人事制度策定・構築のポイント

-もくじ-

  1. 人事制度とは
  2. 人事制度の変遷とトレンド
  3. 人事制度策定スケジュールとプロジェクト体制
  4. 現状分析のポイント
  5. 等級制度のポイント
  6. 評価制度のポイント
  7. 給与制度のポイント
  8. 賞与制度のポイント
  9. 人事制度成功のポイント

1.人事制度とは

 人事制度とは、広い意味では「採用から退職まで」の諸制度全般のことですが、一般的には「等級制度」「評価制度」「賃金制度」を3本柱とする人事処遇制度を指します。

 人事制度の目的は、『適切な人件費の範囲内で、社員のやる気を高め、経営戦略や企業 理念を実現すること』にあると言えます。経営戦略や企業理念は会社によって異なるため、人事制度も1つの正解があるわけではなく、各社にとって最適なしくみを選択・設計していくことが必要です。

<人事制度の概要>
人事制度の概要

2.人事制度の変遷とトレンド

 人事制度も時代と共に、流行り廃りがあります。以下は、年代ごとの人事制度トレンドですが、もちろん業界や会社によっても対応は異なります。

1950年以降:戦後の国民生活を支えるため、年功型賃金が大企業中心に採用される。

1970年以降:高度経済成長と歩調を合わせ、職能資格制度(職能給)が主流となる。

1990年以降:バブル崩壊への対応から、成果主義賃金、目標管理制度が導入される。

2020年以降:デジタル化、働き方多様化への対応から、ジョブ型人事が注目される。

 今でも年功色の強い賃金制度を継続している会社もある反面、かなり以前からジョブ型人事を取り入れている企業もあります。「日本は昔から年功重視の国」と思っている人も少なくありませんが、年功賃金だって定着したのは戦後になってからです。

 年功賃金で上手くいっている会社がある一方、成果主義が効果を発揮している会社もあります。職務主義のジョブ型人事も最近出てきたように思われるかもしれませんが、欧米では昔から導入されており、日本でも戦後幾度となく議論されてきたテーマです。

 したがって、トレンドは把握しておいた方がよいものの、やはり自社にとって適した制度はどのようなものか、を考え続けないといけないのです。

3.人事制度策定スケジュールとプロジェクト体制

 人事制度を見直す際には、通常プロジェクトメンバーを組織し、推進します。メンバー選定とスケジュール設計のポイントは、以下のようになります。

 各部門からも参画してもらうことで、実態に即した制度となり、理解を得ることにもつながります。外部ブレーンを活用することで、専門ノウハウや他社事例、客観的な視点を得ることも可能です。全面的に制度改定する場合には、企業規模にもよりますが、1年程度は準備期間を見ておいた方がよいでしょう。

  • プロジェクトメンバーには、人事総務だけでなく、各部門のキーマンを巻き込む。
  • 外部ブレーンを有効に使う。(人事セミナーなどには複数名で参加する)
  • 制度策定の期間は、半年(部分改定)から1年(全面改定)が目安。
  • プロジェクト会議は、月2回程度。
  • 他の業務との兼ね合いがあるので、無理のないスケジュールを立てる。

人事制度策定プログラム例

人事制度策定プログラム例

4.現状分析のポイント

 具体的な人事制度を検討する前に、自社の人事について現状を分析しておきましょう。現状分析には、定量分析(数値などで定量的に測れるもの)と定性評価(定量的には図れないもの)の2つの方法があります。

1.定量分析

 人事の定量分析では、「人件費」「個別賃金水準」「人員」を見ておきましょう。

①人件費分析
 総額人件費や各種人件費指標について、近年の推移や同業他社・同規模他社水準を確認し、必要な是正を図るために目標設定を行います。人事において特に重要な指標は、「1人当たり付加価値高」「1人当り人件費」「労働分配率」の3つです。
 たとえば、大手総合商社のほかキーエンスや任天堂といった優良企業が、高い年収水準を維持できるのは、社員1人当たりの付加価値高が高いからです。
②個別賃金水準分析
 個別の賃金水準については、月給、賞与、年収のそれぞれについて、同業種・同規模企業との比較を行います。同業種・同規模企業の平均値は、厚生労働省が実施・公表している賃金構造基本統計調査などで、確認することができます。
 また、社内の等級や役職ごとの賃金水準を比較することで、内部公平性を分析することも有効です。非管理職が残業すると管理職給与を上回る「逆転現象」などの発生度合いも、チェックしておくとよいでしょう。

