職種別賃金 設計講座

職種別賃金とは、営業職、技術職、製造職といった職種・職業ごとに、別々の人事・賃金体系を適用しようという仕組みです。全社一律の人事・賃金制度に慣れ親しんだ日本では少数派ですが、欧米諸国では、賃金体系は職種別・職業別ごとに異なるのが一般的です。
下図は、あるメーカーにおける職種別賃金制度の概要です。管理職は業績を色濃く反映した年俸制。営業職や商品開発職は、個人やチームの成果を重視した給与・賞与制度。製造職や事務職は、職務レベルと勤務時間による給与制度に加え、会社業績による賞与制度となっています。

メーカーの職種別賃金体系例

メーカーの職種別賃金体系例

ただし、一口に職種別賃金といっても、さまざまなスタイルがあります。年俸制と月給制というように支給形態まで分けるもの。職務給と年功給というように給与の決定基準を変えるもの。決定基準は変えず、給与水準のみを変えるもの。あるいは、月々の給与制度は共通で、賞与のみ職種別に決定する方式もあります。
また、『職種別』ではなく、『部門別』の給与制度や賞与制度を導入する企業も増えつつあります。

このページでは、職種別賃金について、1講座あたり3分で理解できるよう、具体例を交えながらわかりやすく解説します。

「職種別賃金」講座

①職種別賃金が拡大する理由

すでに松下電器産業、武田薬品工業のほか、サントリーやキャノン販売といった有名企業が、導入あるいは準備中と報じられています。上場会社のうち、約2割が導入済みか導入予定、検討課題となっている企業は約3割という調査も出ています。

では、なぜ職種別賃金制度が注目を集めているのでしょうか。

まず、成果主義人事の浸透が背景にあります。営業職のように個人の成果・業績が数値化できるような職種もあれば、総務・経理職のように個人成果が明確になりづらい職種もあります。各人の成果に合わせた処遇をしようとすれば、自ずと職種別に成果を測るモノサシが必要になります。

次に、大手企業でも人員削減や中途採用が日常化するようになったことが挙げられます。人材流動化時代を迎えると、職種・職業ごとの市場価格を意識した賃金体系への転換が促されるのです。

最後は、機械化・IT化が進んだことで、仕事の生産性が経験年数に比例して上昇しない職種・職業が増えてきたためです。すると、全社一律の賃金上昇カーブを適用していたのでは、生産性と賃金に大きなギャップが生じるようになるのです。

②幹部・管理職のポイント

管理職の人事評価基準については、他の職種に比べて成果・業績評価のウエイトが高くなります。業績が明確になりやすく、一般に裁量余地が大きいため、結果責任を問われる部分も多くなるからです。
管理職層に適した給与システムとして、「仮年俸制」をご紹介しましょう。もちろん、月給制が不向きということはありませんが、年俸制に適した職種といえば管理職となるでしょう。仕事の役割と成果による報酬体系という考え方に適しやすいためです。

仮年俸制の図

「仮年俸制」とは、文字通り「仮」に年俸を決定しておき、その一部分が業績や人事評価により変動するしくみです。確定した年俸額を12等分して支給するようなスタイルと違い、業績に応じて人件費を変動できるため、経営上安定します。当期の実績をすぐに処遇に反映させられます。

一方、組織の高齢化によるポスト不足や、社員意識の多様化が進んでいます。これに対応するためには、専門職制度や定年延長を見据えた進路選択制度など、各人の考えや適性に応じたキャリア制度も検討すべきでしょう。

③営業職のポイント

人事評価については、営業成績が中心となります。ただし、チームでの活動が中心の組織であれば、チーム業績に重点を置き、そのうえで各人の貢献度を評価するスタイルが妥当でしょう。個人単位での営業活動が中心の場合には、個人業績が主体となります。

営業職の給与については、他の職種よりも変動要素を大きくすることが可能です。業界によっては、歩合給も考えられます。
ただし、歩合給は業績達成意欲を高めやすい反面、短期的な業績に注力するあまり、顧客からの中・長期的な信用を損ねるケースや、他のメンバーに非協力的になるなどの弊害も生じやすい制度です。社員の定着率も低くなる傾向にあります。

そのため、コンスタントな実績を見ることに加え、活動プロセスやチームワークなども併せて評価することで、バランスを図ることが必要です。また、給与や賞与については安定的なしくみにするものの、営業成績に対するインセンティブを設けたい、という会社もあるでしょう。その場合には、個人成績やチーム成績に応じた、報奨金や表彰システムを検討するとよいでしょう。

