初任給を見直す際の観点

2022年4月入社者の初任給について、全学年引き上げの判断をした企業は約4割にのぼるとされています(*1)。新規学卒者数も毎年減って採用競争率が上がる中、ここ数年は最低賃金が上昇傾向にあります。こういった背景から、初任給の見直しをする企業が増えているのでしょう。

今回は、自社の初任給の見直しについて、どのように進めればよいか考えてみます。

 

やはり世間水準は押さえておきたい

初任給が競合他社と比較して高いことは、優秀な新卒社員を獲得する上で少なからずとも有利に働くと言えるでしょう。また、賃金の外部公平性は、社員のモチベーションに大きく影響する要因です。企業ごとに支払い能力は異なりますが、可能な限り外部公平性は担保しておきたいところです。

初任給に関する統計のうち、いくつかを紹介します。

 

【初任給(厚生労働省)】

初任給(厚生労働省)

 ※所定内給与。通勤手当は除外されている。
 出典:令和元年賃金構造基本統計調査結果(厚生労働省)
 新規学卒者の初任給額をもとに作成

 

【初任給(東京産業労働局)】

初任給(東京産業労働局)

 ※所定内給与。通勤手当は除外されている。
 出典:中小企業の賃金事情(令和3年版)(東京都産業労働局)
 初任給(企業規模別)をもとに作成

 

【初任給(大阪労働局)】

初任給(大阪労働局)

初任給(大阪労働局)

 ※所定内給与。通勤手当が含まれている。
 ※統計が千円単位の表記であることに留意
 出典:「新卒採用時賃金情報(大阪府)(令和3年)」(大阪労働局)
 職業別・事業所規模別初任給をもとに作成

 

初任給に関する統計を調べると、地域別・事業規模別・職業別・産業別等の区分で情報が開示されています。まずは、事業所のある地域の水準を確認されると良いでしょう。全国調査の地域別統計と、各地域の労働局統計の2つを確認すれば、事業規模別・職業別・産業別の水準感も知ることができます。

また、統計ごとに、調査対象企業や手当の内容が異なります。大阪産業局の結果が高く見えるのは、通勤手当が含まれるから、と考えられます。この点を考慮して金額を決定しましょう。

 

社内水準とのバランスも考慮して

その年の新規学卒者において、世間水準以上の初任給を設定することが人件費的に可能だとしても、社内水準のバランスが歪になる可能性があれば、バランスを保つことを優先するのが望ましいです。

数年前に新卒入社した社員や中途入社社員と比較して、新卒社員の給与にあまり差がなかったとしたら……ここまで頑張ってきた社員からみれば不公平です。このことは意外にも、当該社員だけに関係する話ではなく、「後から入ってきた人のほうが優遇されている」と全体的なモチベーションの低下につながることがあります。必要に応じて、や賃金制度の改定など、内部水準の見直しについても検討しましょう。

 

“初任給の高さ”だけが見られているわけではない

当然ですが、新卒学卒者たちは、給与だけをみて志望するわけではありません。マーサーが発行した2019年のグローバル人材動向調査(*2)によると、ジェネレーションY世代の従業員が企業で働き続ける動機づけとして、「競争力のある給与」よりも、「昇進の機会」や「専門能力開発」といった、自己成長に関連する項目の方が、スコアが高いという結果が出ています。

この会社に勤めたら、どのようなスキル・経験が積み上げることができるのか、将来のキャリアパスが描けるか、昇進の機会は設けられるのか、といったことが、新卒学卒者たちにとってイメージできず、不透明であるならば、その点はマイナスポイントになるでしょう。成長段階ごとのスキル(何ができるようになるか/できてほしいか)の明示、キャリアパスの化や、人事のしくみを整備することが大切になります。

 

初任給は、すべての会社が肩を並べて開示する情報です。よって、世間水準は押さえておきたいところですが、他の要素を重視したほうが良い可能性もあります。内部水準とのバランスや、新卒学卒者たちが給与以外に重視する要素を把握して、最終的に判断されると良いでしょう。

 

(*1)出典: 2022年度決定初任給の水準(労務行政研究所)
       2022年2月11日発行 労政時報本紙 4029号

(*2)出典: グローバル人材動向調査 2019(マーサー)

       https://www.mercer.co.jp/our-thinking/career-consulting/global-talent-hr-trends.html

 

 

 

執筆者

西澤 美典 
(人事戦略研究所 シニアコンサルタント)

前職の製造系ベンチャー企業では、営業・人事・総務・WEB制作担当等の実務に従事。
経営者の間近で幅広い業務に携わり、様々な企業や人との出会いを経て、「働く人々の毎日や職場を、より生きがいを感じることのできるものにしたい」という志を持ち、新経営サービスに入社。
経営者と共に、人事制度をキッカケにして、組織で働く人を元気にできるコンサルティングを心掛けている。
設計段階から、先々の運用をイメージした、組織になじみやすい制度づくりを行っている。
全米・日本NLP協会認定 NLPマスタープラクティショナー。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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