久しぶりに行う! ベースアップの具体的やり方

2023年 賃上げに関するアンケート調査結果(弊社実施、調査期間2023年1月31日~2023年2月10日/集計企業数134社)では、回答企業(規模計)のうち6割が、2023年の給与改定において、「例年よりも高い賃上げを実施済み又は実施を決めている」「例年よりも高い賃上げに向けて検討中である」と回答しています。(図表1)

 

またこれを規模別でみると、300名以上で57%、100名以上300名未満で70%、50名以上100名未満で60%、50名未満の企業で52%となっています。50名未満でやや低い傾向はみられるものの、例年よりも高い賃上げを実施・検討している企業が、企業規模を問わず半数以上を占めていることがわかります。

 

 

2023年 賃上げに関するアンケート調査結果

 

 

また賃上げをどのような方法で実施するか複数回答で聞いたところ、基本給に一定額を上乗せすると回答した企業が、企業規模を問わず最多となっています。(図表2)

 

 

2023年 賃上げに関するアンケート調査結果

 

 

一方で、厚生労働省の「賃金引上げ等の実態に関する調査」の近年の状況(図表3)を見てみると、ベースアップ等の実施状況別企業割合(定期昇給制度がある企業/管理職を除く一般職データ)は、5000人以上の企業で45~50%程度となっているものの100~299人規模の中小企業では、25~30%程度となっています。つまり今年は”久しぶりに”ベースアップを実施する企業が一定数あるものと考えられます。

 

 

賃金引上げ等の実態に関する調査

 

 

そこで、ベースアップを実施する際には、実務的にどのように行えばいいのかを考えてみましょう。

 

「定期昇給」と「ベースアップ」

定期昇給とは、各社の給与制度に基づき実施される、通常年1回の給与改定を指しています。年齢給や勤続給であれば、加齢や勤続1年経過による自動昇給。資格等級別の能力給なら、人事評価による昇給ということになります。近年は給与制度も多様化しており、洗い替え方式の成果給などを採り入れているケースでは、「定期昇給」という概念自体が存在しないかもしれません。しかしながら、いまだに多くの会社では、定期昇給制度が実施されています。

 

ただし、定期昇給は会社全体の給与総額アップとイコールではありません。特に大企業においては、各年齢層に一定数の社員が在籍しています。すると、確かに30歳の社員は31歳になると1年分昇給しますが、59歳の社員は翌年60歳となり定年を迎え、再雇用されたとしても給与額は下がるでしょう。また、定年前であっても、一定年齢以上の昇給ストップや減給措置、役職定年制などにより、給与ダウンする会社も珍しくありません。

 

一方で、加齢や人事評価による昇給以外にも、「資格等級アップによる昇格昇給」や「役職昇進による役割給や役職手当の昇給」も含めて、定期昇給として扱っている会社もあります。さすがに、家族手当や住宅手当など生活関連手当の上昇を「昇給率」に加えている会社はないと思いますが、各社で捉えている昇給率や賃上げ率の定義は、微妙に異なります。

 

定期昇給がどの程度給与総額に影響を与えるかについては、社員の年齢構成のほか、その年の昇格の多寡などによっても変わってくるのです。

 

 

片や、ベースアップは、賃金水準の引き上げです。賃金表のある会社では、賃金表の書き換え(引き上げ)ということになります。こちらは毎年確実に行われるわけではなく、企業業績が好調な場合、世間の賃金水準が上昇している場合、他社との賃金競争力改善が必要な場合などに行われます。

 

賃金表の書き換えによる「ベースアップ」

では、自社に能力給や年齢給などの賃金表が存在するとして、どのようにしてベースアップを行えばよいのでしょうか。

大ざっぱに言えば、「額」か「率」のいずれかで、賃金表を書き換えることになります。

「額」で行う場合、例えば1人当たり2000円のベースアップを行うとすれば、単純に一律で2000円ずつ引き上げる方法が一つ。これ以外にも、傾斜をつけることもできます。若年層を引き上げたいとか、中堅層に重点配分したい、といったケースです。

 

次の[図表4]は、能力給表を書き換える際の、重点方針ごとの改定イメージです。

 

[図表4]能力給表を書き換えるケース

能力給表を書き換えるケース

 

「率」で行う場合も、基本的に同様です。仮に、0.5%分のベースアップを行うのであれば、賃金表に一律で1.005を掛け合わせればいいですし、傾斜をつけたいなら、重点方針に応じて、掛け率を調整すればよいのです。

 

なお、「額」でも「率」でも一律アップさせる場合は問題ありませんが、傾斜をつけてアップさせる場合には、全社員の合計が予定額に収まっているか、シミュレーションしておくことが必要です。等級や年齢ごとの人員構成によって、合計額が変わってくるからです。

 

 

賃金表の書き換え以外の「ベースアップ」

これは、さまざまなケースが考えられますが、「加給」など金額調整のための給与項目が存在するのであれば、ベースアップ分を加給に上乗せすればよいでしょう。この場合も、「額」でも「率」でも加算できますし、一律でも傾斜配分でも可能です。

 

あるいは、等級ごとの資格給を引き上げることや、管理職層の賃金の底上げを図りたい場合には、役職手当の改善などに充当することもできます。ただし、労働組合がある会社なら、組合員給与のベースアップを要求するでしょうから、この辺りは労使交渉次第でしょうか。

 

さて、今年に入って「ベースアップを行いたい」「初任給を引き上げたい」という企業から

の問い合わせが相次いでいます。せっかく人件費を増加させるなら、社員の生活支援だけに

留まらず、人材採用や定着など、自社にとって効果的な賃上げを実施いただければと考えます。

 

 

※本ブログは2016年に執筆したものを、2023年2月に情報更新しています。

 

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賃金(給与・賞与)制度策定・構築コンサルティング

執筆者

山口 俊一 
(代表取締役社長)

人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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