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久しぶりに行う! ベースアップの具体的やり方

 今年1月19日、日本経済団体連合会(経団連)と東京経営者協会は、会員企業に対して実施した「2015年1~6月実施分 昇給・ベースアップ実施状況調査結果」を発表しました[図表1]

[図表1]月例賃金引き上げの実施状況(加工)

暦年 昇給・ベアともに
実施した企業の割合
「昇給とベースアップの区別のある企業」の賃上げ率
昇給 ベースアップ 月例賃金引き上げ
2011年 2.6 2.00 0.01 2.01
2012年 4.1 1.96 0.02 1.98
2013年 9.5 1.88 0.08 1.96
2014年 53.1 1.96 0.30 2.26
2015年 64.8 1.95 0.44 2.39

 一方、経済産業省が昨年8月に発表した「平成27年(2015年)企業の賃上げに関するフォローアップ調査」によると、[図表2]のような結果でした。

[図表2]ベースアップを実施した企業の割合

調査対象 2015年 2014年 増 減
大手企業 66.8 52.7 +14.1ポイント
中小企業 26.9 22.2 +4.7ポイント

 経団連や東京経営者協会の会員企業は大企業中心ですので、経済産業省調査の大手企業とほぼ同水準の調査結果となっています。2015年は大企業の3分の2程度がベースアップを実施したのに対して、中小企業では4分の1程度しか実施していないということになります。それでも、前年よりは増加傾向にありますので、ベースアップを実施するかどうかは、今年も昇給検討時の焦点となりそうです。

 とはいえ、経団連と東京経営者協会の調査結果を見ても、2013年まではほとんどの会社でベースアップを行っていませんでした。すなわち、"久しぶりに"実施する企業がここ2~3年で続出したことになります。
 そこで、ベースアップを実施する際には、実務的にどのように行えばいいのかを考えてみましょう。

「定期昇給」と「ベースアップ」

 定期昇給とは、各社の給与制度に基づき実施される、通常年1回の給与改定を指しています。年齢給や勤続給であれば、加齢や勤続1年経過による自動昇給。資格等級別の能力給なら、人事評価による昇給ということになります。近年は給与制度も多様化しており、洗い替え方式の成果給などを採り入れているケースでは、「定期昇給」という概念自体が存在しないかもしれません。しかしながら、いまだに多くの会社では、定期昇給制度が実施されています。

 ただし、定期昇給は会社全体の給与総額アップとイコールではありません。特に大企業においては、各年齢層に一定数の社員が在籍しています。すると、確かに30歳の社員は31歳になると1年分昇給しますが、59歳の社員は翌年60歳となり定年を迎え、再雇用されたとしても給与額は下がるでしょう。また、定年前であっても、一定年齢以上の昇給ストップや減給措置、役職定年制などにより、給与ダウンする会社も珍しくありません。

 一方で、加齢や人事評価による昇給以外にも、「資格等級アップによる昇格昇給」や「役職昇進による役割給や役職手当の昇給」も含めて、定期昇給として扱っている会社もあります。さすがに、家族手当や住宅手当など生活関連手当の上昇を「昇給率」に加えている会社はないと思いますが、各社で捉えている昇給率や賃上げ率の定義は、微妙に異なります。

 定期昇給がどの程度給与総額に影響を与えるかについては、社員の年齢構成のほか、その年の昇格の多寡などによっても変わってくるのです。

 片や、ベースアップは、賃金水準の引き上げです。賃金表のある会社では、賃金表の書き換え(引き上げ)ということになります。こちらは毎年確実に行われるわけではなく、企業業績が好調な場合、世間の賃金水準が上昇している場合、他社との賃金競争力改善が必要な場合などに行われます。

賃金表の書き換えによる「ベースアップ」

 では、自社に能力給や年齢給などの賃金表が存在するとして、どのようにしてベースアップを行えばよいのでしょうか。

 大ざっぱに言えば、「額」か「率」のいずれかで、賃金表を書き換えることになります。
 「額」で行う場合、例えば1人当たり2000円のベースアップを行うとすれば、単純に一律で2000円ずつ引き上げる方法が一つ。これ以外にも、傾斜をつけることもできます。若年層を引き上げたいとか、中堅層に重点配分したい、といったケースです。
 次の[図表3]は、能力給表を書き換える際の、重点方針ごとの改定イメージです。

[図表3]能力給表を書き換えるケース

等級(モデル年齢) 現在の下限額
6級(40歳~) 34万円~
5級(36歳~) 31万円~
4級(32歳~) 27万円~
3級(28歳~) 24万円~
2級(24歳~) 22万円~
1級(20歳~) 20万円~

一律アップ 若年層重点化 中堅層重点化
34.2万円~ 34.1万円~ 34.3万円~
31.2万円~ 31.1万円~ 31.3万円~
27.2万円~ 27.1万円~ 27.3万円~
24.2万円~ 24.3万円~ 24.1万円~
22.2万円~ 22.3万円~ 22.1万円~
21.2万円~ 20.3万円~ 20.1万円~

「率」で行う場合も、基本的に同様です。仮に、0.5%分のベースアップを行うのであれば、賃金表に一律で1.005を掛け合わせればいいですし、傾斜をつけたいなら、重点方針に応じて、掛け率を調整すればよいのです。

 なお、「額」でも「率」でも一律アップさせる場合は問題ありませんが、傾斜をつけてアップさせる場合には、全社員の合計が予定額に収まっているか、シミュレーションしておくことが必要です。等級や年齢ごとの人員構成によって、合計額が変わってくるからです。

賃金表の書き換え以外の「ベースアップ」

 これは、さまざまなケースが考えられますが、「加給」など金額調整のための給与項目が存在するのであれば、ベースアップ分を加給に上乗せすればよいでしょう。この場合も、「額」でも「率」でも加算できますし、一律でも傾斜配分でも可能です。

 あるいは、等級ごとの資格給を引き上げることや、管理職層の賃金の底上げを図りたい場合には、役職手当の改善などに充当することもできます。ただし、労働組合がある会社なら、組合員給与のベースアップを要求するでしょうから、この辺りは労使交渉次第でしょうか。

 さて、今年は「何十年ぶりかでベースアップを行う」という会社もあると思いますので、このようなテーマを取り上げました。消費税アップや社会保険料の負担増により、サラリーマンの可処分所得は年々圧迫傾向にあります。2016年は、年明けから国内外の経済が不安定な状況を見せていますが、収益が改善し、人件費の支払い余力の高い会社については、社員の待遇改善に向けたベースアップを検討してみられてはと考えます。

執筆者:山口俊一

人事戦略研究所 所長

人事コンサルティング、講演、執筆活動を中心に活躍している。職種別人事をベースにした独自の発想と企業の実状に沿った指導により全国からコンサルティング依頼を受け、定評を得ている。現在までに中小企業から一部上場企業まで、200社以上のコンサルティング実績を持つ。主なコンサルティングテーマは人事評価・賃金制度の構築、組織運営など。

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※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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