ヒトと組織の戦略に『パーパス』を活用する⑤
戦略的人事
■企業がパーパスを策定し、機能させた場合のメリットについて(その4)
前回に続き、企業として共感を生み出すことのできる『パーパス(purpose)』があることによって生まれる7つのメリットについて、今回は5つ目「企業としての独自性が文化として定着する(フィロソフィーが定着する)」について解説していきます。
※5つ目のテーマについては、今回のブログ以降、数回にわたり解説いたします。
5.企業としての独自性が文化として定着する(フィロソフィーが定着する)
1)企業の独自性を形成するために必要なこと
資本主義の世界では、他社商品・他社サービスとの違い(差)の大きさが付加価値の違い(差)の大きさとなってきます。ところが皆さんもご存じのように日本ではほぼ全ての商品やサービスはすでに一通り行き渡っている状況です。インターネットの普及に伴い情報伝達のスピードも加速度的に早くなり、何か新しい商品やサービスが生まれても、それらを模倣、追随する商品やサービスがすぐに現れ、時間経過とともに当初存在していた『違い』や『差』がなくなり、同じものとなっていくことが日常的に起こっています。
言葉を換えれば、商品もサービスもどんどん『同質化』の波にのみこまれ、『差別化要素』が消失していく速度が速くなってきている時代であるとも言えます。そして、商品やサービスの『違い』や『差』がなくなり、『同質化』していくほど市場の中で価格競争に巻き込まれ、価格は下がり、付加価値(利益)が低下していく傾向があります。
このような市場環境の中で、どのようにして他社との『違い』や『差』を作り出していくべきか?が今後の企業経営における重要なポイントとなってくるわけですが、皆さんもご存じのように他社との『違い』や『差』はそう簡単につくれないものです。勿論、比較的、簡単につくることのできる『違い』や『差』もありますが、そのようなものほど他社でも簡単にマネすることができ、すぐに『同質化』の波に飲み込まれることが多いものです。
繰り返しとはなりますが、今後も企業として生き残り、勝ち残っていくためには、自社において重要なことを見定め、そこに焦点を当て、磨き上げていくという活動がこれまで以上に大切な時代となってきています。自社独自の『付加価値』を生み出すために『自社独自の何か』にこだわり、つくりあげていく必要があります。
とは言うものの、『ヒト、モノ、カネ』といった経営資源は限られています。
限られた経営資源を有効に活かすためには、より中長期的な視点で、かつ焦点を絞った上で、自社独自の付加価値を創るための継続的な活動をしていくことが大切です。
そして、自社ならではの『独自性・差別化要素』が生まれ、それらが磨き上げられるほど、同質化や価格競争を避けることが可能となってきます。
前置きが長くなりましたが、これまで述べてきたこともふまえて、パーパスとの関係性について記したいと思います。
企業の独自性や差別化要素はその性質上、瞬間的に形成されることはありません。M&Aのような形で他の企業を統合する場合は別ですが、通常は一定の時間経過の中で形成されていくものです。それ故、企業の独自性を創り出すプロセスには、その会社が持つ組織固有の体質、『固有の企業文化』が大きな影響を及ぼします。(ここで述べている『企業文化』については、組織風土という意味合いで捉えていただいても結構です。)
1人1人の社員それぞれに性格や個性、行動習慣、人格があるように、企業においても『社員の集合体=法人格』としての行動パターン・行動習慣が存在しています。
そして、企業・組織としての行動習慣・行動パターンは必ず一定期間の後に『行動の結果』として現れてきます。
このことについては、組織や人事の世界でも突き詰めて取り上げられていないように実感していますが、一般的に想像されている以上に企業の中で日々、無意識的に繰り返される行動習慣・行動パターンは、その企業のイノベーションや新商品開発が成功するか否か?について大きな影響を及ぼしています。
上記の文脈をふまえて、次回は『企業文化』が企業の商品開発や業績結果に対して影響を及ぼす点について解説していきたいと思います。
◆お知らせ
『パーパス(purpose)コンサルティングのページをリニューアルしました』
執筆者
花房 孝雄
(人事戦略研究所 上席コンサルタント)
リクルートグループにて、社員の教育支援に従事。その後、大手コンサルティング会社にて業績改善のためのマーケティング戦略構築などの支援業務に従事。現在は新経営サービスにて大学の研究室、人材アセスメント機関などとの連携による組織開発コンサルティングを実施中。
主な取り組みとして、人的資源管理研究における最新知見を背景とした「信頼」による組織マネジメントや企業ビジョンを構造的に機能させるビジョン浸透コンサルティングを展開中。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。