報奨金制度を導入する時のポイント

報奨金制度とは、特定の設定目標を達成した場合に対して、賞金を与えるしくみのことです。多くは、社員のモチベーション向上や組織の業績向上などを目的に導入・運用されていて、営業社員に対して設定されているケースが多いようです。支給方法としては、毎月の給与に支給したり、賞与として支給したりと、報奨の性質や金額に合わせて決定されています。今回のブログでは、報奨金の導入を検討される企業に向けて、そのポイントを解説します。

 

報奨金制度導入のメリット・デメリット

メリットには前述の通り、「社員のモチベーションの向上」や「目標達成に向けた努力の促進」が挙げられるでしょう。個人単位ではなく、部門単位での目標達成を基準とする場合は、社員が一丸となって達成に向けて取り組む点から、組織内コミュニケーションの増加や協力・連携の促進も期待できるといえます。

デメリットは、目標達成とならなかった場合に、未達成であったというマイナスイメージが残ることです。また、未達成が連続するようであれば、組織のこうしたしくみに対する不信感が残る可能性があります。社員が努力して達成が見込まれる、妥当な目標を設定することが肝要です。

 

報奨金制度導入時に向けて決定すること

報奨金制度については、次の4点を設定すれば設計が完了します。それは「①達成する目標」「②達成基準」「③対象者」「④賞金額」です。

何か専門的な知識が必要なわけではないため、比較的設計はしやすいものと思われます。

 

「①達成する目標」については、営業や販売部門であれば営業成績(売上・粗利)、製造部門であれば生産量、サービス部門では顧客満足度などを設定されるケースが多いです。

 

「②達成基準」は、高すぎず低すぎず、妥当な基準の設定が求められますので、過去の実績をもとに試算をしてから決定しましょう。もし、報奨金制度の導入と共に、達成基準となる成績や指標データの計測をスタートし、実際にデータを取りながらルールづくりを進めていこうと考えられる場合は、導入を一定期間見送られることを推奨します。早く導入されたい気持ちはあると思いますが、ルールをコロコロと変更しては、社員を混乱させることになりますし、達成基準や支給金額の変更は、社員からの心象が良くないでしょう。

 

「③対象者」は、目標や達成基準に関わりのある、適切な対象を選定してください。関与度合いの程度によって、賞金額を変えるのも一案ですが、一律としておくほうがシンプルかつ連帯感を高めることにもつながります。

 

「④賞金額」は、達成した努力や成果に対して適切な額面を設定します。目標および達成基準を個人ごとの営業成績にされている場合は、粗利や付加価値を踏まえて一定率を還元したり、複数の達成基準を設けて段階に応じて一定額を還元したりするイメージで設定すると良いでしょう。部門や店舗の営業成績を設定されている場合は、達成時に一律額を支給する、といったルールにされているところが多いようです。

 

報奨金制度の企業での導入状況

株式会社労務行政の調査(*)によれば、“営業社員の「報奨金・インセンティブ」実施率は20.5%。非製造業は27.4%”とのことです。

非製造業のほうが6.9ポイント高い結果となっています。弊社のお客様においても、製造業よりも、不動産業などの営業販売員に対して設定されている企業が多い傾向です。報奨金制度が、社員のモチベーション向上や組織の業績向上などに寄与するのであれば、多くの企業が積極的に取り入れても良い制度です。しかし、この調査結果は、営業社員に限ったものであるとはいえ、実施率は20.5%と、決して多い結果とはいえません。

これは、次に上げる「報奨金制度導入における最大のポイント」を考えた時に、適用を見送る企業がいるから、というのも理由のひとつではないかと推察します。

 

報奨金制度の最大のポイント(導入時にまず議論すること)

報奨金制度導入における最大のポイントであり、まず議論して頂きたい点は2つあります。ひとつは、社員による目標達成の“実現性”。もうひとつは、目標達成に対する社員の努力の“効果性・有効性”です。

 

ひとつめの、社員による目標達成の“実現性”とは、「“社員の努力によって”目標の達成が見込まれる状況が作れるか」です。

ある程度、平等に機会が与えられていて、社員の努力次第で達成・未達成が決まってくる状態でなければ、報奨金制度は機能せず、かえって不満要因となる可能性もあります。

弊社のお客様には、報奨金制度の導入を志向されていながら、次のような理由で導入をやめられた企業があります。

 

・担当する顧客が本人の意思で選べる状態ではない(エリアが決まっている、担当顧客が上司から振り分けられている)

・取り扱う商品やサービスによって、売上サイズや粗利率が異なり、達成の有利・不利がある等

 

上記ような事情がある場合、本人の努力だけで目標の達成を目指すことが難しいため、報奨金の目標および達成基準を、個人に対して設定することは推奨しません。では、グループに対して設定するのはどうでしょうか。複数人のグループおいて、協力して目標の達成を目指し、達成時は全員一律の賞金を得られる場合です。程度にもよりますが、担当者同士で、売上サイズや努力度が異なると、貢献度の違いで不公平感が残ることもあります。したがって、グループに対して設定される場合は、各自の努力を認めつつ、各自がその時々で必要な役割を担っており、全員で実現を目指したからこそ達成につながっているというメッセージを強く発信することを、経営陣が心がけると良いでしょう。

 

ふたつめの、目標達成に対する社員の努力の“効果性・有効性”とは、「“社員の努力”が業績アップ等の目標達成にどれだけ寄与するか」です。

 

例えば、

・収益構造そのもの完成していて今後さらに伸張する状態にあり、業績アップが現社員の頑張りによるところとは言いづらい

・外部環境の影響が大きく、業績アップが現社員の努力によるものとは言いづらい 等

 

このように社員が努力せずとも目標達成につながる場合は、報奨金制度は努力の対価として賞金を出すしくみですので、導入の必要はそもそもありません。

業績が良いのであれば、賞与で還元するなども検討してみてください。

 

社員の皆さんが、努力しよう、達成を目指そう、と思える報奨金制度を目指すことが、成功のカギとなります。最初から複雑にしすぎないように留意し、皆さんにチャンスがある、シンプルなルールを考えてみると良いでしょう。

 

(*)出所:株式会社労務行政 調査名「人事制度の実施・改定動向アンケート(2021.12WEB実施)」

 

 

執筆者

西澤 美典 
(人事戦略研究所 シニアコンサルタント)

前職の製造系ベンチャー企業では、営業・人事・総務・WEB制作担当等の実務に従事。
経営者の間近で幅広い業務に携わり、様々な企業や人との出会いを経て、「働く人々の毎日や職場を、より生きがいを感じることのできるものにしたい」という志を持ち、新経営サービスに入社。
経営者と共に、人事制度をキッカケにして、組織で働く人を元気にできるコンサルティングを心掛けている。
設計段階から、先々の運用をイメージした、組織になじみやすい制度づくりを行っている。
全米・日本NLP協会認定 NLPマスタープラクティショナー。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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