2025年 年収の壁引き上げと家族手当・扶養手当への影響
賃金制度
1. 所得税「年収の壁」引き上げの概要
2025年から、所得税が発生する「年収の壁」が103万円から160万円に引き上げられます。この改正により、パートやアルバイトの就業調整行動が変化する可能性が高まっています。今後はさらに178万円への引き上げも議論されており、最低賃金の上昇に合わせた動きが続く見込みです。
2. 社会保険「106万円の壁」「130万円の壁」撤廃と企業への影響
2024年10月からは、従業員51人以上の企業では、週20時間以上・月収8万8,000円以上・2ヶ月超の雇用見込みがある場合、社会保険加入が必要となっています。
更に、2026年10月を目途に、社会保険の「106万円の壁」「130万円の壁」も撤廃される見通しが出ています。これにより、週20時間以上勤務する従業員は、年収に関わらず社会保険加入が義務化されます。これらの改正は、企業の社会保険料負担増を直接もたらします。
3. 家族手当・扶養手当の見直しトレンド
家族手当・扶養手当に関しては、配偶者手当の廃止や縮小、子ども手当へのシフトが進んでいます。国家公務員でも2025年度から配偶者手当を段階的に廃止し、その分を子ども手当に充当する方針です。
家族手当の見直しは政府も推奨しており、他社でも改定事例が増加中です。特に「家族手当の子ども手当化」は、手当総額を維持しやすく、社員への説明もしやすい方法です。
ただし、配偶者手当廃止や減額は社員への不利益変更となるため、移行期間の設定や十分な説明が不可欠です。
4. 扶養基準の見直しと実務対応
家族手当・扶養手当の支給基準を「所得税基準」から「社会保険基準」へ変更する企業も出ています。
2026年以降は、社会保険基準で配偶者を扶養と認める対象者が減少するため、配偶者手当の支給人数が減る可能性が高いです。
一方、所得税基準のままの場合、160万円まで対象が拡大しますので、急増とまではいかなくても、手当支給対象者の拡大が予想されます。
5. 今後の人事施策のポイント
人事部門としては、以下のような対策を検討しておいた方がよさそうです。
■家族手当・扶養手当の支給基準や内容の見直し検討を早めに始める
■社会保険料負担増に備え、賃金・手当体系全体のバランスを再点検する
■手当見直し時は、対象者ごとの影響シミュレーションを行い、移行措置や説明資料を準備する
ダブルワーク(複数社で20時間未満勤務)による社会保険回避など、従業員側の新たな働き方への対応策も検討が必要となるかもしれません。20時間はあくまで1社ごとの勤務時間ですので、2社掛け持ちで、それぞれ20時間未満に収めようとするパート・アルバイトが、増えることが予想されるためです。
まとめ
2025年以降、所得税・社会保険の「年収の壁」改革は、家族手当・扶養手当のあり方や企業の人件費構造に少なからず影響を及ぼします。人事部門としては、法改正の動向を注視しつつ、社員への丁寧な説明と移行措置を含めた制度設計が求められます。
家族手当・扶養手当の具体的な見直し方については、以下のブログを参照ください。
執筆者

山口 俊一
(代表取締役社長)
人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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