人件費分析表

人件費分析表

賃金分析グラフ

賃金分析グラフ

© 2017 Shinkeiei Service Co.,Ltd

③人員分析
 総人員数に加え、職種別(部門別)の人員数を、年代別に整理しておきましょう。人員構成を把握し、年齢構成上の課題を発見するのに役立ちます。どの職種のどの年代が不足しているか、逆に余り気味か、そして必要な対策は何かを検討しておきましょう。
 また、社員の平均年齢も重要な人事指標の1つです。たとえば、小売業などは平均年齢が35歳前後を超えると、急速に収益力が悪化していく傾向にあります。賃金水準の上昇に対して、生産性の向上が追い付かないからです。

職種別年齢構成表と対策例

年  齢 役員 管理職 営業職 仕入職 配送職 事務職 合 計 対  策
55歳以上 6人 25人 8人 2人 13人 6人 60人 退職金原資確保
50歳以上 3人 42人 32人 4人 11人 4人 96人 年俸制導入
45歳以上 1人 25人 41人 13人 2人 1人 83人 専門職制度導入
40歳以上 12人 26人 6人 6人 13人 63人
35歳以上 42人 2人 3人 5人 52人
30歳以上 16人 4人 11人 13人 44人 間接部門パート化
25歳以上 7人 21人 26人 54人 若手営業の採用
25歳未満 13人 12人 13人 38人
合  計 10人 104人 185人 31人 79人 81人 490人 3年後450名へ
2.定性分析

 定性分析では、現状の人事制度内容を一覧化し、社員視点、経営者視点、人事総務部門視点で課題や改善の方向性を整理していきます。社員視点では社員満足度調査や社員インタビュー、経営者視点では社長や部門長に対するインタビューなどを行います。

人事制度の現状・課題・改善の方向性 整理例

項目 御社の現状 課題 改善の方向性
等 級 J1~M4まで8段階、非管理職は職能資格、管理職は職務資格制度 ・・・ ・・・
昇格時期 4月決定6月実施 ・・・ ・・・
昇格決定方法 人事評価と昇格試験 ・・・ ・・・
人事評価基準 ・・・ ・・・ ・・・
評価時期 ・・・ ・・・ ・・・
基本給 ・・・ ・・・ ・・・
諸手当 ・・・ ・・・ ・・・
賞 与 ・・・ ・・・ ・・・
退職金 ・・・ ・・・ ・・・
福利厚生 ・・・ ・・・ ・・・
社 宅 ・・・ ・・・ ・・・
勤務時間 ・・・ ・・・ ・・・
・・・ ・・・ ・・・
・・・ ・・・ ・・・
・・・ ・・・ ・・・

 定量分析や定性分析を基に、経営会議や人事制度検討プロジェクト会議などで、人事制度改定方針をまとめていきます。

5.等級制度のポイント

 等級制度は、何で等級を分けるかで、概ね以下の3つに区分できます。職能等級は「人基準」、職務等級と役割等級は「仕事基準」のしくみです。昨今注目を集めているジョブ型は、職務等級を志向していますが、実際には役割等級に近いケースも見られます。

職能等級 日本企業の主流である、その人の能力を判定し、等級設定するしくみです。人基準ですので、職種間異動などがあっても、基本的に賃金水準は変わりません。人事異動などが行いやすい反面、年功的な運用になりがちです。
職務等級 ジョブ型人事の基本となるしくみで、職務ごとの重要度や難易度により等級設定します。通常、職務ごとにジョブディスクリプション(職務内容記述書)を作成します。職務内容が明確になる反面、職種間異動などは行いづらくなります。
役割等級 職務等級同様に仕事基準ではありますが、役職など役割に応じて等級設定するしくみです。たとえば、営業課長と経理課長は、職務等級では別ランクとなり、役割等級では同じ課長ランクとなるといったことが予想されます。

 以下は、職能による等級フレーム例ですが、管理職になるだけでなく、専門職として昇格できるようにしています。特に、社員の高齢化が進み、’管理職適齢期’が増える企業では、専門職制の検討は必須と言えるでしょう。

職能等級フレーム例

職能等級フレーム例

 また、等級ごとに求められる要件=等級基準については、できれば職種別に設定する方がよいでしょう。同じ等級でも、営業職と製造職では求められる要件が、大きく異なるからです。職種・等級ごとに求められる期待基準を整備することで、社員ごとの責任や能力を明確にします。理屈上は、職務等級では職務内容を、役割等級では期待役割を中心に記述することになりますが、実際には、成果、役割、職務、能力、行動など、各社が求める期待像を示せばよいでしょう。