下図は、月々の個人売上高目標と達成率に応じて支給される、報奨金制度の基準例です。表彰方法などを工夫すれば、大きな効果が期待できます。

報奨金基準例(売上高目標達成賞)

達成率→
目標金額↓
100%以上
105%未満
105%以上
110%未満
110%以上
115%未満
115%以上
120%未満
500万円未満 3,000円 6,000円 9,000円 12,000円
500万円以上 6,000円 9,000円 12,000円 15,000円
750万円以上 9,000円 12,000円 15,000円 18,000円
1,000万円以上 12,000円 15,000円 18,000円 21,000円

④販売・店舗管理職のポイント

小売業・飲食業では、パートタイマー比率が極めて高くなっています。パート比率が高くなれば、それだけ管理・育成しなければならない人材が増えます。当然、店長の力量が問われることになります。

店長の実力を高めるには、店長の社内での地位や待遇を高めていく必要があります。現場(店長)より本部(仕入や販促企画)が上、という風土では、顧客と直に接する現場の活力を高めることはできません。

下図は、ある小売業の昇格フレームです。店長のままでも、エリア長や本部の管理職以上の待遇を得られるしくみになっています。
もちろん、誰もが上がれるわけではなく、収益貢献や店舗品質に関して、厳しい基準をクリアしなければなりません。しかし、この図を見ただけで、現場重視の経営姿勢が社内に伝わるでしょう。

小売業の昇格フレーム例

小売業の昇格フレーム例

店長の人事評価は、店舗業績と店舗マネジメントを評価対象にすればよいでしょう。販売職、接客職については、個人の業績が明確に把握できるか、また把握できる場合でも、会社方針として個人業績を重視するかどうかがポイントとなります。

賃金については、店長など中核の役割を担える人材かどうかを見極め、中核人材に昇給や賞与を重点配分できる制度が望ましいと考えます。

⑤商品開発職・技術職のポイント

商品開発職や技術職は、営業職のように個人業績が明確になる職種ではありません。しかし、長い目で見れば、誰が優秀な技術者で、誰が優秀でないか、といった能力判定はたいていの会社で可能です。
また、管理職ではなく、専門職として活躍したいという希望をもった人材が多いのも特徴です。
そのため、中長期的な観点に立ち、各人の意向や適性に沿ったキャリアパスを描けるようにすることが重要でしょう。

一方、仕事の成果を評価する場合には、量だけでなく、質に関する評価を行なうことも重要です。
下図は、計測機器メーカーにおける、商品開発職のテーマ評価基準例です。この会社では、各人の開発テーマごとに、(1)テーマ難易度、(2)納期計画達成、(3)再設計・ミス、(4)品質、(5)コスト判定という5つの観点で評価しています。

計画の達成度を評価するだけでは、高い目標を立てた人、難易度の高いテーマにチャレンジした人が不利になる懸念があります。そこで、このような複数の観点を設定することで、成果をバランスよく評価する必要があるのです。

商品開発職のテーマ評価基準例

テーマ 目標達成水準 評価基準
小型計量器の改良 ・50g軽量化、500円コストダウンを実現する
・6月中に試作品完成、10月より販売開始
(1)テーマ難易度
(2)納期計画達成
(3)再設計・ミス
(4)品質(要求水準)
(5)コスト判定
20-15-10-5-0
20-15-10-5-0
20-15-10-5-0
20-15-10-5-0
20-15-10-5-0

給与・賞与については、安定的な制度が適していると考えます。むしろ、柔軟な勤務時間や業務選択、職場環境の改善など、非金銭的な報酬に重点を置いた方が、モチベーションを高めやすい職種といえるでしょう。

⑥SE職のポイント

これまで多くのソフトウェア企業(部門)では、個々の成果や業績に対する意識づけを怠ってきました。そのため、ソフト技術者の成果志向は高まっていません。にもかかわらず、国内外の競争激化によるソフト開発単価の低下など、ソフトウェア開発事業は厳しい経営環境下にあります。

従来型の給与システムでは、仕事が速く短時間で処理できる優秀な技術者より、仕事が遅く残業時間の多い技術者の方が、残業代の差によって給与水準が高くなるといった矛盾が発生しやすいのです。

