令和5年度(2023年度)最低賃金はついに全国加重平均で1000円超え

~アップ額は過去最高の43円に~

 

■全国加重平均額は昨年度から43円引上げの1,004円に

令和5年度(2023年度)の全都道府県の最低賃金改定額の答申が出そろいました。

過去最高額の改定となった今年の最低賃金。厚生労働省の中央最低賃金審議会が示した目安では全国平均で41円、加重平均で1,002円となっていましたが、各都道府県側で、目安よりも高い答申が行われたことで、引き上げ額平均は43円、全国加重平均で1,004円となりました。
 

令和5年全都道府県の最低賃金改定額の答申状況

 

史上最高額の引上げとなり、多くの中堅・中小企業が影響を受けることになりそうです。
例えば、パート社員100名程度を抱え、最低賃金に近い時給で雇用されている場合の人件費増額を簡易に計算すると、以下のようになります。
 
例)パート社員を100名雇用している企業の場合
 ※パート社員1人あたりの月間勤務時間を100時間と仮定
 1人当たりの年間人件費増額=43円(引上げ額)×100時間×12か月=51,600円
 総額人件費増加見込額 51,600円×100名=5,160,000円
 
増額分のみの単純計算でも500万円を超えてきます。社員にとっては相次ぐ物価高の中、貴重な賃金増であることはいうまでもありません。しかしながらパート社員さんの活躍によって現場が成り立っている中小企業にとっては、もはや1企業内の経営努力で対応できる規模ではなくなってきています。
 
■最低賃金引上げ額では過去最高でも、率で見ると過去最高ではない

一方で、「史上最高の最低賃金アップ額」ではあるものの、「アップ率」でみると全国加重平均の引上げ率は4.5%となっており、過去最高というわけではありません。図表②は1978年から2023年の最低賃金の引上げを額と率で示したものです。

 

最低賃金引上げ額の推移

 
その推移を見てみると、1978年から1990年台初めごろまでは、アップ率が最低でも2.2%(1986年)、最高で6.9%(1979年)となっています。ところが1998年以降2006年までは1%に届かないアップ率が続き、2007年以降も1%~2%台と低い水準に留まってきました。
これが2016年に3%台を回復し、さらに働き方改革実行計画が2017年(平成29年)3月に策定され、最低賃金の引上げについて「年率3%を目途として全国加重平均で1000円を目指す」という方針が盛り込まれて以降は、コロナ禍における2020年度を除いて年率3%以上の上昇を続けています。
つまり20年近く低い水準を推移してきたものの、1991年以前には、今年度のアップ率以上の引上げが行われていたことになり、その頃の水準に戻りつつあると見ることもできます。
 
政府の当面の目標であった最低賃金額は越えたものの、先月開かれた「令和国民会議」の中で、岸田総理大臣が「構造的な賃上げにつなげる」意欲を強調しており、賃上げに向けた動きは当面継続すると見込まれます。
賃上げ税制や生産性向上の取り組みなどの支援策が盛り込まれているとはいえ、引き上げ分の人件費捻出に向けて、今後日本企業がどこまで生産性や付加価値を引き上げていけるのか、そして何よりも価格転嫁の循環構造が中小企業に波及していくかが重要なポイントとなりそうです。

執筆者

川北 智奈美 
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)

現場のモチベーションをテーマにした組織開発コンサルティングを展開している。トップと現場の一体化を実現するためのビジョンマネジメント、現場のやる気を高める人事・賃金システム構築など、「現場の活性化」に主眼をおいた組織改革を行っている。 特に経営幹部~管理者のOJTが組織マネジメントの核心であると捉え、計画策定~目標管理体制構築と運用に力を入れている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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