2025年は定年延長の年!?

雇用延長に関連した法改正が目白押しの2025年

2025年、雇用延長に関連した様々な法改正がなされます(図表①)。これらの法改正を受け、一部の企業では高年齢者雇用における雇用条件の見直しが必要になります。

先行して2021年4月には70歳までの雇用確保が努力義務になっていることも踏まえ、総じて企業側には高年齢者層への更なる雇用期間の延長と処遇改善が求められていくことになります。企業側の選択肢としては引き続き「継続雇用制度(いわゆる定年再雇用制度)」を活用する方法がありますが、2025年を見据えて「定年延長」の議論を内部的に行ってきた企業も少なくありません。国家公務員に関しては既に2023年から民間企業に先行して定年年齢の段階的引き上げがスタートしていることも相まって、今回の法改正を受けて2025年に定年延長を決定する企業が増加することも十分に予想されます。2025年は「定年延長の年」になるかもしれません。
 
<図表①2025年に予定されている、雇用延長に関連した法改正>

1.高年齢者雇用安定法改正(2025年4月)

・労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主

について、経過措置期間が2025年3月31日で終了

2.年金法改正(2025年4月)

・老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢が65歳まで引き上げ(女性は

5年遅れ)

3.雇用保険法改正(2025年4月)

・高年齢者雇用継続給付金の支給率上限引き下げ(15%⇒10%)

 

高年齢者雇用における自社のスタンスを明確にするところからはじめる

とはいえ、外部環境の変化に押されて、組織体制が整っていないのにも関わらず勢い任せで定年延長まで踏み切ってしまうと後々問題が起きてしまう危険性もあります。あるいは逆に、多くの企業ではまだ継続雇用制度の運用で様子見をすることもできる段階ですが(法律でも完全に定年延長が義務化されているわけではないため)、時間をかけすぎたことで組織内部の様々な問題が顕在化し、定年延長を行うのに最適なタイミングを逃してしまうこともあるかもしれません。

 

何れの方法を選択するにしても、大切なことは「高年齢者雇用における自社のスタンスを明確にするところから始める」ということであり、要は雇用延長という大きなテーマの中で、どのように高年齢者が活躍できる組織を構築していくのか、目標とする状態を予めクリアにしておくことが各企業ごとに求められます。その上で必要な手段を選択するべきであり、手段自体が目的化してしまうことは本来好ましくありません。

 

ここで、筆者がクライアント企業と面談をする際によくご提示することのある枠組みを参考までにご紹介します。

まず、雇用延長に対する手段の選定にあたって必要な、企業のあるべき取り組みステップを4つに分けます。それぞれの詳細な内容はここでは省きますが、ステップ①~③までで自社のあるべき高年齢者雇用の姿を描くことを行い、その上でステップ④で手段の選定を最終的に実施します(図表②)。多くの企業ではこのステップが逆か、あるいはステップ①~③までが無い状態でいきなりステップ④を決定している例が少なくありません。

 
<図表②高年齢者活躍に向けた企業のあるべき取り組みステップ(一例)>

図表②高年齢者活躍に向けた企業のあるべき取り組みステップ(一例)

 

次に、実際の手段選定にあたっては、大きく「定年延長」か「継続雇用制度」かの2択において、メリット・デメリットの精査を行います。ここでのポイントは、会社側からの一方的な目線にならないよう、「会社側視点」「社員側視点」の両方でメリット・デメリットを検討することを推奨します(図表③)。

従前の4ステップとの関連で言えば、多くの企業ではステップ①~③を省いていきなりステップ④から入っているため、それぞれの手段のメリット・デメリットを検討するにしても、自社に落とし込んだ際のイメージがどうしても抽象的になりがちで議論が深まらず、最適な意思決定に繋がっていない(あるいは意思決定ができない)ケースもよく見かけます。そうしたことからも、改めてステップ①~③を経ることが重要(どの程度深ぼって検討するかという粒度は企業ごとに異なるとして)であると考えます。

 
<図表③定年延長、継続雇用制度、それぞれのメリット・デメリット整理(一例)>

図表③定年延長、継続雇用制度、それぞれのメリット・デメリット整理(一例)

 

外部専門機関を通じた情報収集やアドバイスを有効活用する

雇用延長に関しては民間企業でも取り組みが遅く、先進的な成功事例もまだまだ少ないため、自社での取り組みに際して活用できる情報が少ないということも大きな課題とであると考えています。

そうした中において、外部の専門機関を通じて幅広く情報収集を行ったり、アドバイスを受けるといった機会も有効でしょう。先行して取り組んだ企業では実際にどういう組織課題があり、どういう目標を立て、実際に定年延長または継続雇用制度の運用でどのような成果が出たのか(あるいは出なかったのか)、という情報を事前に自社の取り組みに当てはめてシミュレートすることにより、より最適な意思決定に繋げることが可能になるでしょう。

手前味噌ではありますが、筆者の所属する新経営サービス人事戦略研究所においても、多くのクライアント先で日々取り組みを支援していますので、お気軽にお問合せください(※)。

 
※1 「定年再雇用・定年延長」人事制度コンサルティング サービス概要

https://jinji.jp/hrconsulting/retirement_age/

※2 専門情報サイト「定年延長.com」

https://teinen-encho.com/

 

執筆者

森中 謙介 
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)

人事制度構築・改善を中心にコンサルティングを行う。業種・業態ごとの実態に沿った制度設計はもちろんのこと、人材育成との効果的な連動、社員の高齢化への対応など、経営課題のトレンドに沿った最適な人事制度を日々提案し、実績を重ねている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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