制度を明確にすることで、社員に安定感を持たせた。
  5. ⑤ パート制度 重要な戦力であるパート・アルバイトの人事制度も整備。店舗業績を向上させることで、時給や一時金に反映するしくみに。

店舗部門を重視した等級フレーム

等級

店舗部門

本部部門

販売職

店長

エリア長

店舗内 役職

一般職

専門職

管理職

対応役職

7

 

 

 

統括店長

 

 

 

本部長

6

 

 

 

統括店長

 

 

 

部長

5

 

 

 

上級店長

 

 

 

課長

4

 

 

 

店長

 

 

 

係長

3

 

 

 

主任

副店長

 

 

 

主任

2

 

 

 

 

 

 

 

 

1

 

 

 

 

 

 

 

 

【結論】 子会社の独立性を高める場合には、業績向上に対するインセンティブを明確にすることも重要。

【ケース4】外国企業の日本法人のケース

【親】海外メーカー 【子】国内販売子会社

【経緯】

アメリカ、ヨーロッパ、アジアに拠点を置くIT関連機器メーカーの日本法人で、主に国内およびアジア市場への販売と製品サポートを行っている。設立当初から年俸制を採用していたが、評価や年俸改定ルールは不明確であった。規模の拡大に伴い、人事評価と年俸制を中心とした人事制度の構築に着手。親会社からは、現地法人としての収益責任はシビアに問われるものの、人事の運営については、日本のトップに裁量権を渡していた。

  1. ① 職位制度 職位ごとの役割基準を明確にした。
  2. ② 人事評価制度 営業職は実績、スタッフ職は部門重点テーマを中心に評価。
  3. ③ 年俸制度 職位別の年俸テーブルと改定ルールを整備した。
  4. ④ ボーナス制度 親会社との交渉によりボーナス原資の決定基準を設け、チーム・個人ごとの配分基準は社内幹部で協議し決定した。

マネージャー層の年俸テーブル

基本年俸

4等級

5等級

6等級

7等級

1号

4,200,000

4,920,000

6,720,000

8,520,000

2号

4,320,000

5,100,000

6,900,000

8,760,000

3号

4,440,000

5,280,000

7,080,000

9,000,000

4号

4,560,000

5,460,000

7,260,000

9,240,000

5号

4,680,000

5,640,000

7,440,000

9,480,000

6号

4,800,000

5,820,000

7,620,000

9,720,000

7号

4,920,000

6,000,000

7,800,000

9,960,000

8号

5,040,000

6,180,000

7,980,000

10,200,000

9号

5,160,000

6,360,000

8,160,000

10,440,000

10号

5,280,000

6,540,000

8,340,000

10,680,000

11号

5,400,000

6,720,000

8,520,000

10,920,000

役割年俸

アシスタント

マネージャー

マネージャー

シニアマネージャー

ディヴィジョン

マネージャー

年額

600,000

960,000

1,200,000

1,800,000

【結論】 外資系企業の場合は、特に親会社の人事方針を理解し、制約部分と裁量部分をあらかじめ合意しておくことが重要。

人事コンサルティング支援について

人事戦略研究所では、人事評価・賃金制度設計から運用支援まで、各種人事コンサルティング支援を行っております。ご相談は無料です。まずはお気軽に お問い合わせ ください。

執筆者

山口 俊一 
(取締役会長)

人事コンサルタントとして30年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。