「選択制」確定拠出年金という選択
人事制度
「選択制」確定拠出年金をご存知でしょうか。
確定拠出年金は、月々の掛金を、あらかじめ設定された投資商品(貯金や投資信託)の中から、社員本人の判断で資産運用する年金制度です。その中でも、「選択制」確定拠出年金は、年金掛金として拠出するか、毎月の給与として受けとるかを、社員が選択できる制度です。
給与の一部を原資として掛金を捻出するケースが多く、会社が新たに資金負担することなく導入できるのが特徴です。もちろん、会社がこれに上乗せして、掛金を拠出することも可能です。
例えば、基本給のうち一定額を、「ライフプラン手当」のような名目で切り出して制度設計します。それを、社員各人が、給与として全額受取るか、一部または全額を年金掛金として拠出するかを選択するのです。
例)基本給20万円の社員 → 新基本給18万円+ライフプラン手当2万円
基本給30万円の社員 → 新基本給28万円+ライフプラン手当2万円
↓
各人が、全額もしくは一部金額について、掛金拠出か給与受取りを選択
選択制確定拠出年金の最大のメリットは、掛金分が所得から控除されるため、所得税、住民税、社会保険料が軽減できることです。毎月2万円を掛金とした場合、年収500万円の社員で、年間6万円前後の軽減効果(手取り増)が見込めます。
会社側、社員側の主なメリットは、以下の通りです。
【会社側】
主なメリット
●資金負担なしで、社員に対する年金制度が導入できる
●掛金に応じて、社会保険料の会社負担分が軽減される
主なデメリット
●運用コストが発生する(社会保険料負担軽減とのプラスマイナス)
●運用の手間が増える(投資教育など)
【社員側】
主なメリット
●掛金に応じて、所得税、住民税、社会保険料が軽減される
●運用益が非課税となる
主なデメリット
●受取りが、原則60歳以降となる(貯金のように必要な時に使えない)
●社会保険料の軽減分、公的年金の額が減少する
2015年10月現在では、他の企業年金(確定給付年金など)がある会社:月27,500円、他の企業年金がない会社:月55,000円まで拠出可能です。ただし、「選択制」とはいえ、上限額目一杯に掛金設定しようとしても、給与水準の低い社員がいれば、都道府県ごとの最低賃金に抵触する恐れがあります。そのため、給与水準との見合いで、制度設計しなければなりません。
例)給与16.5万円の社員:16.5万円-5.5万円=11万円
月間所定労働170時間:11万円÷170H=時給換算で647円
↓
最低賃金に抵触
また、本制度導入により、残業代の時間単価が減額されるようなことがあっては、社員にとって不利益変更となっていまいます。そのため、先ほどのケースであれば、「ライフプラン手当」も残業代の単価に入れておくなどの措置が必要となります。
このように、いくつかの留意点はあるものの、退職金水準の低い中小企業にとっては、非常に有効なしくみです。
是非一度、導入を検討されては、いかがでしょうか。
執筆者
山口 俊一
(代表取締役社長)
人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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