職種別等級基準書例

等級 カテゴリー 営業 管理スタッフ
S5等級 役割責任 ・小規模な部門の統括責任者
・チーフマネージャーが概ねできる
・マネージャーが期待通りできる
・小規模な部門の統括責任者
・チーフマネージャーが概ねできる
・マネージャーが期待通りできる
顧客、取引先、社会、社内からの信頼構築 顧客、取引先、社会、社内からの信頼構築
年間売上10億円程度の管理責任者(拠点による変動あり)
リーダーシップ 部署責任者としての強い意識を持ってリーダーシップを発揮できる 仕事・組織の中核としての強い意識を持ってリーダーシップを発揮できる
顧客・取引先
対応
所属部署の重要関係先との折衝ができる 所属部署の重要関係先との折衝ができる
目標設定・
進捗管理
部門の年間計画が立案でき、それに従い具体的な施策を立案・推進できる 部門の年間計画が立案でき、それに従い具体的な施策を立案・推進できる
トラブル対応 部門内の難易度の高いクレーム・トラブル・ミスを適切に処理でき、防止策を立案・実行できる 部門内の難易度の高いクレーム・トラブル・ミスを適切に処理でき、防止策を立案・実行できる
知識・経験 社内外を問わず最新の情報収集を常に行い、より高いレベルでの業務に活用できる 社内外を問わず最新の情報収集を常に行い、より高いレベルでの業務に活用できる
人材育成 目標、部門方針、必要情報について、部門内に理解・浸透させ、部下全員に実なる成果を上げさせる事ができる 目標、部門方針、必要情報について、部門内に理解・浸透させ、部下全員に実なる成果を上げさせる事ができる
報連相 統括組織内において意思・情報の伝達を徹底している 統括組織内において意思・情報の伝達を徹底している
プロセス改善・遂行 統括組織における業務の改善・変革のための、施策の立案と実行ができる 統括組織における業務の改善・変革のための、施策の立案と実行ができる
適正利益を十分に意識した業務遂行ができる 適正利益を十分に意識した業務遂行ができる

 昇格(等級アップ)、降格(等級ダウン)の決定ルールも、設定しなければなりません。昇格条件としては、滞留年数、過去の評価結果、上司推薦、面接、筆記試験などが考えられますが、シンプルにするなら、評価結果と上司推薦を候補者条件とし、昇格会議などで判定するといった方式がよいでしょう。

6.評価制度のポイント

 人事評価制度については、「何を評価するか(評価対象)」と「どのように評価するか(評価手法)」を検討することになります。評価対象には「業績・成果」「行動・コンピテンシー」「能力・情意」「知識・スキル・ノウハウ」などがあり、評価手法には「目標管理」「定量評価」「定性評価」などがあります。

人事評価制度の基本的考え方

人事評価制度の基本的考え方

 人事評価のトレンドとしては、以下のように整理できます。たとえば、大企業では目標管理による評価が主流となっていますが、中小企業では導入していないか、運用に苦慮している会社が少なくありません。

人事評価のトレンド

人事評価のトレンド

 また、職種による評価の違いにも注目しなければなりません。一般的に、営業職や店長職は個人業績が明確になりやすい反面、一般事務職や製造職の個人業績は明確化が困難です。すると、一般事務職や製造職に目標管理や個人業績評価を導入しても、どうしてもあいまいにならざるを得ません。職種によって期待成果や期待行動も異なるため、職種別に評価基準を検討することが求められるのです。

職種ごとの重点評価方針例

職種 重点評価対象 賃金格差
役割 成果・業績 技能・プロセス
幹部・管理職
営業職
店長職
販売・接客職 ○(チーム)
技術・研究職
SE職
製造職 ○(チーム)
事務職

 以下は、営業職の人事評価基準例です。成果・業績として「グループ売上」と「個人売上」「新規売上」を、職務・プロセス評価として「新商品開発提案」「競合・市場情報収集」といった活動を評価対象にしています。

営業職の職種別人事評価基準例

営業職の職種別人事評価基準例

 評価運用ルールでは、評価期間、評価者、評価調整・決定方法、フィードバック方法などを検討します。目標管理や定量業績評価を行う場合、評価期間は決算期に合わせるのが望ましいですが、賞与や昇給への反映も考慮し、適切な期間を選定しましょう。賞与反映のため年2回(半期ごとに)評価を行う会社も多いですが、年1回あるいは四半期ごとに実施する会社もあります。

