2024年の初任給水準
賃金制度
昨年に引き続き、賃上げ・ベースアップが高水準で行われ、それに伴って初任給も大幅に引き上げる企業が増えています。では2024年の初任給水準がどの程度になっているのか、調査データを交えてみていきましょう。
一般社団法人労務行政研究所が5月7日に「2024年決定初任給の水準」調査の速報値を公表しています。(対象は、東証プライム上場企業1604 社中、回答のあった 152 社を集計)
調査によれば、2024年度の初任給額(原則として時間外手当、通勤手当を除く諸手当込の所定内賃金額)は、高卒(事務・技術)で193,427円となっており、昨年から11,565円のアップ(前年は6,627円)、大卒239,078円で、昨年から12,346円アップ(前年は6,825円)という大幅な上昇となりました。2020年以降、右肩あがりとなっている初任給ですが、全学歴を合わせて10,000円以上上昇するのは、近年では最高水準となっています。
全産業 | 高校卒 | 短大卒 | 大卒 | 大学院卒修士 |
事務・技術 | 事務 | 事務・技術 | ||
社数(社) | 89 | 80 | 108 | 129 |
24年度初任給(円) | 193,427 | 205,887 | 239,078 | 259,228 |
23年度初任給(円) | 181,565 | 193,800 | 226,078 | 244,790 |
上昇額(円) | 11,862 | 12,087 | 12,346 | 14,438 |
上昇率(%) | 6.5 | 6.2 | 5.4 | 5.9 |
出典:労務行政研究所 <速報>2024年決定初任給の水準
また、学歴別の初任給引上げ額の分布は以下のようになっています。2000円単位ごとに区分されたものですが、10,000円~16,000円の引上げを実施した企業の比率が高くなっています。プライム上場企業を対象にした速報値ではあるものの、大幅な引き上げをした企業が多いことがわかります。
表示がない場合は単位:%
区分 |
学歴区分 | 高校卒 事務技術 |
短大卒 事務 |
大卒 事務技術 |
大学院卒 修士 |
社数(社) | 84 | 84 | 120 | 129 | |
4,000円未満 | 3.5 | 5.3 | 3.1 | 2.6 | |
4,000円以上 6,000円未満 | 8.2 | 4.0 | 7.2 | 1.7 | |
6,000円以上 8,000円未満 | 8.2 | 6.7 | 7.2 | 6.0 | |
8,000円以上 10,000円未満 | 11.8 | 12.0 | 11.3 | 10.3 | |
10,000円以上 12,000円未満 | 20.0 | 18.7 | 14.4 | 16.4 | |
12,000円以上 14,000円未満 | 15.3 | 13.3 | 12.4 | 11.2 | |
14,000円以上 16,000円未満 | 9.4 | 16.0 | 14.4 | 12.9 | |
16,000円以上 18,000円未満 | 9.4 | 8.0 | 5.2 | 6.9 | |
18,000円以上 20,000円未満 | 2.4 | 2.7 | 6.2 | 6.9 | |
20,000円以上 22,000円未満 | 4.7 | 4.0 | 9.3 | 6.0 | |
22,000円以上 24,000円未満 | 1.2 | 4.0 | 4.1 | 3.4 | |
24,000円以上 26,000円未満 | 3.5 | 2.7 | 0.0 | 2.6 | |
26,000円以上 28,000円未満 | 0.0 | 1.3 | 0.0 | 3.4 | |
28,000円以上 30,000円未満 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | |
30,000円以上 | 2.4 | 1.3 | 5.2 | 9.5 | |
最高額(円) | 38,200 | 32,600 | 38,200 | 52,200 | |
最低額(円) | 3,000 | 3,000 | 3,000 | 3,000 |
出典:労務行政研究所 <速報>2024年決定初任給の水準
では中小企業ではどのように推移しているのでしょうか。
下図は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査のデータを加工し、過去10年間の初任給額の推移を示したものです。青線が大卒、緑線が高卒を示しています。2023年時点の大卒の初任給の水準(但し、上記労政時報のデータと異なり、通勤手当が含まれています)を見ると、10人~99人規模の企業で225,400円、1000人以上規模の企業が244,500円となっています。つまり、1000人以上規模と10~99人規模では大卒初任給に約2万円の差異があります。
このことから、上記東証プライム上場企業の調査データから推察して、2024年の中小企業の初任給は22万円前後に達していると考えられます。
継続的な賃上げ・ベースアップの流れに加え、初任給の大幅な引き上げ傾向が続いています。特にここ数年、弊社にいただくご相談でも「今の初任給では全く応募者が来ないので、何とかしたい」という内容が多く寄せられています。
あと数年はこの傾向が続くと予想される中、目先の人件費捻出ではなく、自社の人員構造や生産性の在り方について、より高度に厳しい視点で見直していく必要があるといえるでしょう。
執筆者
川北 智奈美
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)
現場のモチベーションをテーマにした組織開発コンサルティングを展開している。トップと現場の一体化を実現するためのビジョンマネジメント、現場のやる気を高める人事・賃金システム構築など、「現場の活性化」に主眼をおいた組織改革を行っている。 特に経営幹部~管理者のOJTが組織マネジメントの核心であると捉え、計画策定~目標管理体制構築と運用に力を入れている。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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