ヒトと組織の戦略に『パーパス』を活用する⑬
戦略的人事
■賃上げ問題について社員と共有する(その2)
今回のブログでも前回に続き、『パーパス(purpose)』をふまえた『賃上げ問題』について、社員と情報共有していくことの大切さについて述べていきたいと思います。
今回は夏の賞与水準を例にして解説したいと思います。
・夏の賞与は80万円台?各社の調査結果は?
2025年の夏の賞与について、様々な調査結果が報道されています。
・⼀般財団法⼈ 労務⾏政研究所が東証プライム上場企業を対象に、夏季賞与・⼀時⾦の妥結水準について実施した調査では、全産業ベース(114 社集計、単純平均)で 86 万 2,928 円、対前年同期⽐ 3.8%増となりました。この結果は夏の賞与が前年に続き80万円台を維持するとともに、同調査においても過去最⾼額の更新となりました。
(⼀般財団法⼈ 労務⾏政研究所の調査結果より引用)
・日本経済新聞社がまとめた2025年夏の賞与調査(中間集計)では、平均支給額(加重平均)が92万4,716円で前年比6.29%増となり、4年連続で前年を上回る結果となった。
(日本経済新聞社2025年日経賃金動向調査より引用)
・株式会社帝国データバンクが全国1,227社を対象に、2025年夏季賞与についてアンケート調査を実施した結果では、2025年夏季賞与について、従業員1人当たり平均支給額が「増加する」企業の割合は33.7%となりました。
規模別の集計において「賞与があり、賞与が増加する」企業の割合をみると、「大企業」は38.4%、「中小企業」は33.0%、うち「小規模企業」は27.0%となり、企業規模によって全体平均(33.7%)を上回る大企業と、下回る中小企業との差があることも見えてきます。
また、賞与の平均支給額(正社員1人当たり)は「30万~50万円未満」が34.8%で最も高く、次いで「50万~75万円未満」が24.7%、「15万~30万円未満」が21.8%と続き、全体平均は前年比1.8万円増の45.7万円となっています。
(株式会社帝国データバンク2025年夏季賞与に関する企業の動向アンケート結果より引用)
上記以外にも、後日、経団連などの集計結果なども順次発表されていくと思います。またその際には、主に大手企業の平均金額の数字がニュースなどの記事見出しにでることも多いかと思います。
これらの調査結果をふまえても、今年の夏の賞与は前年より増額されるのでは?と期待をされている社員の方も少なくないと思います。
しかしながら、企業側としては努力して前年を上回る賞与額を支給しているものの、社員側はニュースなどで目にする金額と比較して、「自社の賞与は少ないな・・・」と思ってしまい、「賞与を増額したにもかかわらず、モチベーションが高まらなかった・・・」場合によっては「モチベーションが下がってしまった・・・」このようなご相談をコンサルティングの現場でいただくこともあります。
このようなご相談をいただいた場合、賞与ルールの見直しとは別に、まず社員の方にも同規模程度の世間水準に対して、自社はどうなのか?という視点についても情報を与え、社員側にも「適切なモノサシ」をもってもらうことをお勧めしています。
・企業規模によって賞与の水準にはかなり差がある
実は、国内企業の賃金水準の傾向を分析すると、どのような業界・業種でも基本的に企業規模によって月給水準や賞与水準、年収水準が大きく違うという傾向があり、小規模の企業ほどそれぞれの水準が低いという傾向があります。
また、日本の場合は、働く人の7割近くが「中小企業」で働いているという実態もあります。
例えば、2024年版の中小企業白書によると中小企業は国内に336万4,891社あり、企業総数の99.7%を占め、従業者数は3,309万8,442人で全体の69.7%に上る、となっています。
(中小企業白書2024年版より引用)
中小企業の場合は、中小企業の実態もふまえて賞与などの賃金水準を比較してみる視点を社員の方に伝えていくことも大切です。
弊社は京都に本社があることもあり、関西圏の小企業様からも賃金や賞与のニュースなどをふまえたお問い合わせをいただく機会が増えてきています。
そのような小企業様には大企業をベースにした調査結果だけでなく、小規模企業なども含めた調査結果も同時に見ていただくことをお勧めしています。
例えば、1例として関西圏の中小企業様であれば、大阪シティ信用金庫が毎年1,000社以上の取引先に行っている夏の賞与についてのアンケート調査結果をご紹介することもあります。
このブログの執筆時には2025年度の調査発表はされていませんので、昨年の6月28日に発表された調査内容にて記しますが、(以下は、大阪シティ信用金庫中小企業の2024年夏季賞与支給予定調査結果から引用)
大阪シティ信用金庫が2024年に取引先企業に実施したアンケート調査では、賞与を「支給する」と答えた企業は 61.1%で、2023年夏に比べ 1.6 ポイント増加しました。一方で、「賞与は支給できないが、少額の手当を出す」とする企業が 27.8%、「全く支給なし」は 11.1%となった調査結果も出ています。
また「賞与を支給する」と答えた企業の正社員1人当たりの平均支給予定額は 28万 1,316 円となっています。
まもなく2025年度の調査結果も公表されると思いますが、大企業ベースの調査結果とはまた異なる調査結果が出てくると思います。
このような世間の実態もふまえ、社員の方に対して、自社の企業規模などとも照らし合わせた比較データを活用して、情報共有することが大切です。その上で労使ともに協力し、自社の賞与や賃金水準をより高いものとしていくためにはどんなことが大切なのか?を具体的に話し、社内で共有していくことが大切です。
夏の賞与についても、日々様々な数字が報道されていますが、数字の読み取り方についても社員と共有し、労使双方で信頼関係を高めながら、より働きがいのある会社にしていくことが重要なポイントとなる時代となってきています。
次回も『賃上げ問題について社員と共有する』ことをテーマに続きを述べていきます。
執筆者

花房 孝雄
(人事戦略研究所 上席コンサルタント)
リクルートグループにて、社員の教育支援に従事。その後、大手コンサルティング会社にて業績改善のためのマーケティング戦略構築などの支援業務に従事。現在は新経営サービスにて大学の研究室、人材アセスメント機関などとの連携による組織開発コンサルティングを実施中。主な取り組みとして、人的資源管理研究における最新知見を背景とした「信頼」による組織マネジメントや企業ビジョンやパーパスを構造的に機能させるビジョン浸透コンサルティングを展開中。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。