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賃金設計講座(2): 諸手当の設計について⑦

2013年08月22日 カテゴリ:賃金制度

執筆者:岩下 広文

人事戦略研究所 コンサルタント

大学卒業後、国内事業会社において人事・総務等の実務に従事。その後、人事アウトソーシング会社、及び、外資系大手コンサルティングファーム(※監査法人系)にて人事コンサルティング業務に従事した後、現職。人事評価・賃金制度構築や退職金制度設計だけでなく、組織・人事面における幅広いテーマでのコンサルティング経験を有する。人事の実務経験を活かした運用性の高い制度設計に定評がある。

前回のブログでは、諸手当の一つである「住宅手当」について、設計に際しての留意点等について述べた。今回のブログでは、4つ目の諸手当として「地域手当」を取り上げることとする。


■「地域手当」の定義とトレンド
地域手当とは、日本国内における物価水準や生計費の地域間格差を、自社の賃金にも反映することを目的とした手当である。基本的な定義としてはこの通りではあるが、実際にはよりダイレクトな目的として、地域間の賃金水準の格差を自社の賃金にも反映するというケースも一定割合あるように思われる。

いずれの定義にしろ、地域間の経済的な格差を自社の賃金水準にも反映するということが主たる目的ということになるが、このような地域手当を企業が採用する理由としては、2つの内容が考えられる。

1つは、地域間の物価・生計費格差を賃金に反映することで、"実質的な賃金水準ベース"を地域間で揃えることである。分かりやすい例として、ある地方地域よりもある都市部地域の方が生計費水準が1.2倍であった場合、両地域間で賃金の絶対額が同一であったとすると、物価・生計費に対する賃金の相対的価値は都市部の方が低いということになってしまう。このような実質賃金の格差を是正することために、地方地域よりも都市部地域の地域手当を高めに設定することで水準調整を図るのである。

2つめは、地域間の経済的水準格差を賃金にも反映することにより、地場相場を踏まえて人件費もコントロールすることである。例えば、創業期は都市部のみで事業を行っていたものの、その後の成長に伴って地方も含めて事業所展開したような場合、都市部の賃金水準をそのまま地方にも適用してしまうと、地場相場に対して賃金が割高になってしまう恐れがある。これを回避するために、地域手当を活用して賃金水準を地域ごとに調整するのである。

このような地域手当であるが、企業における採用率はどの程度かというと、厚労省の2010年調査では規模計で約13%となっている。当該調査結果を規模別に見てみると、社員数が多いほど採用率は高くなっており、30~99人で約9%であるのに対して、1,000人以上では約36%となっており、4倍もの格差がある。地域手当の性質上、企業規模が大きくなるほど採用率が高くなるのは、当然のことである。

なお、同調査を時系列で見てみると、1996年時点では規模計で約15%の採用率となっているので、数値だけ見ればこの15年ほどで若干採用率は下がっているということになるが、個人的な見解としてはこの程度の減少は誤差の範囲であり、地域手当の採用率が特段の減少傾向にあるわけではないと考えている。

以下では、地域手当の設計にあたり特に留意すべきポイントについて解説する。

■ 物価・生計費の水準格差の"本当の実態"に目を向ける
地域手当の採用目的を、上述の「物価・生計費水準に基づいた実質賃金水準の是正」とする場合、基本的には物価や生計費に関する統計データを根拠として、地域手当の地域別金額を決定していくことになる。この時に注意すべきことは、"統計データの捉え方"である。

例えば、2012年の「平均消費者物価地域差指数」において、「総合指数」では東京都区部の106.0に対して那覇市は100.1となっている。しかしながら「"家賃を除く"総合指数」で見てみると、東京都区部の103.9に対して那覇市は101.2となっており、両地域間の格差は小さくなっている。

上記の意味するところは、東京都市区部と那覇市の物価格差に大きな影響を及ぼしているのは「家賃」ということである。このことは、統計データを深く分析するまでもなく、多くの方が既に理解・認識している事実であろう(※消費者物価指数のデータにおいて、わざわざ"家賃抜き"の総合指数が算出されていることからも、当該事実を類推できる)。当然ではあるが、東京と那覇との関係に限った話ではなく、東京等を中心とする都市部地域とその他の地方地域との間では、同様の実態があると思われる。

従って、地域間の物価・生計費水準を賃金に反映させる場合であっても、もし地域手当とは別に住宅手当を設定しており、かつ当該住宅手当が地域別に金額設定されているのであれば、地域手当の設定は必ずしも必要ないということになる。

また、上記に関連することとして、『家賃以外の日常の生活費は、都市部の方が地方よりも安いのでは?』というような話を耳にすることもある。このような話が出てくる背景としては、100円ショップをはじめとする近年のディスカウントストアの隆盛である。このようなディスカウントストアは、都市部において店舗の数も種類も多いため、確かに日常生活費だけを考えれば地方よりも安く暮らせるのかもしれない。

もちろん、消費者物価指数のような統計データに上記の実態がどこまで/どのように反映されているかは不明であるため、上記の話しをそのまま鵜呑みにして地域手当の検討を行うことはナンセンスではあるが、本当の意味での生活費の実態に基づいて地域手当の水準を設定するのであれば、当該観点についても一定の考慮・調査が必要ではないか・・・というのが筆者の個人的な見解である。


次回(以降)のブログでは、「資格手当」について設計のポイントや留意点などについて解説をしていきたいと思う。



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※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。