早期退職と希望退職の違いとは? 割増退職金のリアル

昨今、日産自動車やパナソニックなど、国内大手企業の「早期退職」や「希望退職」のニュースが目立ちます。「なんとなく同じ…?」と思いがちですが、実はこの2つ、導入の背景や目的に、微妙な違いがあります。今回は、早期退職・希望退職と、気になる割増退職金事情を解説します。

 

「早期退職」と「希望退職」の違いと目的

早期退職と希望退職については、報道含め「言葉の使い分けが曖昧」な場合もよくあります。両者は並列というより、早期退職の中に、希望退職が含まれると考えれば、分かりやすいかもしれません。

 

希望退職は、ニュースでよく見る人員削減のパターンです。期間や人数を限定し、広く社内で募集。主な目的は、人件費削減ですが、将来の事業転換や組織刷新を狙う場合もあります。会社側の都合が色濃く、時には“予告されるリストラ”という雰囲気が漂います。

 

一方、早期退職は、常設の制度として導入する企業が多い制度です。例えば「45歳以上で15年以上勤務の社員」など条件を定め、通年で利用可能なケースです。早期退職は、組織を若返らせる新陳代謝が主目的となります。40~50代の社員が自己都合退職を選ぶと、定年まで勤めた場合に比べ退職金が大幅に減るのが日本型雇用の特徴です。そこで、金銭支援(割増退職金)などで早期退職を促し、社員の第二のキャリアを後押しする制度が設けられています。

 

早期退職制度を導入している大企業は約20%強とされる一方、中小企業ではあまり見かけません。

 

早期退職制度の代表的な成功例としては、何と言ってもリクルートでしょう。かつては30代でも1,000万円規模の追加退職金が得られるケースもあり、「10年がむしゃらに働いて独立や転職へ」というカルチャーの形成に寄与しました。今でも平均年齢が若い大企業として知られています。

 

希望退職時の割増退職金

希望退職時の退職金は、通常「会社都合」扱いとなり、自己都合よりも減額されません。さらに割増退職金(特別加算分)が支給されるケースがほとんどです。多くの場合、再就職支援サービスの提供もセットとなります。

一般的に、希望退職の募集は景気悪化時に増加する傾向があります。

 

2024年も東芝、シャープ、オムロン、資生堂、ワコールなど大手企業で実施されました。たとえば、ワコールは2024年に約150人の募集に対し215人が応募し、22億円の費用がかかったと発表しています。費用には、再就職支援なども含まれますが、大半は割増退職金です。ワコールでは、1人当たり約1,000万円の割増退職金が支給された計算になります。このように、上場企業であれば、割増退職金の目安が、IR資料から確認できることも少なくありません。今年2025年のパナソニックのケースでは、1人数千万円の割増退職金が支払われる見通しというニュースも出ています。

 

一方、中小企業になると、「ほとんど割増金がない」ケースも多く、この差は歴然です。

 

ただし、大手企業の場合には、1,000万円単位で支給されたとしても、年収水準も高く、社員としても考えどころです。辞めるか迷っていた人や好条件で転職できる人にはチャンスですが、「ずっと働きたかった派」には厳しい側面もあります。例えば50歳で退職した場合、再雇用まで考えると15年以上の収入とのバランスで判断する必要があるからです。

 

早期退職・希望退職の落とし穴

会社側の早期退職・希望退職の目的は冒頭で述べた通りですが、デメリットがないわけではありません。

狙い通りの人材が退職するとは限らないのが、早期退職や希望退職の難しさです。残ってほしい優秀な人ほど新たな挑戦を求めて辞めていく、というリスクがあるからです。

 

そのため、制度面では限界があるものの、「辞めてほしくない人には積極的に慰留」「逆に辞めてもらいたい人には応募を勧める」など、実際には現場での調整が行われています。

 

上場企業では、希望退職募集など人員削減ニュースが出ると、マーケットが「効率化」を好意的に受け止めて株価上昇する例も少なくありません。

 

しかし、せっかく費用と時間をかけて、採用し育成してきた人材です。早期退職や希望退職を実施する場合は、上記のようなデメリットもあることを十分に認識した上で、慎重に経営判断いただきたいと思います。

 

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執筆者

山口 俊一 
(代表取締役社長)

人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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