精勤手当・皆勤手当の支給は時代遅れなのか?

1. 精勤手当・皆勤手当とは(以降、精皆勤手当と記載)
精皆勤手当とは、社員の出勤奨励を目的として、一定の期間内に一日も欠かさず皆勤または一定日数以上休まずに出勤した場合に支給される手当を指します。実務上は精勤手当(一部遅刻早退や欠勤があっても支払われる)と皆勤手当(一日も欠かさず勤務しないと支払われない)に区別されますが、二つをまとめて精皆勤手当と呼ばれます。法外手当であるため、時間外労働や深夜労働手当などとは異なり、手当の支給条件は会社の就業規則や賃金規定によって千差万別です。

 

2.統計にみる精皆勤手当の採用率・特徴
企業の精皆勤手当の採用率は、年々減少傾向にあるようです。労務行政研究所の調査によれば、精皆勤手当の採用率は、2018年の調査では「1.9%」となっており、これは2005年の調査の「10.0%」から1/5以下に減少していることが分かります(図表1参照)。
また、その特徴として、企業規模別の導入率が挙げられます。一般的に手当の採用率は企業規模が大きくなると高くなる傾向にあるものの、精皆勤手当はそれと逆行していることが確認できます。加えて、製造業の方が導入率は高いですが、これらは手当の性質上、社員の欠勤がサービスの提供に影響を与えやすい業種や社員規模の企業が導入している表れといえるでしょう。(図表2参照)。

 

精皆勤手当の採用率

精皆勤手当の支給状況

 

3.精皆勤手当の採用率が減少している要因
このように精皆勤手当の採用率が減少している要因として、大きく二点が挙げられます。
一点目に、年次有給休暇の取得義務化(年次有給休暇を10日以上支給される従業員は、1年のうちに5日分以上を消化すること)により、有給消化以外で社員が欠勤することが殆どなくなり、手当支給の継続意義はないと判断され、廃止になるケースです。しばしば誤解されている方がいらっしゃいますが、有給休暇は欠勤扱いにはなりません。そのため、それを理由に皆勤手当の支給条件から外すことはできません。厚生労働省は、平成31年3月の「改正労働基準法に関するQ&A」にて、以下のような記載で明言しています。
 

(Q)使用者による時季指定によって年5日の年次有給休暇を取得させた代わりに、精皆勤手当や賞与を減額することはできますか。

(A)年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをすることは禁止されており(法第 136 条)、精皆勤手当や賞与を減額することはできません。

 出典:厚生労働省「改正労働基準法に関するQ&A」
 

二点目に、企業の人事評価や報酬に対する考え方の変化によるものです。昨今、会社業績に対する社員の貢献度に応じて、賃金を支払うという考え方が広まり、「労働契約通りに欠勤せず勤務することは当たり前であり、当たり前のことに手当支給することはおかしい」という理由から、支給を廃止するケースも少なくありません。
 
4.精皆勤手当を支給するメリット
では、時代の潮流に合わせ、精皆勤手当は廃止する・導入しないほうがよいのでしょうか。結論から申し上げますと、現場の実態等によっては、手当を支給・維持する方がむしろ合理性がある場合もあるため、一概にそうとは言えません。例えば、工場で急な欠勤や遅刻があると、製造の流れに大きな支障をきたす場合や、従業員数が少なく、欠勤した場合に他の従業員でのカバーが難しいような職場では、精皆勤手当をつけることで、それらを未然に防ぐ効果を期待できます。欠勤控除等の減給処置により、似たような措置をとることは可能ですが、減給の制裁は上限額が労働基準法91条で定められており、限界があります。その点、冒頭で申しあげた通り、精皆勤手当は法外手当であるため、企業は金額や支給条件を自由に設定することができます。あえて手当として残すことで、会社の姿勢(考え方)を示す意味はあると思います。
ただ、手当の導入や廃止には細心の注意が必要です。一度手当化してしまうと、単純に支給を廃止することは、社員にとって不利益変更になります。給与制度全体を見直す際に、他の給与項目を新設する、あるいは他の給与項目に組み入れるかたちで廃止するといった対応が求められますので、それらを踏まえたうえで、支給の是非を検討していただければと思います。

執筆者

鈴江 遼 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

大学では人事組織経済学を専攻し、人的資本や行動経済学等の理論を学ぶ。企業内の人事ヒアリング調査を行った経験から、「人事制度の構築・運用のいろはを学び、会社経営の支援がしたい」という思いを持ち、新経営サービスに入社。
常に論理性と一貫性を保ち、本質を突いたアドバイスができるコンサルタントを目指し、日々挑戦している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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