ヒトと組織の戦略に『パーパス』を活用する⑩

■組織の問題は3年前に意思決定したことから(その1)
 
コンサルティングの現場にいると日々、様々な企業からいろいろな相談を受けます。
例えば、A社では、
社員の年齢構成を見てみると、20代、30代の社員層が非常に少なく今後の組織、企業経営を考えた際、あらためて危機感を感じている。今後はあらためて若手人材の採用をどうにかして強化していきたい。そのために会社の広報・PRのしくみや採用面接についての流れやスキル等をテコ入れするとともに、若手社員にとって魅力あるように賃金水準などの処遇等も改善して採用力を強化したい・・・。
 
B社では、
次世代の管理者、経営幹部が全く育っていない。最近、任命された課長層も、肩書は管理職の名称となっているものの現場のベテランプレイヤーとしての経験しかないため、マネジメントができておらず組織内で様々な問題が発生しだしている。
長年、現場の人手が足りない傾向が続いたために、仕事ができる人材ほど、現場のプレイヤーとして各自の担当業務に邁進させてきた背景もあり、ヒューマンスキルやマネジメントスキルを培う経験が少ないまま年齢・キャリアを重ねる傾向が強く、マネジメントができる人材が育っていない。しかしながら、現在の部門長や役員クラスが高齢のため、あと数年で全員が退き、部門やチームを統括、マネジメントできる人材が一挙にいなくなってしまう事態が発生する。このような事情もあり、早急に管理者を育成する必要に迫られている。急ぎ管理者研修を実施したい・・・。
 
Ⅽ社では、
ただいま企業業績も良く、仕事の依頼も多いが人手が足りていない。ただでさえ人手不足の状況であるにも関わらず、近年、社員の離職が増えてきている。苦労して採用した新卒社員がようやく独り立ちできるレベルまでに育て上げた頃に退職してしまう。特に現場の中核人材であり、将来の管理職候補として期待していた30代の社員の離職率が年々高まっていることに危機感を感じている。とりあえず、60才以上の社員層に対しても定年延長のしくみを導入し、労働力不足のカバーに努めるなどしているが、慢性的な人材不足が続いている。人手が足りていないため、結果として、せっかくのビジネスチャンスを逃したり、5年後、10年後には競合他社にシェアも奪われ衰退していく可能性もある。
人材の採用力強化に加え、離職の防止と定着率の向上をはかりたい。最近話題になりだしたアルムナイ制度の導入も行っていきたい・・・。
 
A社、B社、C社という形での事例を記しましたが、実はこの3社に限らず、ほぼ同様、ほぼ同じパターンのお悩みを相談される中小企業が非常に多いことも事実です。
ですから、上記の事例はどこかの企業特有の問題というよりも、今の日本において構造的に発生しやすい共通の問題として捉えていただいても良いと思います。
 
皆さんもご存知のように、日本は今後も総人口の減少と共に、生産年齢人口が減少していきます。その中でも若い人の人口減少が顕著な構造となっています。
このような状況の中で、厚生労働省の令和5年度の調査では、77%の産業で労働力が不足しているという調査結果がでています。
繰り返しとなりますが、人口減という構造は全ての企業にとっての共通の問題でもあるため、例に挙げたA社、B社、C社で発生している問題は、今後はどのような企業でも発生する可能性がある問題とも言えます。
ここまでは皆さんもよく認識されていることだと思います。
 
さて、今回のブログでは、上記の人口減から発生する組織とヒトの問題に加え、もう1つ『時間』という視点を提示し、組織の問題についてみていきたいと思います。
どのようなことかと言うと、どんな組織でもヒトにまつわる問題が発生した場合、何らかの対策を実施したとしても、対策の効果が出てくるまでには一定の『時間』(年単位)を要する、という視点です。
見方を変えれば、現在発生しているヒトの問題は、ただ今、急に発生したわけではなく、数年前にすでに問題となる予兆が出だしていて、それらが放置されたまま、時間経過とともにどんどん問題が累積していった結果、今日、目に見える大きな問題となっていることが多いということです。
 
それ故、組織・ヒトの問題は『時間』という軸を意識して、対策を行うとともに、『時間』という軸を意識して、将来に備えた準備・投資を行うことが大変重要です。
『時間』という視点を意識し、あらかじめ先行管理を実施し、対策を講じていくほど問題解決に対するコストパフォーマンスも高くなります。その一方で、問題が生じてから後手後手と対策に回るほど問題解決が難しくなり、コストパフォーマンスも悪くなりがちです。
 
人口減という構造の中で企業経営や組織運営をしていく上では、これまで以上に『時間』という軸を意識して問題解決をはかっていくことが大切な時代となったと思います。
 
今回A社、B社、C社と中小企業ではよくある組織上の問題を例に挙げて話を進めましたが、
次回のブログでも組織の問題に対する『時間』という視点を意識した意思決定の大切さについて述べていきたいと思います。

執筆者

花房 孝雄 
(人事戦略研究所 上席コンサルタント)

リクルートグループにて、社員の教育支援に従事。その後、大手コンサルティング会社にて業績改善のためのマーケティング戦略構築などの支援業務に従事。現在は新経営サービスにて大学の研究室、人材アセスメント機関などとの連携による組織開発コンサルティングを実施中。
主な取り組みとして、人的資源管理研究における最新知見を背景とした「信頼」による組織マネジメントや企業ビジョンを構造的に機能させるビジョン浸透コンサルティングを展開中。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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