チームや個人の成果に対する意識を高めるためには、

  1. プロジェクト収益、個人貢献度の評価
  2. 裁量労働制導入による、成果重視の給与・賞与制度
  3. SEに対する営業力・交渉力強化訓練

といった人事施策を関連させることが効果的です。

専門技能に関しては、経済産業省が全面的にバックアップし、ITスキル標準(ITSS)の策定、定着活動が進んでいます。ITスキル標準とは、IT関連の技術者に必要とされる能力を体系化し、研修などを組み合わせることで、レベルアップを図ろうというものです。

今後は、日本国内のIT関連技術標準として定着していく見通しです。そのため、ITSSを自社の等級基準や人事評価基準に採り入れることも、検討するとよいでしょう。

⑦製造職のポイント

今後、職種別賃金が一般化してくると、メーカーにおける製造部門の別会社化や別組織化に進展する可能性が高まるでしょう。

例えば、全国に自社工場を複数保有している企業であれば、おそらく、現地採用の従業員が多数を占めると思われます。
このような会社で、全国一律の賃金体系を適用すると、採用難かコスト増のいずれかに直面します。地方の給与相場に合わせれば、都会での人材確保が難しくなります。反面、都会地域での給与相場に合わせれば、人件費コストが大きく膨れ上がるのです。

この表は、厚生労働省による平成19年の都道府県別の平均年間賃金のデータです。

  男子労働者 対比 女子労働者 対比
東京都 6633.1千円 1.00 4314.8千円 1.00
大阪府 5824.8千円 0.88 3565.2千円 0.83
長野県 4991.2千円 0.75 3241.7千円 0.75
青森県 4041.0千円 0.61 2667.7千円 0.62
沖縄県 3860.7千円 0.58 2891.5千円 0.67

日本国内でも、これだけ賃金相場が異なります。そのため、転勤時のルールなどは工夫を要するものの、地域別の賃金水準を設定する会社が増えるのではないかと考えます。
また給与体系については、生産性の上昇カーブを意識したスタイルを指向せざるを得ません。工場の機械化が進むと、勤続年数と生産性は比例しなくなる傾向にあります。むしろ新しい機械の操作に対応できる勤続年数の浅い若手社員の方が、生産能力は高いという現象が増えてくるのです。
これに対して、年功型の賃金制度を敷いている会社では、生産性と人件費のギャップが年々広がってきます。そのため、製造職については、職務給など仕事のレベルに対して賃金を決定するしくみが適しているものと考えます。

⑧総務・経理職のポイント

総務や経理職の成果評価を行なう際、目標管理制度を活用する会社が増えてきました。
ところが、目標のレベル判定が困難なことに加え、少しでも高い評価を得ようとして、達成しやすい目標を設定するなどの弊害も見られます。これは、管理部門に対する期待成果が明確になりづらいために起こる現象でもあります。

職種別賃金、職種別人事評価を導入することのメリットは、職種ごとの特性に応じた基準や運用方法を適用できることです。仕事の成果が明確に評価できないなら、無理やり評価基準をつくる必要はありません。

たいていの管理部門では、個人の成果は数値化できなくても、誰が優秀で貢献度が高いかは、把握できています。そのため、評価基準の設計に労力を使うよりは、評価結果の説明に時間をかけた方が、社員の納得性は高まるのではないでしょうか。

総務・経理職については、これまで以上に人材の二極化が進むと考えられます。部門課題・経営課題を解決できる人材と、定型業務を行なう人材に分かれていきます。そこで、給与システムも二極化に対応できるものにする必要があるでしょう。

企業の中核業務を担える人材はハイピッチで昇給し、一般的な事務処理に従事する人材は、ある程度の給与水準に止まる。後者は、常に派遣社員やアウトソーシングとのコスト、品質比較にさらされることになります。人材派遣や外部委託の方が、仕事の質が高く、トータルの費用も安ければ、企業としては入れ替えを検討することになるからです。

⑨職種別賃金事例

事務機器販売業A社では、職種別給与制度を導入しています。スタッフ職、仕入職などを一般職として、営業職と管理・専門職という、3種類の賃金体系となっています。

まず一般職は、等級と人事評価結果によって決まる基本給と、等級別の職務手当、地域別の住宅手当から構成されています。等級アップのスピードは比較的緩やかで、人事評価による給与改定(昇給)には減給はなく、極端な格差もつけていません。

