ヒトと組織の戦略に『パーパス』を活用する⑫
戦略的人事
■賃上げ問題について社員と共有する(その1)
皆さんもご存知のように近年、各企業で賃上げやベースアップの取り組みが盛んにおこなわれています。弊社のブログでも年初から賃上げに関する内容が増えていますが、『パーパス(purpose)』浸透に取り組んでいる企業においても、賃上げという問題に対して『パーパス(purpose)』との関連含めて、どのように捉えていけば良いか?というご質問をいただく機会が増えてきました。そこで、今回は『パーパス(purpose)』をふまえた『賃上げ問題』について、社員と共有していくことの大切さについて述べていきたいと思います。
・初任給50万円以上の企業も出てきた賃上げトレンド
『若手の初任給水準が引き上げられた。』『特定の職種においては、初任給が従来水準から大幅に引き上げられた。』といった報道を経営者だけでなく、社員側も日常的に目にすることが多くなっています。中には初任給で45万円~、50万円~といった数字が掲載されるなど賃上げに関する刺激的な報道も日を追うごとに増えている感があり、その数字だけを見て、自社の水準がかなり低いのではないか?とこれまで以上に感じてしまう社員が増えつつあるというご相談もいただきます。
このようなトレンドの中で中小企業においても、数年前から賃上げやベースアップの動きが全体的に広がってきており、各社なりに努力して(場合によっては苦心しながら)、賃上げを行っているように思います。
連合が2025 年 4 月 17 日(木)に発表した『2025 春季生活闘争の第4回回答集計』では『全体は 5%超えを維持!中堅・中小組合も健闘が続く!』という見出しとともに、以下の概要を発表しました。
○ 平均賃金方式で回答を引き出した 3,115 組合の加重平均(規模計)は 17,015 円・5.37%
(昨年同時期比 1,228 円増・0.17 ポイント増)となった。300 人未満の中小組合(1,958
組合)は、13,283 円・4.97%(同 1,113 円増・0.22 ポイント増)で、昨年同時期を
上回っている。
賃上げ分が明確にわかる 2,447 組合の賃上げ分(規模計)は 12,065 円・3.79%(同
1,238 円増・0.22 ポイント増)。中小組合(1,400 組合)の賃上げ分は、9,868 円・3.62%
(同 1,194 円増・0.32 ポイント増)である。全体も中小組合も、賃上げ分が明確に
わかる組合の集計を開始した 2015 闘争以降の最終集計結果と比べ、額・率ともに最
も高い。
○ 有期・短時間・契約等労働者の賃上げ額は、加重平均で、時給 70.08 円(同 3.64 円
増)と、昨年同時期を上回った。時給の引上げ率(概算)は 6.06%で、一般組合員
(平均賃金方式)を上回っている。
連合:第4回回答集計(2025年4月15日集計・4月17日公表)資料より引用
・自社の賃上げ水準は低いのか?
このような集計結果の発表を見て、自社はどうなのか?と比較される経営者や社員の方も少なくないと思います。
大企業はともかく、多くの中小企業の社員側からは、世の中で報道されている数字と比べると自社は若干低いのではないか・・・?と感じてしまっている人も少なくないように思います。そして、そのような状況もふまえて、経営陣側としてもなんとか対応していきたい!と苦心されている企業も少なくないように思います。
実際、弊社でも今年の1月~3月初め頃には、中小企業のクライアント様から『今年は世の中の情勢もふまえると、どの程度賃上げするべきでしょうか?』、『昨年、1昨年と賃上げを努力してきたが、これ以上ベースアップを続けることはかなり難しくなってきているのですが、どうしたらよいでしょうか?』などと言ったお悩みやご相談のお電話が結構ありました。
また、月給の賃上げ以外にもある中小企業経営者からこのようなご相談がありました。
『社員がことあるごとに、「うちの会社の賞与は低めだからね・・・」と話しているのですが、ベースアップも行っている中で、賞与水準も更に上げないといけないのでしょうか・・・?』
・中小企業が賃上げを続けていくために
世の中全体が賃上げ努力をしている状況であるため、適切な賃上げを続けていくための企業努力がますます必要となる時代となってきました。
その際に、当たり前のこととはなりますが、賃上げの実現を経営者側のみに求めるのではなく、経営者と社員、労使双方で『賃上げ』を可能とする企業づくり、組織づくりとなるよう取り組み・協力・努力をしていくことが大変重要なテーマとなってまいります。
ちなみに先にケースとしてあげた社員側から『会社の賞与が低め』だと言われていた企業の賞与額・賞与水準を分析すると、同業他社に対して、かなり高い水準で賞与支給がされている事実が見えてまいりました。たまたま、その会社の賞与ルールにおいて、賞与を計算するベースとなる賞与基礎額がかなり高い金額に設定されているため、平均〇ヶ月という賞与の支給月数がやや小さく見えていただけであったということがわかり、それらの全体像について社員側にも説明をしたところ、『自社の賞与が低いわけではなかった!』と驚いていました。
賃上げや給与水準に対して、日々様々な数字が報道されていますが、数字の読み取り方についても社員と共有していくことが重要なポイントとなる時代となってきています。
このような文脈もふまえて、次回も『賃上げ問題について社員と共有する』ことをテーマに続きをのべていきます。
<関連リンク>
2025年の賃上げ動向 ~ベースアップ実施は大企業で7割、中小企業で6割
https://jinji.jp/hrblog/14160/
<関連サービス>
賃上げ・ベースアップコンサルティング
https://jinji.jp/hrconsulting/wage_increase/
執筆者

花房 孝雄
(人事戦略研究所 上席コンサルタント)
リクルートグループにて、社員の教育支援に従事。その後、大手コンサルティング会社にて業績改善のためのマーケティング戦略構築などの支援業務に従事。現在は新経営サービスにて大学の研究室、人材アセスメント機関などとの連携による組織開発コンサルティングを実施中。
主な取り組みとして、人的資源管理研究における最新知見を背景とした「信頼」による組織マネジメントや企業ビジョンを構造的に機能させるビジョン浸透コンサルティングを展開中。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。