配偶者控除廃止を見据えた、家族手当の見直し方

トヨタ自動車が、家族手当の見直しを検討しています。扶養配偶者に対する手当をなくし、子どもへの手当を増額する。共働き世帯が増え、専業主婦(主夫)世帯だけを優遇する手当は、組織内での公平性を考えれば見直しが必要というのです。

 
さて、早ければ2017年にも廃止が検討されている、所得税の配偶者控除。
 
もし廃止されれば、多くの会社が、家族手当の見直しを迫られることになるでしょう。労務行政研究所の2013年調査でも、配偶者に対する手当がある会社では、68.1%が収入制限を設定しており、そのうちの約3分の2が「所得税法上の控除対象(=年収103万円以下)」を判断基準にしています。
 
もちろん、「当社は、引き続き103万円を基準にします」とすることは不可能ではありません。しかし、配偶者控除が廃止されれば、103万円という金額自体が根拠を持たなくなってしまいます。また、年末調整時に配偶者所得をチェックすることが困難になる、という実務上の問題も想定されます。いずれにせよ、何らかの見直しは避けられません。
 
もし、配偶者に対する家族手当を廃止するならば、どのような選択肢があるでしょうか。会社全体の賃金総額は変えない、という前提で考えてみましょう。
 
【案1】子どもへの手当を増額する
トヨタの検討案と同様に、配偶者分の原資を子ども支援に振り替えるという選択です。分かりやすくするため、扶養配偶者1万円、子ども1人につき5,000円支給している企業のケースで考えてみましょう。たとえば、配偶者0円、子ども1人につき1万円とした場合、世帯構成ごとの増減額は、以下のようになります。
 
※ここでは仮に、世帯主である従業員数が500人(単身者は除く)の企業を想定し、世帯構成別の人数(表中の「対象人数」)について、総務省統計局「国勢調査」「労働力調査」、厚生労働省「国民生活基礎調査」から試算した人数比で分布している条件で作成しました。
 

家族手当見直し案1

上表のように単純に増額するだけでなく、重点配分することも可能です。例えば、高校生までは授業料低減など、国の支援が充実しています。そこで、実際には最も親の負担が大きくなる、大学生や専門学校生に対しての就学手当に集中配分すれば、かなりの手当増が実現できるでしょう。
 
ただし、【案1】に問題がないわけでもありません。子どもの手当が高くなれば、夫婦いずれの扶養に入れるかによって、企業ごとの負担額に大きく影響します。多くの会社では、家族手当の支給対象社員として「扶養義務のある社員」「扶養義務のある世帯主」といった表現を使っています。
 
夫婦が別の会社に勤務していたとして、奥さんの会社のほうが明らかに高い手当であれば、世帯主を奥さんにしたほうが得になります。逆に、企業にとっては、想定した以上に負担が膨らんでしまう懸念が発生します。ちなみに、住民票の「世帯主」を夫から妻に変更することは、容易にできます。
 
【案2】他の手当や給与項目に振り替える
これは、子どもへの手当ではなく、家族手当以外の給与項目や手当に振り替えるという選択です。
 
例えば、住宅手当や地域手当を増額すれば、住居費や地域物価といった生活補助を充実させることが可能です。これまで、転勤者への支援が不十分だった企業なら、転勤関連手当を手厚くするチャンスかもしれません。
 
高齢化社会の進展という意味からは、親の扶養や介護への支援強化も考えられますが、対象者の設定が複雑になるという問題が発生します。配偶者の親は? 祖父母は? 同居の有無は? 親の収入や資産は?――など、さまざまな条件を考える必要があるからです。
 
【案3】子どもへの手当も含めて廃止する
 
【案1】や【案2】の場合、専業主婦(主夫)世帯と共働き世帯の不公平感は解消できたとしても、単身者とのアンバランスは変わりません。晩婚化が進み、独身者が多数派という職場も増えてきました。評価による昇給差が年間数千円しかつかない会社で、子どもが生まれれば1万円以上給与アップとなることへの是非も考えなければなりません。そこで、子どもに対する分も含め家族手当自体を廃止し、他の給与項目や手当に振り替えるという選択です。
 
仮に社員数1000人の会社で、月500万円の原資が発生するなら、単純に全社員5000円ずつベースアップできます。若手の採用競争力を高めたいなら、初任給など若年層の賃金水準改善に使ってもいいでしょう。また、仕事の役割や成果に対する給与割合を増やしたい会社なら、役職手当や成果給などの増額に充てることも考えられます。
 
移行措置を考える

家族手当見直し案 移行措置を考える

改定案が固まったとしても、どのくらいの期間をかけて、どのように移行するかを検討しないといけません。社員全体としては不利益になっていないとしても、個々の社員にとっては減給者も発生するからです。
通常は、2~3年程度の猶予期間を設定し、新制度に移行します。減額者の場合、下表のパターンAのように毎年段階を追って減額するか、パターンBのような一定期間経過後に一度に減額する方法が考えられます。
 
以上、代表的な見直しパターンを挙げてみましたが、これ以外にも選択肢は考えられます。また、 実際の手当額については、全社員の世帯構成を基に試算し、総額が増えない範囲で設定することになるでしょう。過去何十年にもわたって定着してきた家族手当を見直すのですから、社会情勢や自社の人事方針に沿った入念な検討を行ってください。
 
もし、2017年1月から配偶者控除が廃止されるなら、人事担当者は、そろそろ検討のための下準備をしておかなければなりません。

執筆者

山口 俊一 
(代表取締役社長)

人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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