営業職については、基本給こそ等級と人事評価で決定するものの、業績給のウエイトが大きく、刺激性の強い給与制度となっています。
基本給は、一般職のものとは違うテーブルを使用しています。業績給は、毎月のチーム粗利益と個人粗利益に対する一定割合が支給されます。
業績給ゼロということはありませんが、前月に比べて倍増することや、半減するといったことは、日常的に起こります。

管理職や管理職と同クラスの高度専門職になれば、年俸制が適用されます。等級と人事評価による基本年俸と、役職に対する職務年俸の合計が年俸総額となります。基本年俸は、業績や人事評価によって大きく左右され、減俸もあり得るしくみです。

この会社では、営業職や一般職から管理職・専門職に昇格することはあるものの、営業職と一般職での異動はほとんどありません。営業職は最初から、変動要素の強い給与制度であることを十分理解したうえで入社していることもあり、スムーズな制度運用ができています。

⑩部門別賞与事例

下図は、専門商社で営業所ごとの業績を反映した賞与制度例です。

賞与=基本給×
平均支給月数(全社+営業所)×評価係数

全社売上高対
経常利益比率
半期賞与支給月数 営業所売上高対
経常利益率
半期賞与支給月数
11.0%以上 平均 2.0ヶ月 11.0%以上 平均 2.0ヶ月
10.0%以上 平均1.75ヶ月 10.0%以上 平均1.75ヶ月
 9.0%以上 平均 1.5ヶ月  9.0%以上 平均 1.5ヶ月
 8.0%以上 平均1.25ヶ月  8.0%以上 平均1.25ヶ月
 7.0%以上 平均 1.0ヶ月  7.0%以上 平均 1.0ヶ月
 6.0%以上 平均 0.9ヶ月  6.0%以上 平均 0.9ヶ月
 5.0%以上 平均 0.8ヶ月  5.0%以上 平均 0.8ヶ月
 4.0%以上 平均 0.7ヶ月  4.0%以上 平均 0.7ヶ月
 3.0%以上 平均 0.6ヶ月  3.0%以上 平均 0.6ヶ月
 3.0%未満 平均 0.5ヶ月  3.0%未満 平均 0.5ヶ月
評価点 評価係数
80点以上 1.3
70点以上 80点未満 1.2
60点以上 70点未満 1.1
50点以上 60点未満 1.0
35点以上 50点未満 0.9
20点以上 35点未満 0.8
20点未満 0.7

全社と営業所の収益性によって、平均賞与水準が決まり、個人評価によって営業所内の格差がつきます。この会社では、業績貢献の高い営業所や個人に対しては、十分に報いることを人事方針としているのです。

⑪職種別賃金を導入する際の留意点

職種別賃金については、考え方としては共感できても、実際に導入するとなると、いくつかの壁を乗り越えなければなりません。

  1. 自社に適した制度内容や賃金水準の設計
  2. 職種によって生じる不公平感の解消
  3. 職種間にわたる人事異動への制約の解除

といった課題に対応する必要があります。

これまで、職種別賃金を採用している企業の多くは、「職種別に人材採用を行なっている」「職種間の人事異動が少ない」という傾向があります。言いかえれば、このような企業であれば、上記のような課題をクリアしやすいということです。

おそらく職種別賃金が広がるにつれ、職種別採用も広がりを見せるでしょう。すでに中途採用の場合は通常、職種別で募集されています。
問題は新卒者ですが、キャリア志向をもつ学生ほど、職種別採用を好む傾向にあります。「どこの企業に入りたい」というだけでなく、「どのような会社の、どのような仕事に就きたい」という意志を強くもっているのです。

また、全社的な視野をもった人材を育成するため、職種間で積極的に人事異動を行なう方針の会社もあります。その場合、職種異動時の人事評価や賃金ルールを決めておけば、スムーズな対応が可能です。前向きな異動の場合、本人の不利にならないようなルールが必要です。

さて、職種別賃金を導入するうえで、最も高いハードルは、職種による不公平感でしょう。
特に、労働組合などは、職種による社内格差に対して著しい抵抗を示すケースがあるかもしれません。解決策としては、必要性を明確に説明し、根気強く理解を求めていくことに尽きます。
また、少なくとも制度導入時においては、不利益を生じさせないような配慮が必要です。

人事コンサルティング支援について

人事戦略研究所では、人事評価・賃金制度設計から運用支援まで、各種人事コンサルティング支援を行っております。ご相談は無料です。まずはお気軽に お問い合わせ ください。

執筆者

山口 俊一 
(代表取締役社長)

人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。