地域限定社員制度の難しさ

「地域限定社員制度」あるいは「勤務地限定制度」。大企業は過半が、中堅企業でも多くの会社が導入している人事制度です。
 
支店や営業所など拠点が増えてくると、たいていの会社が直面する課題が「転勤問題」。
最初は本社工場しかなかった中小メーカーが、支店や営業所を出し、地方に工場を新設し、更には海外拠点を考えるようになる。すると社員の転勤が必要になり、「転勤する人」と「転勤しない人」が出てくる。借上げ社宅や手当をどうするか、ということも考えなければなりませんが、これらは追加費用であると同時に社内公平感の問題でもあります。
 
「転勤貧乏」という言葉があるように、転勤者ばかり経済的・心理的負担を強いられると感じるかもしれません。また、会社の異動命令を断った人をどうするか?厳しく処分するのか、本人の意思を尊重するのか?
これらの社内不公平感を解消する手段として、「地域限定社員制度」が検討されることになります。「全国どこでもOKという社員」と「勤務地はこの拠点だけという社員」を区分し、昇格上限や給与水準に差を設ける制度です。
 
この制度。実は、基本の制度設計自体は、さほど難しくありません。管理職まで認めるのか否か、給与・昇給・賞与にどの程度の差を設けるのか、条件や手続きはどうするのか、など何点かのポイントを決めればよいからです。年収差の目安としては、一般的に5~15%程度でしょうか。地域限定社員を極力少人数にしたければ、給与差を拡大すれば、選びづらくなる。15%とか20%年収が下がるとなれば、なかなか手を挙げづらくなるでしょう。
 
しかしながら「地域限定社員制度」の本当の難しさは、運用にあるのです。
 
たとえば、制度導入時に社員ごとに希望を聞いて、全国社員と地域社員に振り分けるとしましょう。すると、会社側が全国社員として活躍して欲しい人が地域社員を選んできたり、その逆も発生します。地域社員が想定以上に多くなりすぎると、拠点ごとの組織編制に制約がかかります。
 
また、全国社員を選んだ人が、実際に全員転勤するわけではありません。部署によって、異動の多い職種と少ない職種もあるでしょう。営業職は定期異動があるけれど、研究開発職は本社にしかないので転勤はほとんどない。かといって、研究開発職は全員を地域社員、というわけにもいきません。
 
あるいは、「とりあえず全国社員を選んでおいて、自分に異動命令が出たら地域社員に鞍替えしよう」という社員も出てきます。すると、このような人が発生しないよう、防止策を工夫しなければなりません。新たな、社内の不公平感につながるからです。
 
これら運用時に考えられる問題への対策として、以下のような点に注意が必要です。
 
  1.制度設計前に社員意向アンケートをとるなど、社員意識を把握しておく
  2.全国社員、地域社員の対象者像や人数バランスの方針を明確にしておく
  3.制度主旨に沿わないケースへの対応策を盛り込んでおく
   (一定数の地域社員を発生させたければ、導入時に選択すれば減給幅を小さくするなどの措置が有効です)
 
社員意識の多様化、ワークライフバランス、女性活用など「地域限定社員制度」を後押しする社会環境は高まるばかりです。
 
自社での必要性、企業特性を十分に検討した上で、取り組まれることをお勧めします。

執筆者

山口 俊一 
(代表取締役社長)

人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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