評価・処遇反映スケジュール例

評価期間 評価 実施 評価 フィードバック 処遇反映
上期 4月~9月 10月 11月 冬季賞与 昇進・昇格 給与改定
下期 10月~3月 4月 5月 夏季賞与

評価者区分例

絶対評価 相対評価
本人評価 一次評価 二次評価
部長 役員 役員会
課長 部長 役員
主任、一般社員 課長 部長

人事評価制度構築については、
人事考課(人事評価)制度改革7つのポイント も参照してください。

7.給与制度のポイント

 給与(月給)制度は、基本給と諸手当について検討します。
 給与制度の中心となる基本給ですが、「人事制度の変遷とトレンド」でも一部紹介しましたが、年功給(年齢給、勤続給)、能力給、役割給、職務給、成果給といった給与体系に区分できます。いずれが正解ということはないので、自社に合った組み合わせを選択してください。

 基本給の決定方式にも、さまざまなスタイルがあります。以下の3つは代表的な方式です。「積み上げ方式」は最もオーソドックスな形となります。評価による昇給スピードの違いはあるものの、マイナスは想定しておらず、基本は上がり続けていくスタイルです。「ゾーン方式」は、同一等級内でも、上位号俸ほど昇給額が下がる仕組みです。必要以上の人件費上昇を抑えるとともに、昇格への動機付けを図る意味もあります。「洗替え方式」は、人事評価結果のみでアップダウンさせる仕組みです。同一等級でも評価次第で逆転が狙えるなど実力主義要素が強い反面、変動が大きいため、評価への納得度が保てるかが重要となります。

基本給の決定方式

基本給の決定方式

 また、等級間の給与水準をどのように設定するかも、重要な設計ポイントです。「重複タイプ」は、直近上位の等級とは重なる部分があり、昇格しなくてもある程度の昇給余地があります。「接合タイプ」は、直近上位等級と接続する設定です。等級本来の主旨を考えると妥当ですが、昇格できなければ、昇給がやや早めにストップしてしまいます。「開差タイプ」は、接合タイプより一層の昇格インセンティブがあります。昇格による給与格差が鮮明に反映されますが、昇格できなければ昇給ストップが早くなります。

給与水準の等級間格差

給与水準の等級間格差

8.賞与制度のポイント

 賞与制度は、月給以上に柔軟な設計が可能です。業績に応じた人件費コントロールを行う場合にも、賞与制度が中心となります。

 賞与制度の代表例として、「給与連動方式」と「ポイント制」をご紹介します。「給与連動方式」は、賞与=月給×支給月数×評価係数といった算式となります。月給は基本給だけなのか特定の手当も含めるのか、支給月数は全社業績で決めるのか部門業績も反映するのか、評価係数はどの程度の評価差を設けるのか、といったことが検討テーマとなります。多くの日本企業で採用されている、理解しやすい制度ですが、基本給が年功要素も含む場合、若手の賞与水準が抑えられるといった現象も生じやすくなります。

 ポイント制は、賞与総額を各人のポイントで配分する方式で、ポイントは等級や役職と評価により決定するケースが多いです。給与連動方式に比べて、年功要素を排除しやすい点と、賞与総額に必ず収まる点が異なります。ただし、自らのポイントはわかっても、対象社員全員のポイント合計次第にもなるため、「なぜこの賞与額になったのか」は理解しづらい傾向があります。

賞与制度の代表例

賞与制度の代表例

給与制度・賞与制度構築については、
賃金制度改革7つのポイント も参照してください。

9.人事制度成功のポイント

 弊社では、数多くの人事制度コンサルティングを行ってきましたが、人事制度成功のポイントをまとめると、以下のようになります。制度内容は大切ですが、その前提となる「経営方針の明確さ」や「業績など経営情報のオープンさ」「経営トップの本気度」などが、人事制度の導入や浸透に不可欠ということがおわかりいただけるかと思います。

  1. ① 経営方針・経営計画を明確にする
  2. ② 業績・成果をオープンにし、社員が経営情報を共有化する
  3. ③ 経営課題解決型の人事評価を行ない、処遇する
  4. ④ 給与水準の向上を目的とする
  5. ⑤ 自社の業種、職種、風土に合った人事制度を設計する
  6. ⑥ 上下のコミュニケーションを図り、信頼関係を築く
  7. ⑦ 経営トップが先頭に立ち、推進する
  8. ⑧ 常に社員の声を集め、制度の見直しを行なう
  9. ⑨ 人事制度と同時に、その他の経営改善も実施する
  10. ⑩ 走りながら考える

人事コンサルティング支援について

人事戦略研究所では、人事評価・賃金制度設計から運用支援まで、各種人事コンサルティング支援を行っております。ご相談は無料です。まずはお気軽に お問い合わせ ください。